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考古時間論(18) [痕跡研究]

「考古学的な層位それ自身の年代決定は、包含する遺物の検討ぬきにはできない。層位は層序とよばれる順序に系列化されるだけであって、その作成は発掘担当者の主要な任務となっている。層序がいったん決定されると、その層から出土した遺物の年代とそれから導出される層の形成時期が与えられる。(中略)発掘担当者にとって重要なことは、包含層の形成年代にもっとも近い層固有の遺物と、残留遺物や混入遺物など時代が古すぎたり新しすぎる遺物を識別することである。この作業は相当困難であって、バーカーは最近この点についてすぐれた報告を行っている(Barker 1977:171-8)。」(ハリス(小沢訳)1995『考古学における層位学入門』:165)

ハリスも言及しているBarker1977、実は層位に関する「すぐれた報告」だけではなく、重要な原理も紹介している。

「terminus post quem と terminus ante quem の概念を理解しかつ厳密に適応することは、層序と遺構の相対年代に対して基礎的な重要性を有する。こうした概念があらゆる事例に最大限厳密にそして論理的に広範囲になされなければ、年代比定と解釈の誤りが発生するだろう。」(Philip Barker 1977 “Techniques of Archaeological Excavation” Universe Books:193)

terminus post quem とは、term after which の意、意訳すれば「それ以後」あるいは「より新しい」とでもなろうか。ここでは、“TPQ”と略す。
terminus ante quem とは、term before which の意、同じように、「それ以前」あるいは「より古い」ということか。“TAQ”と略す。

「年代可能な遺物(datable object)、例えば層や遺構から見出された貨幣や放射性炭素年代サンプルなどは、「層や遺構が埋没した時、ないしは後」(on or after which the layer or feature was deposited)の年代を示すのみである。すなわち「それ以後」(terminus post quem)と称される。」(同)

例えば、ある層がA・B・Cという3点の遺物を包含しており、全て2世紀という年代が比定されたならば、その層は2世紀ないしはそれ以降(during or after)に形成されたとされる(図62a:192)。2世紀以降ということは、20世紀をも含む、ということである。もし、A・Bが2世紀で、Cが20世紀ならば、20世紀ないしはそれ以降ということになる。

「「それ以前」(terminus ante quem)に関する議論は、後世の年代可能な遺構(later, datable features)によって、封印されるかあるいは切られている遺構あるいは層序の場合である。より新しい遺構(later features)は、terminus ante quem(すなわち、より古い遺構(earlier features)は既に埋没しており、それ以前の年代)を、すなわちより古いものとして示しうる年代をこうした全ての遺構に与える。」(194)

年代比定が可能な層(例えば14世紀に作られた床の層)より下位で見出された遺物(図64:195)、あるいは年代比定が可能な遺構が切っている遺構、あるいは層(図65:195)は、「それ以前」という原理に従う。

こうした<TPQ>と<TAQ>に関する原理的説明は、他の概説書においても見られる(Martha Joukowsky 1980 “A Complete Manual  of Field Archaeology” Prentice Hall Press.:150-157)。
そしてバーカーの別書においても(Philip Barker 1986 “Understanding Archaeological Excavation” Batsford Book:139-145)。


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