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『東京の遺跡』第127号 [近現代考古学]

東京考古談話会(黒尾 和久 編集)2024年2月25日発行『東京の遺跡』第127号:1-8.

・東京考古談話会シンポジウム2024「近・現代遺跡と東京の考古学」(追川 吉生:1.)
・なぜ「近・現代遺物の編年」なのか(梶木 理央:3.)
・三田小山町再開発地点発掘調査で発見された近代の痕跡(月岡 千栄:4-5.)
・旧豊多摩監獄表門における埋蔵文化財調査について(藤掛 泰尚:6.)
・清瀬市中央公園(旧跡清瀬病院)の確認調査(東野 豊秋:7.)
・「東京時代」の考古学宣言(黒尾 和久:8.)

来る2024年3月17日に開催される研究集会「近・現代遺跡と東京の考古学」に向けての近現代特集号である。
近現代を主題とする研究集会もさることながら、会員の連絡誌とはいえ近現代の特集号が編まれるということも近年において画期的である。

冒頭(追川:1.)で麻布台一丁目、津村薬用植物園と関係した調査・拙論に言及して頂き有難いことである。しかし最初の一文「私たちは今、日本考古学の新たなる研究分野の誕生に立ち会っている」(同前)というのが本当だとしたら、なんという難産なのだろう。なにせ四半世紀前には『現代考古学事典』(安斎 正人編2004、初出は同編2000『用語解説 現代考古学の方法と理論Ⅱ』)の項目として「近現代考古学」が採用されているのだから。
ちなみに冒頭の紹介文について一点だけ訂正させて頂くと、麻布台で一緒に近現代の報告を担当した学友の名前は「天野」ではなく「天内」である。

「編集余白メモ」として「「東京時代」の考古学宣言」(黒尾:8.)が記されている。
「東京時代」とは見慣れない用語だが、だからカギカッコが付されているのだろう。ウィキによれば何かと話題の川勝 平太氏が言い出しっぺとのこと。
時間用語としての「東京時代」(近現代)は、当然のことながら江戸時代(近世)との対比が意識されている。
それでは空間用語としての「近・現代遺跡」は「東京遺跡」ということになろう。しかしそれでは「東京時代の遺跡」なのか「東京という都市の遺跡」なのか判然としない。
同じようなことは「江戸遺跡」にも言えるが、この場合は「江戸時代の遺跡」というよりは「都市江戸の遺跡」としてのニュアンスが定着しているだろう。
だから「東京遺跡」も「江戸遺跡」に引っ張られて、「東京という都市の遺跡」というニュアンスを帯びてくる。だから「東京時代の遺跡」という意味では、「近現代遺跡」が前面に出てくるのだろう。そして『東京の遺跡』という本誌の名称も「東京時代の遺跡」ではなく、「東京都の遺跡」あるいは「東京という地域の遺跡」という意味であり、「東京考古談話会」という団体名称も同様であろう。
だから「東京遺跡」と「東京の遺跡」はわずか一文字の有る無しの違いだが、その意味は大きく異なることになる。前者は「江戸遺跡」の発展形としての「東京遺跡」であり、後者は東京都という行政区画内における「考古学的な遺跡」である。
ちなみに私は「近・現代」とはせずに「近現代」と表記する。意味はあまりない。ナカグロが入ると単に間延びするという感覚的な好みぐらいである。

だから「東京の考古学」も「東京時代の考古学」という意味ではなく、「東京地域の考古学」という意味であろう。
しかし「江戸の考古学」とした場合には、「近世考古学」という意なのか「都市江戸の考古学」なのか、これだけでは判然としない。
やはり時代区分としては、近世-近現代という名称を、<遺跡>名称としては江戸<遺跡>-東京<遺跡>とすべきだと思う。

そして「近現代遺跡と東京の考古学」を論じる際に、何度も言うようだが焦点の<遺跡>問題は避けて通れないだろう。
本誌掲載の各論においても、ある場合には当該考古誌の刊行前という個別の事情はあるにせよ、一様に明確な<遺跡>名称が示されていないのも示唆的である(「三田小山町再開発地点」・「旧豊多摩監獄表門」・「清瀬市中央公園(旧跡清瀬病院)」)。それぞれがそれぞれに苦慮しているということだろうか。「埋蔵文化財包蔵地の登録は受けていない」(東野:8.)という近現代特有の事情が作用している場合もあるだろう。しかし「埋蔵文化財包蔵地の登録」を受けないと、<遺跡>名は名乗れないのだろうか?

例えば「三田小山町再開発地点」は、そこから南東方向に800mほど離れた場所の「三田二丁目町屋跡遺跡」とどのような関係性を有するのだろうか? あるいはそこから北東方向に2km弱ほど離れた場所の「愛宕下武家屋敷群」とは? そして「江戸遺跡」あるいは「東京遺跡」との関係性は?

「近・現代遺物の編年」(梶木:3.)が大切なのはよく分かるのだが、それだけでは従来の先史延長に留まるだろう。そこから、どれだけ<遺跡>問題に踏み込んでいけるかが、来る「近・現代遺跡と東京の考古学」の試金石である。


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