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考古時間論(総括3) [痕跡研究]

考古時間論に関する第2問題(プラス痕跡とマイナス痕跡)について。

プラス痕跡とは、積み上げられた痕跡である。
マイナス痕跡とは、削り取られた痕跡である。

遺構(穴ぼこ)に即して考えてみよう。
出発点:平らな地面がある。(これも自然堆積というプラス痕跡の積み重なりか、あるいは不整合面というマイナス痕跡の跡という場合もあるのだが、この場合は置いておこう。)
第1段階:人が穴を掘る。すなわちマイナス痕跡の形成である。正確には、スコップの一掘りであるマイナス痕跡の累積によって、穴ぼこというマイナス遺構が形成されるわけである。
掘った土は、穴ぼこの横や一輪車の上などに置かれる。すなわちプラス痕跡の形成である。
この時点で、プラス痕跡には、「包む-包まれる関係」が発生する。ところが、マイナス痕跡は、単なる「面」あるいはマイナス面の累積である穴ぼこがあるのみである。マイナスの垂直面(ハリスが言うところの「垂直遺構境界面」)の形成である。
第2段階:空間確保遺構としての穴ぼこは、使用終了後には廃絶空間としてエントロピー増大法則により土壌が堆積していく。一方、埋設遺構では、製作行為の仕上げとして意図的に埋められていく。
ここで初めて、マイナス遺構における「包む-包まれる関係」が、発生する。

これが、「プラス痕跡およびマイナス痕跡形成の基本サイクル」である。
プラス痕跡では第1段階で発生する「包む-包まれる関係」が、マイナス痕跡では第2段階で発生する、すなわちプラス痕跡とマイナス痕跡では、「包む-包まれる関係」の発生段階が一段階ずれるというのがミソである。

マイナス痕跡には、面形成というプラス痕跡には存在しない一過程が不可避的に存在する。マイナス痕跡において面が形成されている時間(プロセス)に対応するのが、プラス痕跡の形成されている時間(プロセス)である。堆積という現象に着目すれば、プラス痕跡の形成・堆積に対応するマイナス痕跡の堆積は、マイナス痕跡の面形成の後に位置する。
そして、マイナス痕跡群(穴ぼこ)への堆積自体が、プラス痕跡なのである。

これは主に遺構痕跡について言えることなのだが、一般的に痕跡間の時間経過、プラス痕跡について言えば、層の堆積間隔については、痕跡のみからでは不可知、知りえないとされてきた。例えば、ある層の上に次の層が堆積するのは、1時間後かも知れないし、100年後かも知れないということである。しかし、このことについても、プラス痕跡とマイナス痕跡とではいささか趣きが異なるのではないか。
すなわち、マイナス痕跡の痕跡間経過時間、すなわち切り合い関係にある穴ぼこ同士の形成時間差については、先行する穴ぼこの形成→埋没→新たな穴ぼこの形成というように、「切られる」穴ぼこの埋没過程が必然的に介在するが故に、プラス痕跡の形成と等しいということは有り得ないだろう。
そして、同じマイナス痕跡遺構についても、埋没が製作過程に組み込まれている「埋設遺構」と埋没が廃棄過程に位置づけられる「空間確保遺構」とでは、遺構形成間隔が異なるであろうことも、容易に予想される。

住居跡と墓穴との重複痕跡形成間隔の質的差異について。

私たちは、こうしたことを考慮せずに、果たして「環状集落の空間構造」について語れるのだろうか?


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