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<遺跡>認識昨今 [遺跡問題]

『遺跡保存の事典』 三省堂 1990年6月25日:文化財保存全国協議会 編
「遺跡とは、過去の人間の生活・行動の痕跡であり、一定の空間・物質的資料をもつ場所そのものである。」(p.10)
「考古学研究者や歴史愛好者、文化財保護行政機関は、地表に散布した遺物、遺構、過去の地名・記録・伝承によって、遺跡を発見し、調査する。そして遺跡調査カード、市町村史、遺跡地名表、遺跡地図に記されて、「周知の遺跡」(登録遺跡)となるのである。
日本全国の遺跡は、表のように約二九万箇所あり、未調査の土地や近世~現代に形成された遺跡を加えれば、実数は四○万箇所を超えるだろう。」(p.12)

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<遺跡>≒雲説 [遺跡問題]

薄い雲、厚い雲。
ある所は薄く、やがて次第に厚くなっていく雲。
途切れ途切れの雲。規則正しく並ぶ雲。
ポツンポツンと散在している雲。
一筋だけ道のように走る雲。

徐々に密度を増しながら、やがて一面の雲へと連なっていく。
どこから、どこまでなどということは、言えない。
気が付いたら、雲の中にいる。

雲海。そこにも、一様な雲は、ない。
ある所は厚く盛り上がり、ある所はへこんでいる。
筋が幾重にも出来ている箇所がある。
大きく畝のようになっている箇所がある。
窓のようにぽっかりと穴が開いている場所がある。

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器官なき身体 [遺跡問題]

限りなく最低賃金に近い数字で泥だらけになりながら働いている我が愛すべき「ジョーンズ」たちから、宿題をいただいた。

「丘に掘られた横穴は遺構ですけど、その丘は遺跡ですか?」

う~ん、これは難問である。
崖から10m横に掘られた地表面から5m下の横穴は、平面図では点線で記されるだろう。横穴直上の場所が横穴構築から全く人為的な活動がなされずに何の痕跡も記されなかったとしたら、そのエリアにおける地表面上の人為痕跡は、横穴の開口部分だけということになる。

あるいはそれが網の目のように広がる防空壕だったら、どうなるか。
足元に広がっている(かもしれない)未だ知られることのない過去の痕跡群。

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<遺跡>は幾つあるのか [遺跡問題]

「今、1年間に1万件ほどの遺跡を全国で掘っており、その絶対多数は、調査が終わるとなくなってしまいます。・・・遺跡がなくなって考古学が滅びるのが先か、資料を研究者が扱わなくなって考古学が滅びるのが先か、気がかりです。」(佐原真1997「喜びと悲しみの学問」p.7)という文章があった。
あるいは「日本に存在する遺跡の総数は数え方や分布調査の進展などによって、年々増加しているが、おおよそ30万ヶ所以上といわれている。だが、1年間に1万件近くの調査が行なわれている昨今の実状からすると、あと数十年で日本の遺跡は壊滅する恐れがある。」(鈴木公雄1997『考古学がわかる事典』p.253)ともされている。

本当にそうなのだろうか?

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遺跡とは(6) [遺跡問題]

「遺跡という記憶の場は、それが「痕跡」であるがゆえにこそ、そうした「記憶しえない死者や事物という全き他者」へのinaccessible access(あるいはaccessible unaccess)を提供する。ゆえに、私たちはそろそろ、「遺跡をアイデンティティ形成の手段」へと矮小化する遺跡利用について、その「他者への記憶への原的な暴力」という観点から、再考すべき時期にきているのである。」(佐藤2006)

私たちは、「器官なき身体」をどのように区切り、切り取り、「遺跡化」し、名付け、「利用」しているのか?
それは、自らのセルフ・イメージ(自画像)形成のための、アザーネス(他者性)創出の営みを問うことである。

過去における他者の恣意的な創出は、現在における他者の恣意的な創出と通底する。
考古学者が、歴史学者が、自らの欲望のままに、研究対象を選び取り、選び取ったという意識もないままに、恣意的な過去のイメージ、他者性を作り出す。作り出したイメージを、社会に提示する。押し付ける。これを「過去に対する暴力」という。
同じように、人類学者が、自らの欲望のままに、研究対象(例えばオリエント)を切り出し、作り出す。これは、「現在に対する暴力」として作動している。

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遺跡とは(5) [遺跡問題]

