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津嶋2023「盛岡城遠曲輪跡第22・23次調査出土の近現代ガラス瓶」 [論文時評]

津嶋 知弘2023「盛岡城遠曲輪跡第22・23次調査出土の近現代ガラス瓶」『盛岡市遺跡の学び館 学芸レポート』第5号:1-16.

「本稿は、近現代遺物として特徴的なガラス瓶に着目して岩手県内の発掘調査報告書掲載状況と、盛岡市教育委員会(遺跡の学び館)の取り組みを紹介した上で、筆者が担当した盛岡城遠曲輪跡第22・23次調査の発掘報告書(盛岡市教育委員会ほか2022)で別稿報告とした近現代ガラス瓶と、その関連資料の紹介を行うものである。」(1.)

2000年から2021年までの22年間で岩手県内で刊行された25冊の考古誌に498点の近現代ガラス瓶が掲載されているという。このうち293点(59%)は盛岡市の筆者が担当された調査報告であり、筆者が岩手における近現代報告をリードしている状況が窺える。

近年は、ビール瓶に特化した研究報告もなされている(津嶋2024「近代のビール瓶 -盛岡市内出土・採集資料と市場流通資料の事例-」『盛岡市遺跡の学び館 学芸レポート』第7号:1-32.)。

「細谷地遺跡の発掘調査報告書作成は、盛岡市教育委員会が近現代遺物を埋蔵文化財として掲載するテストケースとして資料整理と報告書作成を行った(盛岡市・盛岡市教委2020・2021a・2021b)。ガラス瓶の資料化にあたっては、経費・時間の縮減と情報の最大化を図るため、以下の方法を採用した。
① 実測図化は行わず、デジタルカメラによるカラー写真撮影と陽刻(エンボス)の拓本のみを行う。
② 写真図版はカラーとし、ガラス瓶写真と拓本(スケール入り)を同じ縮尺で並べ、高さを明記する。
③ 観察表を掲載し、寸法・特徴・年代等を明記する。」(4.)

基本的には私が最近実践した報告事例(東京都埋蔵文化財センター調査報告 第365集『八王子市 No.987遺跡』)と同じ掲載方法である。
筆者も記しているように「実測図化の委託経費や人件費等を報告書のカラー写真図版の印刷経費に振り向けた方が、現時点では情報量(色調、形態、陽刻等)を最大化できる」(5.)という極めて合理的な判断である。これは近現代に限らず、近世の報告においても同様であり、こうした事を10年以上前から求めているのに制度設計をする職員あるいは同僚・上司の理解がなかなか得られず、フルカラーの報告が可能になったのはごく最近である。

「盛岡市教育委員会では、遺跡の学び館での展示会を契機として、国指定重要文化財や国登録有形文化財といった近代化遺産・建造物だけでなく、近現代の生活資料(陶磁器・ガラス瓶等)を「埋蔵文化財」として位置付けるべく、2012年以降、発掘調査で近現代遺物を可能な範囲で回収し、報告書への掲載に努めてきた。そして、土地区画整理事業に伴う細谷地遺跡第37・38・40・41次調査の報告書では、テストケースとしてカラー写真と陽刻(エンボス)拓本を用いて廃棄土坑出土近現代ガラス瓶について最大限の資料掲載と年代等考察を行った結果、その年代幅は、明治・大正~昭和の戦時下、戦後~昭和50年代にまで及び、また個体数の組成が全国の都市近郊農村部と共通することが示された。」(14.)

「東京時代」が宣言されるような状況ならばまだしも、地方都市でこうした試みを遂行するにあたって、どれほどの苦労があったのか想像に難くない。取り巻く環境もこうした試みに皆が皆理解を示す人たちばかりとは思えない。そうした中で精力的に成果を発表し続ける姿勢に敬意を表する。こうした試みが蓄積される過程で、周囲の理解も得られて扉は徐々に開かれていくだろう。

「…今後も引き続き文化財保護法に定義する「埋蔵文化財」の範囲を近現代に拡大し続けることについては、①それに係る経費や人員を予算化するコンセンサスを行政・民間の事業者から得られるのか、②近現代遺物の包蔵範囲を全て「周知の埋蔵文化財包蔵地」に追加するのか、③昭和20年(1945)の終戦を境として近代(明治~戦前・戦中)と現代(戦後)で取り扱いを分けるべきでは、といった問題提起がある。」(14.)

①については、要はメリハリの問題だと思う。先史のような調査方法を近現代に適用していたら、限られた期間・予算でとても対応できないだろう。それは収蔵スペースの問題についても同様である。筆者が実践するように<もの>の特性に応じて、こちら側が柔軟に対応する必要があろう。近現代について、やるかやらないか、ゼロかヒャクかといった硬直した姿勢を維持し続ける限り、新たな展開は望めない。

②については、正に<遺跡>問題そのものである。「近現代遺物の包蔵範囲」など区切れることができないことは誰もが同意するであろう。私たちは、どのような場所を調査対象とするのか、調査対象とした場所をどのように調査するのか、そしてそれをどのように呼称するのか、一つひとつが問われてくることになる。そうしたことが、③のような問題にもリンクしてくるだろう。


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