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鈴木2003『好古家たちの19世紀』 [全方位書評]

鈴木 廣之 2003『好古家たちの19世紀 -幕末明治における<物>のアルケオロジー-』シリーズ 近代美術のゆくえ、吉川弘文館

「ここで採る正反対の方法とは、ひとことでいえば、非連続の要素のなかに未発の可能性を探り出そうとする行き方だといえる。つまり、現在ある秩序に接ぎ木されずに断絶し、埋もれ去り捨て去られた要素や価値、あるいは挫折した試みの方に多くの注目を向けることだ。敗北した試みのなかには、その時代が直面していた課題がより鮮明に見出せるだろう。失敗した試技の方がハードルの位置と高さを検証しやすいからだ。
このようにして、埋もれたままの要素や価値を探り出し、忘れられたままの試みを掘り起こす作業を粘り強く進めれば、類別され階層化された古い物の世界が重なり合い、堆積するようすが見えてくるように思う。そして、それらの地層に試錐することは、その世界の一つひとつがもっていた課題と可能性を掘り起こし見出すことになるだろう。このような作業は、現在ある秩序に普遍的な価値を見出すのではなく、反対に、それが歴史的なものであることを明らかにし、その秩序が構造的に抱えている捩れや歪みを見とおすことになるだろう。」(22.)

例えて言うならば現在流通している土器型式ではなく、何らかの理由で廃れてしまった土器型式(蓮田式とか楢原式とか)の在り方を見ることによって、型式設定の「ハードル」を確かめるといったことだろうか。

あるいは最近読んだ文章では、「へなちょこな土器」の在り方から土器の本質を探るといった発想(縄文ZINE編集部2022「不器用な縄文人」『縄文ZINE』第13号:4-8.)である。

こうした方法は、ここでは明記されていないが、勝ち残った側が自らの歩みを正当化(正統化)するような見方、いわゆる「ホイッグ史観」を克服するための一つの重要な手法と言えよう。

高村 光雲による羅漢寺栄螺堂の観音像救出(24.)から始まって、モース(38)、蜷川 式胤(40)、箕作 麟祥(62)、佐野 常民(111)、田中 芳男(121)、伊藤 圭介(123)、竹本 要斎(127)、内田 正雄(129)、松浦 武四郎(132)、柏木 貨一郎(133)、町田 久成(136)などなど、19世紀後半の日本で「古物」を巡って様々な人々の認識がどのように変容していったか、名物学や古物学から考古学へ、物産会から博物館・博覧会へ、木版画から石版画やコロタイプ写真へ、旧から新への移り変わりが述べられる。

コロボックル論争などで記憶に残っていた山中 共古こと笑(えむ:218)がメソジストの初期の牧師であったことを知ったのも収穫であった。

「それまでの私はといえば、もっぱら江戸時代以前の古い時代の美術を相手にする美術史家だった。ところが、90年代の議論は私のような美術史家をのっぴきならない立場に追いこむことになった。なぜなら、それまで何の疑いももたず、美術として接してきた江戸時代以前の対象が美術として待遇されるようになったのはたかだか明治以後のことであって、それ以前にはそもそも美術などという考えはなかったのだ、と説かれたからだ。それでは、われわれ美術史家は、これまで古い時代の美術として疑いもせず接してきた相手と今度はどんなふうに付き合えばよいというのだろう。あとには切実な問題が残った。」(229.)

問題は、私より9歳年上の美術史家だけでなく、当然のことながら私たちが関わる「日本考古学史」にも当て嵌まる。
考古学史に関して言えば、<もの>を巡る私たちの眼差しは、19世紀後半の近世的な古物から考古資料への移り変わりだけでなく、19世紀後半からの帝国主義的な宝物(ほうもつ)的な<もの>の見方から21世紀の脱植民地主義的な<もの>のたどってきた由来をも含めた文化財評価への移り変わりをも認識しなければならないのではないだろうか。

「結果として、美術と美術でないものとを峻別することによって成立している美術史という領域から離脱、逸脱することになったかもしれない。だがそれもよいのではないか。一度飛び出してしまえば、美術史とはなんだったのか、その輪郭がいっそう鮮明に見えてくるだろうし、それどころか、思いもよらない眺望を手に入れることだってあるかもしれないのだ。今ある美術がどのようにして美術になったのか、もっと丹念に足跡をたどる作業が今後も必要だろう。」(230.)

考古学という学問を規定している「古」という二文字目を考え直す近現代考古学。
いまだに<もの>を縦横に並べる第1考古学。
「考古学という学問の輪郭」は、一向に見えてこない。


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