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三木2019『遺骨返還と民族自決権』 [全方位書評]

三木 ひかる2019『遺骨返還と民族自決権 -侵略・戦争責任の徹底追及を-』「北方領土の日」反対!「アイヌ新法」実現!全国実行委員会

かねてより注目していた筆者が、2017年から19年に書かれた4本の文章を再録したものである。

「近代以来、日本天皇制国家はアイヌモシリ侵略、植民地支配のために、アイヌ民族の存在とその権利を一切否定してきた。1930年代以降のファシズム期には民族絶滅政策の下、優生学的(生物学主義的)同化を推し進め、膨大な遺骨を収集して民族「衰亡」の「研究材料」にした。全国の大学が略奪したアイヌ民族の遺骨は、こうした日本近代以来の侵略と戦争の犠牲者の遺骨であり、その返還は民族自決権の重要な内容をなすものである。天皇制国家の侵略戦争・植民地支配こそが遺骨略奪と先住権・自決権否定を生み出した最大の要因である。しかもそれは今日に至るまで日本国家・社会、大学を貫通し、今現在の帝国主義的支配を形作っている。
したがってアイヌ民族の遺骨返還と先住権・自決権獲得の闘いを前進させるためには、侵略戦争、植民地支配の徹底した暴露と追及が必要である。しかし日本労働者人民のこの戦いの弱さ、鈍感さがあらゆる民族問題の解決を困難にしている。」(1.)

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石原2020『<沈黙>の自伝的民族誌』 [全方位書評]

石原 真衣 2020『<沈黙>の自伝的民族誌 -サイレント・アイヌの痛みと救済の物語-』北海道大学出版会

ある人から「いいよ」と勧められて読んだが、良かった。

「遺骨たちは、「私」をつかまえて、離さない。そして、叫び続ける!
「忘れるな!」。「沈黙から言葉を紡げ!」。
「そして癒すのだ!」。「癒すのだ!」。「癒すのだ!」。
遺骨たちの叫びは、日毎に大きくなる。朝も、昼も、夕も、夢のなかでも、希望のときも、絶望のときも。私は、とうとう、遺骨たちの叫びから逃れられなくなる。歴史が身体に刻印されていない私が、物語を取り戻すためには、手がかりが必要だった。その手がかりとは、まぎれもなく、私の「痛み」だった。そして、それは叫び続ける遺骨たちの「痛み」でもあった。」(4.)

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東京法令出版2022「文化財のあるべき場所は…」 [全方位書評]

東京法令出版2022「【対立・協調】文化財のあるべき場所は…」『問いからはじまる歴史総合』:80-81.

2022年度から高校の必修科目として「歴史総合」が導入された。
従来の「日本史A]と「世界史A」を統合した科目で、18世紀以降の近現代を重視しているようである。
その副教材(資料集)における一項目である。

B 近代化と私たち (4) 近代化と現代的な諸課題
メイン・クエスチョン:なぜ文化財の所有権をめぐって対立が起きているのだろうか?
キーワード:帝国主義、植民地、文化財

① 博物館に寄せられる主な返還要求では、以下の6つの事例が挙げられている。
 ロゼッタ=ストーン:エジプト→大英博物館(イギリス)
 ネフェルティティの胸像:エジプト→ベルリン新博物館(ドイツ)
 パルテノン=マーブル:ギリシア→大英博物館(イギリス)
 ミロのビーナス:ギリシア→ルーブル美術館(フランス)
 モアイ像:チリ→大英博物館(イギリス)
 楽浪墳墓出土品:大韓民国*→東京大学(日本)

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『琉球人のご遺骨を返してください!』 [全方位書評]

琉球遺骨返還訴訟全国連絡会2021『琉球人のご遺骨を返してください! いつ京大は植民地主義を反省するのですか』(ブックレット:頒価/500円 2021年12月20日発行)

「京都帝国大学助教授であった金関丈夫氏は1928~29年に調査として今帰仁百按司墓から遺骨を持ち出した。この時、金関氏は警察の手続きを経ただけであり、門中関係者、地域住民等の了解を得ていない。1879年の琉球併合後、警察を含む行政、教育関係の上層部の大半を日本人が占めるという植民地体制下に金関氏らの盗骨が行われた。
2017年、沖縄の地方新聞の報道により遺骨の盗骨を知った松島泰勝は、京都大学に対し遺骨の保管状況等を問い合わせた。しかし、京都大学はこの問い合せに一切対応せず、あろうことか山極壽一学長(当時)は、松島氏に対する侮辱の言葉まで発した。2018年12月、遺骨の現状確認と返還を求めて京都大学を被告に裁判を提訴した。

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テッサ・モーリス=スズキほか2020『アイヌの権利とは何か』 [全方位書評]

テッサ・モーリス=スズキ、市川 守弘ほか2020『アイヌの権利とは何か -新法・象徴空間・東京五輪と先住民族-』北大開示文書研究会 編、かもがわ出版

「上村英明氏やジェフリー・ゲーマン氏が強調するように(上村 英明・ジェフリー ゲーマン2018「アイヌ民族と琉球民族の視点から日本憲法を再考する(Rethinking Japan's Constitution from Perspective of the Ainu and Ryukyu People)」『アジア・パシフィック・ジャーナル:ジャパン フォーカス誌』第16巻:引用者)、2009年の有識者懇談会報告書のアイヌ民族の権利へのアプローチは、「公共の福祉に反しない限り」個々の市民が自分の生き方を選択できる権利を、すでに日本国憲法第13条が保障しており、そこにはアイヌ個人も含まれる、という議論に依拠しています。この保障が、個人の権利問題という特殊な「日本的アプローチ」の基礎として提示されたのです。この「個人の権利」にこだわる概念的根拠こそ決定的な問題です。集団的権利は、「先住民族の権利に関する国連宣言」の中心的な認識であるにもかかわらず、その集団的権利にかかわる明示的な認識が完全に欠落してしまうからです。」(26.)

