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<遺跡>認識昨今 [遺跡問題]

『遺跡保存の事典』 三省堂 1990年6月25日:文化財保存全国協議会 編
「遺跡とは、過去の人間の生活・行動の痕跡であり、一定の空間・物質的資料をもつ場所そのものである。」(p.10)
「考古学研究者や歴史愛好者、文化財保護行政機関は、地表に散布した遺物、遺構、過去の地名・記録・伝承によって、遺跡を発見し、調査する。そして遺跡調査カード、市町村史、遺跡地名表、遺跡地図に記されて、「周知の遺跡」(登録遺跡)となるのである。
日本全国の遺跡は、表のように約二九万箇所あり、未調査の土地や近世~現代に形成された遺跡を加えれば、実数は四○万箇所を超えるだろう。」(p.12)

『新版 遺跡保存の事典』 平凡社 2006年5月15日:文化財保存全国協議会 編
(ENCYCLOPEDIA OF PRESERVATION OF ARCHAEOLOGICAL HERITAGE -NEW EDITION)
「遺跡とは、過去の人間の生活・行動の痕跡であり、一定の空間をもち、物質的資料を残した場所そのものである。」(p.10)
「考古学研究者や歴史研究団体、文化財保護行政機関は、地表に散布した遺物、遺構、過去の地名・記録・伝承によって、遺跡を発見し、調査する。そして遺跡調査カード、市町村史、遺跡地名表、遺跡地図に記されて、「周知の埋蔵文化財包蔵地」(周知の遺跡)となるのである。
日本全国の周知の遺跡は、表のように約44万ヵ所あり、未調査の土地や近世~現代に形成されて今後ふえる遺跡をくわえれば、実数は50万ヵ所をこえるだろう。」(p.11)

「遺跡とは何か」と題する16年の年月を隔てて記された新旧二つの文章である(十菱1990・2006)。
両者で異なるのは、「周知の遺跡」が「周知の埋蔵文化財包蔵地」に、あるいは周知の遺跡数が「約二九万箇所」から「約44万ヶ所」に、実数が「四〇万箇所」から「50万ヶ所」に嵩上げされた点ぐらいである。

16年が経過しても、日本の<遺跡>認識は、微動だに変化していない!

気になるのは、『新版』において付されている英語訳で、「遺跡」という日本語の多く(書名も含めて)が、”Archaeological heritage”(考古遺産)とされていることである(p.312-315)。
例えば、問題としている第1章 第1節 「遺跡とは何か」は、”What Is Archaeological Heritage?”と訳されている。
但し他の部分では"Archaeological site”が使われている箇所もあり、その使い分けの判断基準(どの文脈では”site”で、どの文脈では”heritage”なのか、共に該当日本語は「遺跡」と思われる)が見えにくい。例えば”Archaeological sites, remains and artifacts were produced by the past human acts, and left until present.”(p.313)など。
「遺跡」と「考古遺産」あるいは「文化遺産」との相互関係、あるいは”Site”と”Archaeological heritage”の相互関係、無意識の使い分けに、私たちの無意識の意識が潜んでいないだろうか?


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コメント 2

カラス天狗

こんにちは。新版平凡社本・・・私も購入(日考協図書頒布会場にて)して、旧版三省堂本と対比していました。気が合いましたね(笑)。『歴史評論』501「遺跡とは何か-文全協編『遺跡保存の事典によせて-』」(1992.1)における書き手の「問い」かけは全く「無視」されています。またしても「対話」は不成立でした。ところで新版は旧版よりも価格が1000円高くなっています。その価値はどこにあるのでしょう? 新章「遺跡保存に尽くした人」の挿入でしょうか。その中に水野清一さんがおりますが・・・『東亜考古学の発達』(1948.6)(とくに「むすび」)を、私たちはどう読み、評価すべきなのでしょう。『事典』に書かれているような美辞麗句だけを「記憶」として継承していいのか疑問です。「忘却の穴」がここにもまた一つ・・・・。それから、保存された遺跡(顕彰されるべき人も・・・)は、彼らにとっての「勝ち組」であり、そこらの遺跡(SITE)と区別して遺産(HERITAGE)として表象する編集方針なのかな、などと思ったりしますが・・・いかがでしょう。しかし、いずれにしても「遺跡」の数を数えているうちは考古資料論的にもアウトだと思います。ちなみに十菱さんは、「日本国内外の戦争遺跡で、数十万を超える遺跡・遺構があると推定される」『続しらべる戦争遺跡の事典』(2003.6)とも述べてます・・・。未調査・未知の遺跡を含めると、(「国内外の戦争遺跡」の数-「国外の戦争遺跡」の数)+「戦争遺跡以外のその他の国内の遺跡」の数=「50万ヵ所をこえる」という「数式」になるわけですね。しかし、どうしてこの「実数」を導きだせたのでしょう。超能力ですかね?すると、これはすでに「第1」でも「第2」でもない「第3考古学」の領域に達しているのでしょうか? ならば勝ち目はありませんので、ひとまず退散いたします(笑)  ではまた。
by カラス天狗 (2006-06-01 17:44) 

五十嵐彰

どーも。”heritage”とは、”inherit”する”age”とか。すなわち、「継承される、受け継がれる時代」、まさに「遺産の相続」というわけです。そこには、必然的に正(プラス)の意味が付されています。世界ナントヤラを頂点に、ピラミッド状に構成される遺産相続のリスト・・・。「地に呪われたる者」が「地」に残した痕跡から、そのピラミッドを転倒させていく試みが求められています。
by 五十嵐彰 (2006-06-01 19:30) 

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