SSブログ

遺跡とは(5) [遺跡問題]

「遺跡化」の解明、そして「遺跡化」の機能、すなわち<遺跡>が果している社会的機能について、有する意味と役割について明らかにすることが当面の課題であることを指摘した。

「<遺跡>という名の記号が果している役割、考古学的言説の中心的対象としての<遺跡>がいかに編制されているかを明らかにすること、このことが考古学の社会的機能、例えば都市空間の再開発事業において<遺跡>認識が果す意味を再確認する契機ともなる。」(五十嵐2005a「遺跡地図論」p.104)

 遠い遥か昔の、今は忘れ去られてしまった、そして苔むして土に埋もれた廃墟。省みる者もいない、打ち捨てられた過去の痕跡を掘り返し、かつてなされた人びとの営みを復元する。それは、今現在に生きる私たちから見れば、理解することが困難な異文化である。
それは、遠い未知の大陸に住む見知らぬ人々の想像を絶する、生活習慣も、習俗も異なる人々に対するのと同じ感覚、異文化感覚なのである。

時間軸に沿って過去に遡り他者を見出す「考古学」と空間軸を辿り未知の他者を見出す「人類学」。
両者は、エキゾチィックな他者を通じて、自らを確かめる「他者表象」という点で全く同一の構造を有している。

しかし両者の立つ位置が決定的に異なるのは、人類学が語る他者が「生きている」のに対して、考古学が語る他者は「死んでいる」という点である。
そして被調査者である「生きている他者」は、調査主体である「私たち」に対して問うことになった。「私たちの文化を語る権利は、あなたたちにあるのか?」と(太田好信2001『民族誌的近代への介入 -文化を語る権利は誰にあるのか-』人文書院)。

それに対して、考古学に対して異議申し立てをする他者である被調査者は、既にいない。であるから、考古学は自らが語る権利問題に積極的にコミットすることなく、安住してきた。ところが、やはりそうはいかなくなってきたのだ。

一つは、近現代考古学の導入である。
「人類学者と異なり考古学者に対して「私たちの文化を語る権利はあなた達にはない」と告発する人々はもはや存在しないと思われてきた。そうした危機感のなさが、現在の考古学状況、特に日本考古学に満ちている。しかし調査対象が近現代へと拡張した現在、「過去の人々から問われることは有り得ない」と安住することはできない。」(五十嵐2004b「近現代考古学認識論」p.343)

そして今一つ、哲学的な視点から根源的な異議申し立てが発信された。
曰く「他者に対する原-暴力(archi-violence)」である(佐藤啓介2006、【もの研通信】2006年1月23日発信版も参照)。「生者が自らのアイデンティティ構築のために記憶の場を占有=代理=我有化する行為は、死者と事物という他者に対する暴力にほかならない。」(佐藤2006:会場配布資料は英文)。

アメリカ先住民は、大地を傷つける行為に対して非常に神経を尖らすという。
それは、大地には現在の自分を生み出した祖先の魂が眠るからであるという。

「プエブロにとっては、大地は母のからだである。土を採ることは、母の肉を切りとることである。アコマでは、古くから大地を「マザー・アース」、粘土を「マザー・クレイ」と呼び習わしてきた。タオスでは、春になると馬の蹄鉄をはずす。母である大地は春に身篭り、優しく扱われなくてはならない。この時期、大地を傷つけることは忌み嫌われる。ホピでは、畑にくわを入れる前にコーンミールをまいて祈りを捧げる。サンタクララでは、祈りの手続きを踏まないで粘土を採った場合、病気になると信じられている。」(徳井いつ子1992『スピリットの器 -プエブロ・インディアンの大地から-』地湧社:p.27)

考古学的発掘も同じである。
「あのとき彼らの言葉のうちにあったのは、「研究」という大義名分をかざして墓を掘り起こす人々への感情的な反発である。インディアンの文化のすべてが、あたかも「虫の標本」をつくるように観察され採集され分析される。彼らはひと夏、遺跡にやってきただけで高邁なうんちくをたれ、論文が評価されれば上のポストへと昇格する。あるプエブロの男は「墓泥棒と考古学者の違いは、たったひとつ。法律の許可を得ているかいないかという点だね」と笑ったが、そうした見方が、先住の人々のなかに根強くあることは間違いない。」(同:p.165)

そして大事なことは、・・・
「母は、「日没の心得」についても教えてくれた。
「今日という日は、最後の日になるかもしれない。だから、一日をせいいっぱい生きること。そして、太陽が沈むときは、人に優しくできるよう。腹を立てないよう。乱暴にならないよう。」
私たちは、こういったことを信じているし、引き継いでもいる。」(同:p.73)
 


nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:学問・資格(旧テーマ)

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0