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考古時間論(17) [痕跡研究]

「・・・人間の役割についての層位学的な意味は考古学でも地質学においてもほとんど検討されることはなかった。この結果として、何百万年という堆積条件のもとで形成される地層の研究のために前世紀に考察された規則にしたがって、考古学的な層位を研究しようとする考古学者がいまだに存在するわけである。」(エドワード・ハリス1989(小沢 一雅1995訳)『考古学における層位学入門』雄山閣:11、“Principles of Archaeological Stratigraphy” 2nd edition.)

訳書率が極端に低い日本考古学において、本書が訳されたというのは、大きな意義がある。
「考古学的な層位学の諸原理は、数十年にわたる考古学的な実践をへてかたちづくられた、新しくかつ独自性をもつものである。考古学的な原理体系の存在を主張する、ハリス博士の発想を認めない地質学者や地質考古学者がいる。おそらく、かれらは適切な事例について行われた緻密な分析を知らないままでみずからの立場をうしな(う)ことになろう。とにかく、本書は「考古学的」な層位学というものが厳然として存在することを実証している。」(マイケル・B・シファー1989「序文」:3)

本来ならば、シファーの著作も訳されなければならないのだが。
それはさておき、何が「考古学的」な層位学なのだろうか。

「考古学的な層位学においては、厳密な意味では層とはいえない境界面も層単位として累重の法則の対象となる。こうした境界面は抽象的な層とみなされ、上位に接する層、もしくは境界面が切り出されたかあるいは「覆っている」層との累重関係をもつことになる。」(51)

累重法則を述べた箇所であるが、ここでは単なる層(プラス痕跡)の積み重なりだけではなく、マイナス痕跡の形成(境界面)の重要性が述べられている。

「考古学的な層位というものは、層と境界面のくみあわせでなりたっている。ひとつの堆積層と、その境界面もしくは表面が一体化された現象であるのかないのかが論じられている間は、とりあえず両者を区別しておくことが必要であろう。一方、ほかの種類の境界面は地層の破壊によって生成され、堆積によっては生成されない。したがって、境界面には主要な2つのタイプがあることになる。ひとつは層の表面であり、もうひとつは既存の層位を破壊してできる破壊面それ自身である。(中略) 不整合面は、既存の層位が侵食によって破壊された部分の目じるしとなる表面である。層位の破壊によって形成されたという意味で、不整合面は重要な層単位として自立した表面である。考古学的な層位学では、不整合面は遺構の境界面とよばれ、地層面は層の境界面とよばれる。」(81)

地質学において不整合面と呼ばれているものは、ここでは「遺構の境界面」と呼ばれている。複数の「遺構の境界面」が重複するのが、遺構の「切り合い関係」である。単独の穴ぼこが形成されるのは、プラス痕跡である地層(地面)にマイナス痕跡である穴ぼこである「遺構境界面」を形成することである。
プラス痕跡においては、層と面の形成が一体化しているのに対して、マイナス痕跡においては、面(自立した表面)のみという点が重要である。

「層位学的連続の法則を応用することによって、竪穴の内部層は遺跡の層序中で正しい位置を確保できるようになる。事実としては、この内部層は穴の垂直遺構境界面よりも新しく、穴はそれが掘られた層の中でもっとも新しい層より新しい。」(92)

ある穴ぼこに対して、「14世紀の廃物用の竪穴」とのみ認識するのか、それとも「14世紀以前につくられた竪穴」と「14世紀の廃棄物の堆積層」というように、マイナス痕跡とプラス痕跡とを識別して認識するかの違いである(p.92:図23参照)。
境界面と堆積層の区別。

「層位というものは正(堆積)と負(侵食または破壊)という両方の要素をもつ記録であって、両方を平等に記録すべきである。」(98)


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