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『北海道・アイヌモシㇼ -セトラー・コロニアリズムの150年-』 [全方位書評]

北海道・アイヌモシㇼ -セトラー・コロニアリズムの150年-『思想』第1184号(2022年12月号)岩波書店

まず「アイヌモシㇼ」の「ㇼ」(小さな「リ」)に戸惑う。
macOSやiOS15では、「アイヌ語キーボード」が実装されている。

「北海道新聞にはアイヌ関連の報道には必ず「民族」と表記する決まりがある。アイヌと呼び捨ては失礼ということらしい。例えば私が記事になるとすると「アイヌ民族のトンコリ奏者」となる。こんな大げさな文字が新聞に載るのは田舎で普通に暮らしている自分にはいささか居心地が悪い。「大和民族の歌手〇〇〇〇」とは普通書かないだろう。」(OKI「民族と呼ばれて」:5.)
 ⇒ ここにも力の不均衡が表れている。数の大小に基づく力の大小。不可視の「大」と「不可視の大」を成立させるために可視化される「小」。わざわざ「女性パイロット」とか「男性客室乗務員」とする意識と同じか。

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ハージ2022『オルター・ポリティクス』 [全方位書評]

ガッサン・ハージ(塩原 良和・川端 浩平 監訳、前川 真裕子・稲津 秀樹・高橋 進之介 訳)2022『オルター・ポリティクス -批判的人類学とラディカルな想像力-』明石書店(Ghassan Hage 2015 "ALTER-POLITICS" Melbourne University Publishing.)

「「批判的思考」を定義する方法はたくさんあるものの、最初に明確にしなければならないのは、批判的(ラディカル)思考と「急進派(ラディカル)」思考は違うということだ。「批判的」であることは、たとえばラディカルな政治とのあいだに明らかな親和性があったとしても、思考の知的資産であり、政治的な資産ではない。社会学者や人類学者は、自分たちを政治的な意味において明確に位置づけるかもしれないし、そうしないかもしれない。同様に、自分たちの政治的志向に基づいて研究を方向づけるかもしれないし、そうしないかもしれない。しかし批判的思考に関与するときには、既存の社会秩序におけるルーティン化されたしがらみを打破する政治に関わらざるをえない。それにもかかわらず、批判的であること本来の知的性質を強調することは、依然として重要である。」(90.)

「ラディカル」という英単語には、二つの意味がある。
前稿で触れた『土偶を読むを読む』(望月編2023)も、その批判対象である『土偶を読む』(竹倉2022)も、ある意味で同じように「批判的」である。前者は後者の内容・姿勢を批判し、後者は自らの説を受け入れない旧態依然たる「日本考古学」を批判する。
しかし、その「批判」には大きな違いがある。
過ちを放置することは許されないというやむにやまれぬ思いからなされる「批判」か、それとも自らを売り出さんがための「批判」かという違いである。
こうした私の想定が合っているかそれとも的外れなのかについては、批判を受けた後に示される対応の様態を見れば明らかになる。「読むを読む」側から「読む」側に対して要請された公開討論会の開催について、現時点で何の反応もないようである。

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望月編2023『土偶を読むを読む』 [全方位書評]

望月 昭秀(縄文ZINE)編 2023『土偶を読むを読む』文学通信

同じような構図の「「石棒から読む」を読む」という文章を記した者として無関心ではいられない。

「『土偶を読む』で目から鱗を落としてしまった人は、もう一度その落とした鱗を探してもらうことになる。実は肯定的なことはこの先とても少ない。それでもかすんだ目をこすり、本書を読み進めてほしい。(中略)
『土偶を読む』の検証は、たとえれば雪かきに近い作業だ。本書を読み終える頃には少しだけその道が歩きやすくなっていることを願う。
雪かきは重労働だ。しかし誰かがやらねばならない。」(望月「はじめに」4-5.)

「鱗を落としてしまった人」として名前が挙げられているのは、「養老孟司氏、鹿島茂氏、いとうせいこう氏、中島岳志氏、松岡正剛氏などなど」(3.)そしてサントリー学芸賞2021年度社会・風俗部門の選考委員各氏である。
つくづく専門外の論評には、慎重になるべきと教えられる。
落とした鱗を探す誠実さを持った論者は、どれだけ居るだろうか。

他者に対する批判作業は重労働である、という言葉も頷ける。
集中部区分、母岩(個体)別資料、砂川三類型、富山、緑川東、<遺跡>問題、考古時間、部材、考古誌批評…
考えてみれば、第2考古学は日々「雪かき」しているようなものだ。
何の報酬もないが、道を歩く人が少しでも歩きやすくなるようにという思いだけを支えにして。

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あるべき<もの>をあるべき<場>へ [研究集会]

    <関西学院大学 韓国学研究センター 国際学術セミナー>
あるべき<もの>をあるべき<場>へ -文化財返還運動を通じて文化財の本当の価値を考える-(五十嵐)

日時:2023年 4月 25日(火)15:10~16:50
場所:関西学院大学 西宮上ヶ原キャンパス B号館302号教室

1.最近の海外動向
2.小倉コレクション
3.戦利品の区分
4.戦利品A:鎮遠、八紘之基柱…
5.戦利品B:三学寺石獅子、鴻臚井碑…
6.<もの>の価値
7.<ひと>・<もの>・<場>
8.眼差しの変容
9.現在の植民地主義
10. 負の遺産としての瑕疵文化財
11. そして総体的な文化財理解へ

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タグ:文化財返還
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