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考古時間論(補遺) [痕跡研究]

【2006-8-22】に寄せられた「F」さんのコメントに関連して、鈴木・林テーゼとした「包む-包まれる関係」について、もう少し突っ込んで考えてみた。やや込み入った話となるが、お付き合い願いたい。

包むものである層(面)と包まれるものである遺物(点)との相互関係、特に複数の層(面)と遺物における製作と廃棄における同時性と異時性に関する相互関係、すなわち複数のもの相互の製作と廃棄における時間的関係に関する考察である。幾つかの類型に区分可能である。

A:同時に製作された遺物が、同時に廃棄される(同じ層に堆積する)。製作の同時性と廃棄の同時性が一致している。多くの事例は、こうしたケースであると考えられる。というより、このことを前提として、私たちは「同一層から出るものは、同時期である」とみなしている。

B:同時に製作された遺物が、異なる時期に廃棄される(異なる層に堆積する)。ある特定型式の遺物が上下の層に分かれて含まれる場合であり、人為的な要因を想定する。器種による使用存続期間の違い、壊れやすさの違い、伝世品の問題など、これもまたよくある事例と考えられる。

C:異なる時期に製作された遺物が、同時期に廃棄される(同じ層に堆積する)。異なる型式の遺物がある単一の層あるいは遺構に含まれる場合である。焼失家屋や火災片付け廃棄土坑など、ある特定の事象を契機として一括して埋没する事象が該当し、これまたしばしば報告されている事例である。

次に、異なる時期に製作された遺物が、異なる時期に廃棄されるという場合は、二つのケースがある。

D:古くに作られた遺物が最初に廃棄されて下層に堆積し、新しく作られた遺物が、次に廃棄されて上層に堆積する。包まれる遺物の製作順序と、包む層の堆積順序(遺物の廃棄順序)が対応している場合である。これまたよくある事例であり、そうであるが故に、包む層の堆積順序を無原則に包まれる遺物の製作順序に適応してきた、すなわち鈴木・林テーゼが十分に考慮されることがなかったという経緯がある。

E:新しく作られた遺物が最初に廃棄されて下層に堆積し、古くに作られた遺物が、次に廃棄されて上層に堆積する。包まれる遺物の製作順序と、包む層の堆積順序(遺物の廃棄順序)が一致していない、逆転している場合である。すなわち鈴木・林テーゼを考慮すべし、という事例である。

ものが作られ(M)、捨てられる(D)。作られた時の他のものとの相互関係(製作の同時性と異時性)、捨てられた時の他のものとの相互関係(廃棄の同時性と異時性)。製作(M)と廃棄(D)のそれぞれについて、こうした同時性(Simultaneity)と異時性(Old & New)を関連させると、最終的に以上の5つのパターンに集約されることになる。多くが、そして殆どの場合が、すなわちモンテリウスから山内清男に至るまで、AからDまでのケースを目の当たりにしてきたわけで、Eといった事例は極めて「例外」とも言える状態だったのではないか。
だから、確率的な物言いとして「蓋然性(Wahrscheinlichkeit)」(モンテリウス1932:19)が語られてきたと思われる。

ここから、「型式組列」の「平行性(Parallelismus)」(同:31)へと至る論理階梯についても、若干引っかかる部分もあるのだが、その解明については、後日に先送りされた課題としておく。


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五十嵐彰

「出土状況を型式研究にもっと組み込んでいくべきであると思っています。今回の口頭発表でもいくつか、出土状況で逆転する例も紹介しました。もちろんこれは特殊な例で、いつも出土状況が型式と逆ということはなく、それは100例中の1例2例です。基本的に出土状況によって相対的な順番が担保されていくということは間違いない。その事例を積み重ねることによって、我々は歴史的復元の材料を得ているわけです。」(小林謙一2005「討論の記録」『縄文研究の新地平』考古学リーダー6:105)
「さらに深い考古学的な問題」を見るために、私たちは、何をどのように、考えればよいのか。
by 五十嵐彰 (2006-09-07 12:15) 

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