SSブログ

母岩識別研究の現状 [石器研究]

「砂川遺跡の個体別資料分類表」という見慣れたそして有名な周知の表が再掲されていた(安蒜政雄2006「旧石器時代の集落構成と遺跡の連鎖 -環状ブロック群研究の一視点-」『旧石器研究』第2号:69-80)。
かつて様々な関連文献に記載されたあらゆる表・文章を切り貼りし、蛍光マーカーで色分けして、読解に励んだ馴染みのあるデータ(数字たち)である(五十嵐2002b「旧石器資料関係論」『東京都埋蔵文化財センター研究論集』第19号:33-72)。

「発掘した石器群を個体別資料ごとに分けて観察すると、何が遺跡に搬入され、何を遺跡から搬出したのかの内容と明細を示す、各遺跡の石器搬出入品リストが得られる。この搬出入品リストには、いうまでもなく、遺跡間を動いたヒトとモノの姿かたちが映し出されている。」(安蒜2006:p.69)

母岩別資料に石核が含まれれば砕片があろうとなかろうと「類型A」、砕片が1点でもあれば総点数が何点であろうと「類型B」、砕片がなければ総点数が何点であろうと「類型C」とされる区分を、「実体類型」とした。
そこには、「砕片」問題として提起した本質的な問題が潜んでいる(五十嵐2002b:p.50 ff)

「すなわち「砕片」の存在によって「製作」が述べられ、「砕片」の不在によって「搬入」とされる。考古資料として確認できる事象(「砕片」の有無)をもとに考古事象が生成されるに至った行動(「製作」か「搬入」か)を導き出す際には、考慮すべき幾つかの条件が存在する。」(五十嵐2002b:p.52)

実体類型Bが想定する行為が、剥片剥離(一次加工)作業に限定されていて、調整剥離(二次加工)作業が排除されていて、その根拠が示されていないことを指摘した。
「「砕片」の形態あるいは分布状況から「砕片」を産出するに至った作業種別(剥片剥離作業か石器調整作業か)を特定する合理的な根拠は現時点においても確証されておらず、一方の解釈のみを先験的に採用する論理構成には解釈上の飛躍がある。」(五十嵐2002b:p.51)

しかし、依然としてそうした可能性は、考慮されていない(無視されている)ようである。
「類型Bは、原石にはじまって、石核段階にとどまる石器作りであった。」
「類型Bは、まだ消費されてはいない原料(原石)が搬入され、それを遺跡内で半ばまで消費し、残り半分となった原料(石核)が搬出されている。」
「類型Bの原料(原石)は新原料と呼ばれるにふさわしい。」(安蒜2006:p.72)

「実体類型B」が生成する要因として、剥片を素材にして<遺跡>内で調整加工を施すことによって、<遺跡>内に複数の同一母岩剥片(加工製品)と砕片が発生する、という可能性を考慮しないで計算される「原料の遺跡内消費率は、62.5%」(同)という数値は、どのような意味を有しているのだろうか?

「実体類型」を分析の基本に据えた研究(国武1999)についても、分析対象資料間における器種項目カテゴリーの不整合について指摘した。
「器種として「打面調整剥片」という分類項目を設定する妥当性以前に、そもそも「打面調整剥片」という分類項目を設定していない考古誌(報告事例)を資料操作の対象として、砂川遺跡例と同等の母岩類型区分が可能なのだろうか?」(五十嵐2002b:p.59)

安蒜2006の表2「吉岡遺跡群B区遺物群Ⅳ石器集中1の「母石別資料」(ママ)分類表」には、「砕片」はおろか「調整剥片」という項目すらなく、あるのは「各種の剥片類」だけである。

それにしても、今まで砂川的「実体類型」定義に必ず挙げられていた「残滓」の一項目である「打面調整剥片」が、今回の「砂川遺跡の個体別分類表」ですら「その他の剥片」と統合されて「調整剥片」という新たな項目に変身しているのは、どのような意図によるのだろうか?

「類型C=一切の残滓をもたず素材と製品のみの個体別資料」(安蒜2006:p.70)
【例】資料番号23を見てみよう。調整剥片2点・目的的な剥片2点:資料点数4点:類型C(安蒜2006:表1による)
*疑問点:「調整剥片」は、残滓ではない? それとも「調整剥片」は素材ないしは製品なのか?
(解題)実は資料番号23の調整剥片2点は、以前は「その他の剥片」というカテゴリーに属していた。だから「打面調整剥片や砕片といった種類の資料を一切もっていない個体別資料」すなわち「類型C」で何の問題もなかった。ところが、今回、「その他の剥片」と「打面調整剥片」を統合して新たに「調整剥片」というカテゴリーを創設したものだから、資料番号23の所属がねじれてしまった! 類型Bに変更か? 何せ資料番号16は、1点の砕片を根拠に類型Bなのだから。

こうした「分析の視点と方法」を基にして、「遺跡の連鎖」として「時間連鎖」と「空間連鎖」が、さらには「石器の接合」として「時間連鎖接合」と「空間連鎖接合」が述べられていく。

「出土した石器や剥片が同一母岩から剥離されたものか否かの分析については、砂川遺跡の報告以降、石器研究の重要な視点となっている。しかし、同一認定については肉眼(見た目)では不十分であり、理化学的分析でも難しい。ましてや接合するものや特徴的な石質を除き、頁岩の同一母岩認定は不可能に近い。接合関係や母岩認定につて(ママ)は、認識論や手続き論をはじめ新たなる検討が模索されている(五十嵐 2002)。」(岡本東三2006「細石器文化と神子柴文化の危険な関係」『石器に学ぶ』第9号:p.37)


nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(1) 
共通テーマ:学問

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 1