東京オリンピック2020+1に関わる様々なドタバタ劇は、世界と日本の認識の落差を白日の下に晒したが、同じような、しかし余り知られていない落差がここで指摘されている。

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殷1996『中日戦争賠償問題』 [全方位書評]

殷 燕軍(Yin Yan-Jun)1996『中日戦争賠償問題』御茶の水書房

「この研究は、筆者自身にとっても、徐々に中国国民政府の対日賠償政策に対する一つ一つの「謎」を解き、戦後中日関係の一側面への理解を深めていく過程でもあった。
本稿で披露しているように、中国国民政府は戦時から戦後にかけて一貫して厳しい対日賠償請求を求め、独自の対日政策を作り、連合国の対日賠償政策にも影響を与えようとしている。一方、この対日政策の展開は、実に戦後東アジアにおける複雑な情勢に左右され、その自律性を保ちながら、曲折な道を辿ってきた。」(ii.)

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山本ほか2022『考古学概論』 [全方位書評]

山本 孝文・青木 敬・城倉 正祥・寺前 直人・浜田 晋介 2022『考古学概論 -初学者のための基礎理論-』ミネルヴァ書房

「本書は、考古学を学びはじめた初学者が主な読者となること(を?)前提としたもので、この分野に初めて接する人が、前提なしでその学問的内容を理解するのに適したテキストとして書かれたものである。学問としての考古学を学ぶ際に知っておくべき最低限の基礎理論の内容をまとめており、学習初年次の考古学の入門系授業に対応する内容が想定されている。」(山本:i)

70年代生まれの方が4人、50年代生まれの方が1人による総じて若い世代によって記された久々の教科書である。順に見ていこう。

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谷口2021『土偶と石棒』 [全方位書評]

谷口 康浩 2021『土偶と石棒 -儀礼と社会ドメスティケーション-』雄山閣

ここでは、書名「土偶と石棒」という両者の一方のみ、それも緑川東出土の大形石棒を巡る記述についてのみ論じる。

「東京都緑川東遺跡では、4本の完形の石棒が長径約3.3m、短径約3.1mのほぼ円形の敷石遺構の床面レベルに埋設された状態で発見された(図12、株式会社ダイサン編2014)。石棒は103~112cmの安山岩製で、一段笠形が1本、二段笠形が3本ある。左右に2本ずつ、頭部を揃えた状態で埋設されている石棒の下層と上層から出土した北白川C式土器・中津式土器から、中期末ないし後期初頭と推定されている。発掘調査報告書によると、先に作られた敷石遺構の中央部分の石材を取り出した後に、4本の石棒が並べて埋設されたと解釈されている。しかし、敷石遺構を再利用する形で石棒が埋設されたという出土状況の解釈には疑問も提起されている。五十嵐彰は、敷石遺構を構築する際に石棒を用材の一部として取り扱ったという解釈もあり得るとの見方を示すとともに、「樹立される石棒」という研究者の先入観によって出土状況の解釈が歪められていることを指摘している(五十嵐2016・2019)。
緑川東遺跡の事例については第7章であらためて取り上げるが、筆者はこれらの石棒の頭部形態や石材が一様でない点に注目しており、製作・入手の時期が異なる製品が、中期末ないしは後期初頭にここにまとめて遺棄されたものと考えている。それはちょうど至近距離に位置する向郷遺跡で、中期中葉から継続していた環状集落と集団墓の造営が終息する時期にあたり、向郷集団が保有していた石棒がまとめて遺棄された可能性がある。」(60-61.)

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鈴木2003『好古家たちの19世紀』 [全方位書評]

鈴木 廣之 2003『好古家たちの19世紀 -幕末明治における<物>のアルケオロジー-』シリーズ 近代美術のゆくえ、吉川弘文館

「ここで採る正反対の方法とは、ひとことでいえば、非連続の要素のなかに未発の可能性を探り出そうとする行き方だといえる。つまり、現在ある秩序に接ぎ木されずに断絶し、埋もれ去り捨て去られた要素や価値、あるいは挫折した試みの方に多くの注目を向けることだ。敗北した試みのなかには、その時代が直面していた課題がより鮮明に見出せるだろう。失敗した試技の方がハードルの位置と高さを検証しやすいからだ。
このようにして、埋もれたままの要素や価値を探り出し、忘れられたままの試みを掘り起こす作業を粘り強く進めれば、類別され階層化された古い物の世界が重なり合い、堆積するようすが見えてくるように思う。そして、それらの地層に試錐することは、その世界の一つひとつがもっていた課題と可能性を掘り起こし見出すことになるだろう。このような作業は、現在ある秩序に普遍的な価値を見出すのではなく、反対に、それが歴史的なものであることを明らかにし、その秩序が構造的に抱えている捩れや歪みを見とおすことになるだろう。」(22.)

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松木2021『はじめての考古学』 [全方位書評]

松木 武彦 2021『はじめての考古学』ちくまプリマ―新書 389

「1914年に始まった第一次世界大戦でドイツは敗北を喫し、その講和として1919年に結ばれたヴェルサイユ条約によって、巨額の賠償金を課せられた上に、東方のエルサス・ロートリンゲン地方はフランスへ、西方の西プロイセン地方はポーランドに割譲させられるなど、多くの領土も失うことになってしまいました。」(48-49.)

何度読んでも、私の中の世界地理感覚と整合しないのはなぜだろう? 
2020年度駒澤大学文学部「日本考古学概説」の受講生や筑摩書房の担当者は、疑問に感じなかったのだろうか?

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