「遺跡化」の解明、そして「遺跡化」の機能、すなわち<遺跡>が果している社会的機能について、有する意味と役割について明らかにすることが当面の課題であることを指摘した。

「<遺跡>という名の記号が果している役割、考古学的言説の中心的対象としての<遺跡>がいかに編制されているかを明らかにすること、このことが考古学の社会的機能、例えば都市空間の再開発事業において<遺跡>認識が果す意味を再確認する契機ともなる。」(五十嵐2005a「遺跡地図論」p.104)

 遠い遥か昔の、今は忘れ去られてしまった、そして苔むして土に埋もれた廃墟。省みる者もいない、打ち捨てられた過去の痕跡を掘り返し、かつてなされた人びとの営みを復元する。それは、今現在に生きる私たちから見れば、理解することが困難な異文化である。
それは、遠い未知の大陸に住む見知らぬ人々の想像を絶する、生活習慣も、習俗も異なる人々に対するのと同じ感覚、異文化感覚なのである。

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遺跡とは(4) [遺跡問題]

次に、「<遺跡>はどのように認識されているのか」という問題である。言い換えれば、私たちは<遺跡>をどのように認識しているか、ということである。

掘り出した痕跡を、あるがままにそのまま認識して語るなどということが有りえないことは、周知の事柄となっている。
残されているもの、残り方、残され方など「意味されるもの」が、そのまま私たちが語っているもの、語り方、語られ方など「意味するもの」そのものではない、ということ。
ナイーブで素朴な日本考古学においても、「考古学的認識に関する基本的な問題」として、ようやく正面から取り上げられるようになってきた(福田敏一2005『方法としての考古学』7-55)。

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遺跡とは(3) [遺跡問題]

論点は、大きく分けて二つになる。
一つは、「そもそも遺跡とは、何か」という問い(what)に対応するもの。
<遺跡>の存在論(ontology)とも言うべきものである。
今一つは、「そうした遺跡は、どのように認識されるのか」という問い(how)に対応されるもの。
<遺跡>の認識論(epistemology)とも言うべきものである。

両者は、ある部分密接不離に関係しあっているが、大まかに区分して考えることが、問題を解きほぐしていく上で大切である。

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WAC2006(summary) [遺跡問題]

当初送った原稿に対して大会テーマに関連した一文を加筆するように事務局から注文が付き、書き直して送りなおしたのに、結局当初の文章が掲載された、といういわくつきのサマリーである。

S25-01
 Do sites exist? : issues in archaeological "site"
 How should we view an archaeological site? An archaeological site is a multi-complex formation where various traces overlap. These traces belong to different time periods and are different in extent. Therefore it is difficult to determine the boundary of the site. When archaeology was formed in the 19th century, the site concept was made an indispensable element of the discipline. This concept explained the specified meaning of a site; a place which has a definite area in a certain extent. This is a substantial view. We regard such an archaeological site as a substantial matter, and perform our daily excavation on the basis of this view. The cognition of the archaeological sites is a crucial element in disciplinary practices. The myth of "sites" comes from prehistoric site images. However, modern and post-modern sites go against our willful ideas about sites. Based on a substantial view of the "site", a Japanese classification and administration system for archaeological sites named "houzou-chi", was established and through its use, the "site" is further substantiated. However, the "site" concept includes a principally unsolvable contradiction and it is important to understand that the "site" is a socially constructed concept and it is impossible to put a site in only one or two categories. By clarifying the "site problem", we should critically review the structure that maintains the Japanese view on archaeological site.

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遺跡とは(2) [遺跡問題]

型式論について考えている時に、考えた。
<遺跡>の型式とは、何だろうか?
型式学論議では、何故<遺跡>の型式について語らないのだろう?

土器型式や石器型式といった「遺物型式」、そして僅かながらも住居(住居址)型式や炉型式といった「遺構型式」は、論じられている。
それでは、<遺跡>型式とは、どのようなものなのか?

<遺跡>の種類ということは、言われている。曰く、生産遺跡、埋納遺跡、墳墓遺跡、集落遺跡・・・
あるいは、立地状況からの分類もなされている。曰く、泥炭層遺跡、洞窟遺跡、開地遺跡、水底遺跡・・・

もし、<遺跡>型式について述べるならば、当然、<遺跡>の型・形・形状について、明確に把握することが前提となろう。形が把握できないものに、型式は認定できないからだ。
それでは、<遺跡>の形とはどのようなものなのか?

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