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考古時間論(補遺) [痕跡研究]

【2006-8-22】に寄せられた「F」さんのコメントに関連して、鈴木・林テーゼとした「包む-包まれる関係」について、もう少し突っ込んで考えてみた。やや込み入った話となるが、お付き合い願いたい。

包むものである層(面)と包まれるものである遺物(点)との相互関係、特に複数の層(面)と遺物における製作と廃棄における同時性と異時性に関する相互関係、すなわち複数のもの相互の製作と廃棄における時間的関係に関する考察である。幾つかの類型に区分可能である。

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遺構論(補遺) [痕跡研究]

「遺構論(9)」【2006-7-7】にて、掘り窪める遺構(例えば土坑などの穴ぼこ)を「マイナス痕跡遺構」、盛り上げる遺構(例えば盛土、石垣など)を「プラス痕跡遺構」とした。
しかし、考古時間論について考えを進めるうちに、これでははなはだ不十分である、というより、いかにも論が粗雑であることに気が付いた。

「・・・遺物や遺構などの人為物は、しばしば層の性格を明瞭に限定する。すなわち、竪穴住居・溝・貯蔵穴・墓擴などの掘り込み、古墳・土塁・基壇・築土などの盛りあげ、整地面・床面などの削平、床面・広場・道などの踏み固め、その他貝層、土器捨て場、ゴミ捨て場などの人為的堆積物、そして焼土、炉などのように化学的変化を与えられたものがある。」(小林 達雄1975「層位論」『日本の旧石器文化 第1巻 方法論』:118)

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考古時間論(総括6) [痕跡研究]

「地層累重」とは、地層というプラス痕跡の重複をいう。上に重なるプラス痕跡[T2]は、下に重ねられたプラス痕跡[T1]よりも新しい[T1→T2]。
「切り合い」とは、垂直面というマイナス痕跡による重複をいう。遺構の場合は、単独の穴ぼこの存在が既に生活面という堆積層を「切って」穴ぼこが掘られるという広義の「切り合い関係」を示している。但し、より一般的には穴ぼこ同士の「切り合い関係」、そして剥離面の「切り合い関係」を指している。切られたマイナス痕跡[T1]は、切っているマイナス痕跡[T2]よりも古い[T1→T2]。

穴ぼこ同士の切り合い関係(遺構切り合い)については、(先行する)穴ぼこの形成(マイナス痕跡の形成)→穴ぼこの堆積(プラス痕跡の形成)→(後行する)穴ぼこの形成(マイナス痕跡の形成)→穴ぼこの堆積(プラス痕跡の形成)というサイクルを辿る。
剥離面の切り合い関係(石器切り合い)については、プラス痕跡の形成という要素が介在しない。常に(先行する)剥離面の形成(マイナス痕跡)→(後行する)剥離面の形成(マイナス痕跡)の連鎖である。プラス痕跡の形成が発現するのは、考古資料として私たちが手にした接合資料を剥離順に接合して接合関係を復元する場面においてのみである。

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考古時間論(総括5) [痕跡研究]

ここからは、考古時間論に関する簡単な応用問題である。

包まれるもの[t1]は、常に包むもの[T1]の前に生成されなければならない[t1→T1]。
これが、terminus post quem <TPQ>である。
それが、重複したらどうなるか。

ある層が、あるもの[t1]を、包んで堆積している[T1]。
その上に、あるもの[t2]を包んでいるある層が堆積している[T2]。

たったこれだけの最も単純な事例であるが、それでも、それぞれ4つの時間[T1,T2,t1,t2]の相互関係、それぞれの時間的前後関係について、判断しなければならない。
それでは、それぞれは、いったいどのように判断されるか。

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考古時間論(総括4) [痕跡研究]

そして考古時間論の第3問題(重複痕跡)である。

プラス痕跡、すなわち地質学での「堆積」という重複痕跡が、「累重」である。
マイナス痕跡、すなわち「侵食」という重複痕跡が、「切り合い」である。

地質学では、「累重」という用語に、堆積重複も侵食重複も含めて用いる場合が多く、考古学においてもハリスのように「切り合い」原則を特に重視しない見方もある。日本考古学においては、「累重」という用語が「累重法則」に関連した文脈でプラス痕跡にのみ限定されて用いられ、さらには編年的な手法として「切り合い」現象が別個に着目されてきた、という学史的経緯がある。そのため、ここではプラス痕跡の「累重」に対比させて、マイナス痕跡の「切り合い」を位置づけることが適切と考える。

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考古時間論(総括3) [痕跡研究]

