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考古時間論(16) [痕跡研究]

そして2000年代である。
「堆積後に地層の逆転がない場合、古い地層ほど下位に堆積しているという法則。考古学では地層の堆積順序(層序)にしたがって、包含される遺物の相対年代が決定される。」(松藤 和人2000「地層累重の法則」『旧石器考古学辞典』学生社:103)
「石製遺物に見られる剥離痕や剥離面相互の新旧関係。」(佐藤 良二2000「切り合い関係」:41)

「層位学を確立したのは地質学であり、相重なる二つの地層のうち、本来下位にあった地層は上位の地層より古いとする「地層累重の法則」がある。ここからその土層が包含する遺物(以下、遺構を含む)の新旧が推定できるとして、考古学研究における層位学が成立する。」(鈴木 保彦2002「層位学」『日本考古学事典』三省堂:508)
「・・・同じ層が包含する遺物は、それが同じ時期に廃棄ないし埋没したものであっても、その製作ないしは使用の時期が同じとは限らない。」(同:509)

 「包む-包まれる関係」は、2000年代に至ってなお、明確に認識される場合もあれば(鈴木(保)2002)、されない場合もある(松藤2000)。そして層位学的原理としての「切り合い関係」の認識は、依然として定着していない(としか思えない)。

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考古時間論(15) [痕跡研究]

さて、90年代である。

「遺跡において、異なる層の上下の関係から、それぞれの層に含まれる遺物の年代的な相対関係を知ったり、同一層位において、年代の確実な資料が発見された場合、同じ層にある他の遺物の年代を推定したりする。」(斉藤 忠1992「層位学的方法」『日本考古学用語辞典』学生社:256)
「石器に調整を加え一定の形に整える際、いくつかの剥離痕が生ずることになる。その剥離痕からの剥離の順序関係をいう。」(同「切り合い関係」:121)

「相対関係を知ったり」「推定したりする」ほかは、何を「したりする」のだろうか?
ここには、鈴木・林テーゼも井戸尻編年も、何の影響も見られない。

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考古時間論(14) [痕跡研究]

「台地上に営まれた集落址では年代を異にする竪穴住居址などの遺構の間に層位的な上下関係が認められず、ほとんど同一のレベルに掘りこまれている場合が多い。こうした遺跡ではしばしば古い遺構と新しい遺構の一部が平面的に重なり合っていて、詳細に観察すると古い遺構を新しい遺構が切っていることがわかる。このような切り合い関係から遺構の新旧関係をつかみ、それぞれの遺構にともなう遺物の新旧関係を明らかにすることも、発掘にあたって留意しなければならない課題である。遺構の切り合いは、垂直的な層序関係や、伴出する土器の変化などではとらえることの出来ない短期的な年代差を示すことがある。」(甘粕 健1977「発掘とは何か」『考古資料の見方<遺跡編>』地方史マニュアル5、柏書房:94)

「Aが古くBが新しい」場合と「bが古くaが新しい」場合が平面図と断面図で、「竪穴住居の切り合い模式図」として示されている(同:95)。また池上遺跡の大溝断面図、朝光原遺跡のV字溝と住居址の関係(94)、与介(ママ)尾根遺跡の重複住居址(99)、平城京跡官衙整地層(102)、そして和島誠一1956による瓜郷第2貝塚第一発掘区断面図の引用(114)など随所で「切り合い関係」について言及されている。「垂直的な層序関係」と共に、「切り合い関係」が初めて総論の中で位置づけられたとも言えよう。

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考古時間論(13) [痕跡研究]

「層位学は、地質学における<地層累重の法則>の大原則にもとづいている。すなわち、土中深く包含されているものは、浅い位置のものよりも時間的に古く、浅いものはより新しいという法則である。もっとも、この場合ものの包含されている土中の深浅度の比較というだけでは十分な説明とはならない。本来の意味は、ものを包含している層の積み重なりの上下関係にあり、上位の層が下位の層よりも新しいという時間的秩序を示すところにある。こうして、上位層に包含されるものが下位層に包含されるものよりも新しいという関係によって編年が成立するのである。」(小林達雄1975「層位論」『日本の旧石器文化』第1巻:114)

ここでは、「もの」という単語に強調符(傍点)が付けられている(引用文では太字で表示)。1番目、2番目のものは、「物」の意であろう。なