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型式論再考 [総論]

「もちろん、人間の手工品であるかぎりどれをとっても二つが完全に一致することはまずない。一貫した流れ作業で規格部品を組み立ててつくられる自動車の場合でさえ、その買手は買おうとする最新式の車の性能に、一台一台面くらうような差があることに気づくだろう。」(V.G. チャイルド(近藤 義郎・木村 祀子 訳)1969『考古学とは何か』岩波新書703:8.)

何の問題もない第1文に引き続いて記される第2文について、問題はないだろうか。
「一貫した流れ作業で規格部品を組み立ててつくられる自動車」を「手工品」と同様に評価することができるだろうか。
たとえ1950年代のイギリスの「最新式の車の性能に、一台一台面くらうような差がある」としても、その車を組み立てている「規格部品」について「面くらうような差がある」とは思えないのだが。

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文化財は誰のもの? [総論]

アンドリュー・カリー(藤井 留美 訳)2023「特集 文化財は誰のもの?」『ナショナル ジオグラフィック 日本版』2023年3月号(第29巻 第3号 通巻336号):24-61.
Are museums celebrating cultural heritage - or clinging to stolen treasure?

「植民地主義の時代、収集活動は熱狂の域に達した。欧州の強国が探検家に地図を製作させたのは、純粋な知識欲のためではなかった。それと同じで、文化財も自然に集まったわけではなく、人類学者をはじめ、宣教師や貿易商、将校までもが、博物館と結託して世界の驚異と富を欧州に持ち帰ったのだ。博物館の学芸員が、武装した探検隊に希望の品々の収集を託すことさえあった。」(29.)

本稿の筆者Andrew Curryはドイツ・ベルリン在住、写真家Richard Barnesは博物館の所蔵品などを長年撮影しているとのこと(59.)

2023年1月3日にNHK・BS1で放送された「パンドラの箱が開くとき -文化財返還 ヨーロッパの最前線-」と同じような内容にアメリカ先住民の現状を含めたよく吟味された記事である。

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タグ:文化財返還
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構築される「遺跡」 [総論]

構築される「遺跡」-KeMCo建設で発掘したもの・しなかったもの-

期間:2023年3月6日~4月27日(土・日・祝休館、但し3月18日(土)・4月22日(土)は特別開館)
開館時間:11:00~18:00
場所:慶應義塾ミュージアム・コモンズ(三田キャンパス東別館)
主催:慶應義塾ミュージアム・コモンズ、慶應義塾大学民族学考古学研究室
協力:トキオ文化財株式会社

「遺跡」とは何だろうか。一般には、歴史として語られる過去に属する、人々の活動の痕跡が存在する場所をいう。多くの場合、そうした痕跡は地中に埋もれているため、「遺跡」の内容を知るには発掘調査が必要になる。
4年ほど前、慶應義塾(私たち民族学考古学研究室)は、今KeMCoが建っている場所で発掘を行った。(中略)
…私たちはこの発掘で、この地に残る過去の痕跡のすべてを発掘したわけではなかった。例えば、地質や化石などの自然現象の痕跡や、明治期以降の近代・現代の痕跡についてはほとんど発掘していない。実は発掘は、痕跡を選択する行為なのであり、どんな痕跡をどのように発掘するかによって、「遺跡」の範囲や内容は異なるものとなる。つまり「遺跡」と「遺跡」を通して語られる「歴史」は、発掘を行う側の選択によって構築されるものなのである。(会場配布カタログ『構築される「遺跡」:KeMCoで発掘したもの・しなかったもの』:3. 文責 安藤 広道)

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日本学術会議 地域研究委員会 歴史的遺物返還に関する検討分科会 [総論]

日本学術会議に地域研究委員会があり、24期(2017~19)において「歴史的遺物返還に関する検討会」が設置された。その成果として「先住民族との和解と共生 -アイヌの遺骨・副葬品の返還をめぐって- 記録」(2020)が公開されている。

「第24期「歴史的遺物の返還に関する検討分科会」は、先住民族の遺骨と副葬品の返還問題について、特にアイヌ民族が抱える問題を例として、文化人類学を中心とする人文学研究の立場から議論してきた。(中略)
当初、分科会は「提言」作成をめざしたが、その後、分科会内部で「提言」発出への懸念が示されたため、「報告」に切り替えた。その論点は以下の4つに集約される。①遺骨などの整備状況の検証やデータの公開が不十分であり、その整備を急ぐとともに、アイヌ民族の遺骨、副葬品を収蔵してきた大学・博物館等の機関は、アイヌ民族に配慮を欠いた遺骨の収集・収蔵状況に対して謝罪の必要性の有無を検討すること。②アイヌ民族を尊重し、彼らの立場に立った返還プロセスを構築、提案すべきこと。③アイヌ民族の専門家の養成に向けて、新たな研究・教育体制を構築する必要があること。④学術界の中に存在する多様な意見に配慮して、複数分野の研究者が学際的に協力し、上記3つの論点を継続的に議論すること。

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大学入試問題(小論文) [総論]

九州大学 前期日程 共創学部 小論文 設問2

内容:文化財返還問題の論点整理および解決策の提案

「連合王国の首都ロンドンに所在する大英博物館や、アメリカ合衆国のニューヨークに所在するメトロポリタン美術館など世界の主要博物館の多くには、植民地主義の時代に、植民地に所在する遺跡や、植民地、また国内に住まう先住民コミュニティから様々な形で持ち去られたり持ち帰られたり、またそれらが植民地宗主国の間で譲渡取引されたりした様々な品々や記念物が収蔵されている。今日、これらの帰属を巡って様々な事象が問題化し、それらは「文化財返還問題」と総称される。この「文化財返還問題」に関する資料1~5、表、地図を参照し、以下の問いに答えなさい。」

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全ての侵略略奪発掘による出土品を即時各国人民に返還せよ! [総論]

全ての侵略略奪発掘による出土品を即時各国人民に返還せよ!
「日本考古学協会」春の総会へのアピール ー日本学術会議の責任回避を糾弾するー
1973年 8月 15日 発行『地域と文化財』第3号、文化財問題研究会 発行、<地点>編集委員会 編集:28-29.

「日本考古学協会春の総会、研究発表、そして報告書展示即売会の場に集まられた研究者の皆さん、学生諸君!
とりわけ、ここ二、三年にわたる私たち「文化財問題研究会」の呼びかけに耳を借された皆さん!
私たちは「高松塚古墳壁画」を契機としたチョソン考古学者の来日を経験し、そして「中国文物展」を目前にひかえた今日、さらに声を大きくして「全ての侵略略奪発掘による出土品を即時各国人民に返還せよ!」と叫びたく思います。

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博物館倫理 [総論]

財団法人 日本博物館協会 2011『博物館倫理規定に関する調査研究報告書』平成22年度 文部科学省委託事業 生涯学習施策に関する調査研究

「博物館を巡る状況の変化に適切に対応しつつ、博物館がその本来の目的や機能を果たし、公益性を確保していくためには、改めて、博物館の運営や活動の主な担い手である学芸員をはじめとする博物館関係者がその職務を遂行していく上で、拠り所として共有できる行動の指針が求められている。ICOM(国際博物館会議)や欧米諸国では、その重要性が認識され、既に博物館に関する倫理規定の制定という姿で先行している。
しかしながら、我が国では一部の博物館や博物館関係団体を除いて博物館に共通する指針としての倫理規定は未だ策定されていない。倫理規定に関する博物館関係者の理解や意識も十分でない状況である。」(「はじめに」:i.)

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酒井2020「未開と野蛮の民主主義」 [総論]

酒井 隆史 2020「未開と野蛮の民主主義」『世界』第937号:207-216.

以下の3冊の書籍を紹介する書評である。
ピエール・クラストル(原 穀彦 訳)2020『政治人類学研究』水声社
ジェームズ・スコット(並木 勝 訳)2019『反穀物の人類史』みすず書房
デヴィッド・グレーバー(片岡 大右 訳)2020『民主主義の非西洋起源について』以文社

「この三つの著作は、対象こそ異なっているが、そのテーマとパースペクティヴにおいて共鳴しあっている。それも当然というべきか、かれらは、人類学、あるいは人類学をひとつの領域としながら、かつ「アナキズム」になんらかのかたちでコミットしている点を共有している。
そもそも人類学は必然的にアナキズムと親和性を有していると指摘するのはグレーバーである。というのも「人類学者たちはつまるところ、現存する国家なき社会についての知識を有している唯一の学者集団」であって、「その多くが、国家が機能停止するか、あるいは少なくも一時的に撤退し人々が自分たちのことがらを自立的に管理している地域に、実際に住んだ経験をもっている。少なくともかれらは、国家の非在において起こることについてのもっとも平凡な想定(「人々は殺し合う」)が真実でないことを十分に知っている」。つまりかれらは、みずからの対象が、いわゆるアナーキーな社会であること、そしてその機能の実態に接することによって、「ホッブス的論理」が実際に虚偽であることを認識できる位置にあるということになる。」(208-9.)

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小田原2020「モニュメンツ・マスト・フォール?」 [総論]

小田原 のどか 2020「モニュメンツ・マスト・フォール? -BLMにおける彫像削除をめぐって-」『現代思想』第48巻 第13号(10月臨時増刊号):239-246.

「光を当てるべきは、米国内の記念物の取り扱いを定めた各州の州法だ。公共空間の南部連合の記念物の改造や撤去が州法により完全に禁止されているのがノースカロライナ州とジョージア州である。地方政府は州議会の承認なしに南部連合の記念碑を撤去できないと条例で定められているのだ。(中略)
バージニア州の法律では地方自治体が戦争記念碑を建てることは許可されていたものの、それらを撤去あるいは改造することは禁止されていた。地方政府が記念碑を移動すること、およびなぜこれが建てられたのか説明する看板を付け加えることも不可能だった。」(243.)

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タグ:銅像 BLM 歴史
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緑川東問題2020(その2) [総論]

「「使用段階」については、石棒自体の使用方法を樹立させることとすれば、SV1内には樹立させるためのpitや支石なども無いため、この場所での使用は考えにくい。」(大工原 豊・長田 友也2020「石器の出土状態」『縄文石器提要』考古調査ハンドブック20、ニューサイエンス社:165.)

ある意味で衝撃的な一文である。

なぜならば、2014年の考古誌刊行以来2020年に至る7年の間に生じた様々な出来事・意見のやり取りなど「緑川東問題」に関する文献の提示はおろか一切の言及がなく、あたかも何事もなかったかの如く看做されているからである。

「SV1機能時に遺構内に石棒を立てられた可能性も考えられるが、それに見合うピットや石棒自体に樹立痕が不明瞭なことから、そうした想定は成り立ちがたい。」(長田 友也2014「国立市緑川東遺跡を石棒から読む」『緑川東遺跡 -第27地点-』:159.)
「SV1自体の構造を考慮すれば、緑川東遺跡内で4本の石棒の利用があったとしても、樹立時のセットや上屋の問題などから、SV1内での利用の可能性は限りなく低いものと考えられる。」(同:164.)

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