考古時間論に関する第2問題(プラス痕跡とマイナス痕跡)について。

プラス痕跡とは、積み上げられた痕跡である。
マイナス痕跡とは、削り取られた痕跡である。

遺構(穴ぼこ)に即して考えてみよう。
出発点:平らな地面がある。(これも自然堆積というプラス痕跡の積み重なりか、あるいは不整合面というマイナス痕跡の跡という場合もあるのだが、この場合は置いておこう。)
第1段階:人が穴を掘る。すなわちマイナス痕跡の形成である。正確には、スコップの一掘りであるマイナス痕跡の累積によって、穴ぼこというマイナス遺構が形成されるわけである。
掘った土は、穴ぼこの横や一輪車の上などに置かれる。すなわちプラス痕跡の形成である。
この時点で、プラス痕跡には、「包む-包まれる関係」が発生する。ところが、マイナス痕跡は、単なる「面」あるいはマイナス面の累積である穴ぼこがあるのみである。マイナスの垂直面(ハリスが言うところの「垂直遺構境界面」)の形成である。
第2段階:空間確保遺構としての穴ぼこは、使用終了後には廃絶空間としてエントロピー増大法則により土壌が堆積していく。一方、埋設遺構では、製作行為の仕上げとして意図的に埋められていく。
ここで初めて、マイナス遺構における「包む-包まれる関係」が、発生する。

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考古時間論(総括2) [痕跡研究]

単純なことなのだが、今まで余り考えられてこなかった事柄がある。
あるいは、議論の対象にはならなかった、正面から問題として取り上げられることが少なかった事柄がある。

第1には、包む-包まれる関係に関する認識。
第2には、プラス痕跡とマイナス痕跡の差異。
第3には、重複痕跡(パリンプセスト)の事例。

ものたちの世界、すなわち考古資料では、この3種の様相が、複雑に絡み合いながら、痕跡形成の前後(新旧)関係が発生している。私たちは、日常の作業としてこうした痕跡関係(空間的構造)を一つ一つ解きほぐしながら、それぞれの痕跡形成の時間的諸関係を明らかにしている(佐原1985:117)。
そうした道筋の根拠を示すのが、「考古時間論」である。

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考古時間論(総括1) [痕跡研究]

「発掘の場の考古学研究者は、複数の遺構相互、複数の遺物相互の垂直的位置関係(層位関係と切り合い関係)、すなわち、相互の年代関係に気をくばると同時に、それら相互の水平的位置関係にたえず注意をはらっている。」(佐原 真1985「分布論」『岩波講座 日本考古学1 研究の方法』:117)

「気をくばる」あるいは「注意をはらっている」だけでは、足りない何かがある。
あるいは、どのような内実に向けて、どのように「気をくばる」のかといった事柄についてこそ、議論を深めなければならない。

考古学が、すなわち私たちが複数のものたちを通して、その時間的前後関係を判断する(例えば、これはあれより古いとか、あれはこれより後にできたとか、すなわち「相対年代」を構築する)際に、使える手段/手法は、大きく次の3種類しかないのではないか。

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考古時間論(18) [痕跡研究]

「考古学的な層位それ自身の年代決定は、包含する遺物の検討ぬきにはできない。層位は層序とよばれる順序に系列化されるだけであって、その作成は発掘担当者の主要な任務となっている。層序がいったん決定されると、その層から出土した遺物の年代とそれから導出される層の形成時期が与えられる。(中略)発掘担当者にとって重要なことは、包含層の形成年代にもっとも近い層固有の遺物と、残留遺物や混入遺物など時代が古すぎたり新しすぎる遺物を識別することである。この作業は相当困難であって、バーカーは最近この点についてすぐれた報告を行っている(Barker 1977:171-8)。」(ハリス(小沢訳)1995『考古学における層位学入門』:165)

ハリスも言及しているBarker1977、実は層位に関する「すぐれた報告」だけではなく、重要な原理も紹介している。

「terminus post quem と terminus ante quem の概念を理解しかつ厳密に適応することは、層序と遺構の相対年代に対して基礎的な重要性を有する。こうした概念があらゆる事例に最大限厳密にそして論理的に広範囲になされなければ、年代比定と解釈の誤りが発生するだろう。」(Philip Barker 1977 “Techniques of Archaeological Excavation” Universe Books:193)

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考古時間論(17) [痕跡研究]

「・・・人間の役割についての層位学的な意味は考古学でも地質学においてもほとんど検討されることはなかった。この結果として、何百万年という堆積条件のもとで形成される地層の研究のために前世紀に考察された規則にしたがって、考古学的な層位を研究しようとする考古学者がいまだに存在するわけである。」(エドワード・ハリス1989(小沢 一雅1995訳)『考古学における層位学入門』雄山閣:11、“Principles of Archaeological Stratigraphy” 2nd edition.)

訳書率が極端に低い日本考古学において、本書が訳されたというのは、大きな意義がある。
「考古学的な層位学の諸原理は、数十年にわたる考古学的な実践をへてかたちづくられた、新しくかつ独自性をもつものである。考古学的な原理体系の存在を主張する、ハリス博士の発想を認めない地質学者や地質考古学者がいる。おそらく、かれらは適切な事例について行われた緻密な分析を知らないままでみずからの立場をうしな(う)ことになろう。とにかく、本書は「考古学的」な層位学というものが厳然として存在することを実証している。」(マイケル・B・シファー1989「序文」:3)

本来ならば、シファーの著作も訳されなければならないのだが。
それはさておき、何が「考古学的」な層位学なのだろうか。

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