三木2019『遺骨返還と民族自決権』

三木 ひかる2019『遺骨返還と民族自決権 -侵略・戦争責任の徹底追及を-』「北方領土の日」反対！「アイヌ新法」実現！全国実行委員会

かねてより注目していた筆者が、2017年から19年に書かれた4本の文章を再録したものである。

「近代以来、日本天皇制国家はアイヌモシリ侵略、植民地支配のために、アイヌ民族の存在とその権利を一切否定してきた。1930年代以降のファシズム期には民族絶滅政策の下、優生学的（生物学主義的）同化を推し進め、膨大な遺骨を収集して民族「衰亡」の「研究材料」にした。全国の大学が略奪したアイヌ民族の遺骨は、こうした日本近代以来の侵略と戦争の犠牲者の遺骨であり、その返還は民族自決権の重要な内容をなすものである。天皇制国家の侵略戦争・植民地支配こそが遺骨略奪と先住権・自決権否定を生み出した最大の要因である。しかもそれは今日に至るまで日本国家・社会、大学を貫通し、今現在の帝国主義的支配を形作っている。
したがってアイヌ民族の遺骨返還と先住権・自決権獲得の闘いを前進させるためには、侵略戦争、植民地支配の徹底した暴露と追及が必要である。しかし日本労働者人民のこの戦いの弱さ、鈍感さがあらゆる民族問題の解決を困難にしている。」（1.）

「北大のアイヌ民族蔑視と欺瞞を弾劾する -『医学部調査報告書』(2013年3月)批判」（3-58.）は、北海道大学が10年前に公表した報告書に対する詳細な検証に基づく批判である。
「謝罪なき自己正当化」と総括されたが、報告書発行から10年が経過したが現状においても大枠では大きな変化が認められない点に問題の奥深さが伺われる。

「なお、遺骨と一体の副葬品略奪についての追及も欠かせません。児玉作左衛門をはじめ人類学者らは、アイヌ民族の豊かな文化を示し、遺骨の特定にとっても重要な手がかりとなる副葬品を略奪し、「児玉コレクション」などと称して私蔵し、アイヌ民族の歴史と文化の隠滅をはかりました。副葬品の行方を追及し遺骨とともに民族に返還させなければなりません。」（4-5.）

遺骨に関する報告書に続いて副葬品に関する報告書が発行されるはずなのだが、なぜか未だに日の目を見ない。

「遺骨略奪・差別研究と「731部隊」」（59-66.）は1932年設置の日本学術振興会学術部第8常置委員会第8小（アイヌ）委員会(1932～1938）のメンバーであった井上 善十郎が上海同仁会「中支那防疫部」において細菌戦研究に従事したことから、アイヌ民族の遺骨略奪が「731部隊」の生体実験や細菌戦にまで行きつく性質を有していたことを論証している。

「現存する民族やその遺骨を「材料」「モノ」としてとらえる生物学主義的人間観、民族観は底知れぬ多民族蔑視と人権侵害をつくりだす。このような反人間的、反人権的意識こそ、近代天皇制国家が生み出し、また近代天皇制国家を支えてきたものである。」（60.）

「琉球民族の遺骨問題と自決権」（67-78.）は、現在一審判決を受けて控訴審が争われている京都大学所蔵の琉球遺骨に関する人類学批判である。

「近代以来、人類学は、人骨の形態や人体の形質を計測調査し統計をとり、それを恣意的に利用して、社会進化論にもとづく差別的人種思想を扇動してきた。優勝劣敗、適者生存の社会進化論は、人間や民族を歴史的、社会的にとらえるのではなく、単なる生物学的存在としてとらえ、人類は「優秀な人種」が「劣等な人種」を淘汰（抹殺）することによって発展してきたとする、帝国主義とファシズムの思想である。社会進化論は、民族抑圧や階級対立を「人種」対立にすり替え隠蔽して、体制を擁護するのである。」（70.）

アメリカのトランプ前大統領を支持しているキリスト教原理主義者たちは生物進化論を目の敵にしているが、キリスト教が闘うべき本当の相手は社会進化論である。

「京大が謝罪、返還を拒否し、琉球民族の遺骨を略奪し続けることは、近代以来、日本天皇制国家が行ってきた沖縄・琉球併合、差別と同化、金関丈夫ら人類学者の人権蹂躙を肯定し、その人民的諸権利と自決権を否定・抹殺することに他ならない。くりかえすが、琉球民族の遺骨問題は、近代天皇制国家による琉球併合が今日に至るまで残してる深刻な問題の一つである。
日本労働者人民は、侵略責任の解決をめざして、遺骨返還と謝罪、賠償を勝ち取らなければならない。それは現在の日本の国家権力と社会体制の変革、自分たちが抑圧民族あるいは「皇民」として縛られてきた、歴史的社会的諸関係からの解放をめざして闘うことと同時の事柄である。」（78.）

「労働者人民」と総称されてきた「まとまり」が決して単色でないことが、21世紀の大きな問題である。

タグ：アイヌ遺骨 児玉コレクション 社会進化論