SSブログ

遺構論(補遺) [痕跡研究]

「遺構論(9)」【2006-7-7】にて、掘り窪める遺構(例えば土坑などの穴ぼこ)を「マイナス痕跡遺構」、盛り上げる遺構(例えば盛土、石垣など)を「プラス痕跡遺構」とした。
しかし、考古時間論について考えを進めるうちに、これでははなはだ不十分である、というより、いかにも論が粗雑であることに気が付いた。

「・・・遺物や遺構などの人為物は、しばしば層の性格を明瞭に限定する。すなわち、竪穴住居・溝・貯蔵穴・墓擴などの掘り込み、古墳・土塁・基壇・築土などの盛りあげ、整地面・床面などの削平、床面・広場・道などの踏み固め、その他貝層、土器捨て場、ゴミ捨て場などの人為的堆積物、そして焼土、炉などのように化学的変化を与えられたものがある。」(小林 達雄1975「層位論」『日本の旧石器文化 第1巻 方法論』:118)

「遺構は、一定の場所における遺物の集合である堆積と、過去の人々が大地を加工した痕跡である坑と、大地の上に設置した構築物とに大別される。構築物も掘り込みを伴うことがあり(建物基壇の掘込地業など)、逆に大地の一部を削り出した遺構も存在する(地山削り出し基壇や前期古墳の墳丘など)。・・・大地を掘り込んだ結果残った穴の類の遺構がある。井戸・竪穴住居・柱穴・埋葬穴・貯蔵穴・ゴミ捨て穴しかり、溝も拡大解釈すればこの仲間だし、意図的に掘ったものではない足跡・轍などを含め、総じて坑と呼ぶことにしよう。」(山本忠尚1985「調査技術論」『岩波講座 日本考古学 1 研究の方法』:245・247)

「大地に遺る人為的な痕跡には、掘る、削る、剥がす、崩すなどの引き算型の仕事の結果と、積む、盛る、築く、埋める、立てる、建てるなどの足し算型の仕事の結果とがある。そして、さらに引き算型の仕事による基礎の上に足し算型の仕事をおこなった結果がある。引き算型の遺構を代表するのは穴と溝である。足し算型の遺構には古墳や土積みの壁(築地塀や土塁)などがある。」(佐原 真1995「原始・古代の考古資料」『岩波講座 日本通史 別巻3 史料論』:143)

こうした先行する作業にある部分影響されつつ、ある部分参考にしつつ、遺構と称される在り方について考えてきたのだが、大まかな区分(例えば、掘り込み-盛り上げ(小林1975)、坑-構築物(山本1985)、引き算型-足し算型(佐原1995))とは別個に、痕跡論的観点からは更に解像度を上げた概念整理が必要となってきた。

すなわち、「マイナス痕跡遺構」とした<穴ぼこ>(掘り込み/坑/引き算型)を構成する痕跡は、スコップなどによる土掘り具によって形成されるマイナス痕跡の集積である、ということである。すなわち、「マイナス痕跡遺構」は、より正確に言い換えるなら、「マイナス痕跡群によって構成される遺構」ということになる。長たらしいので、「マイナス遺構」とし、「マイナス痕跡」という概念とは、区別されることになる。「プラス痕跡遺構」についても同様である。

であるから、痕跡論的には、個々の痕跡を指し示す「マイナス痕跡」・「プラス痕跡」という用語・概念と、その集合体である大地を加工対象とした集合概念である「マイナス遺構」・「プラス遺構」とを、厳密に使い分けなければならないという、これまたある意味で、極めて当然の結論に至った訳である。

私たちが、足元に広がる穴ぼこたちを、目の前にした時、それらは決して、最初から、漠然とした「マイナス遺構」として存在しているわけではない。
表土とか、包含層とか、覆土とか、様々な名前の様々な「プラス痕跡」群を、私たちがある時は丁寧に、ある時は乱暴に取り除いた後に、初めて「マイナス遺構」たる穴ぼこたちが出現したのである。


nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:学問

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0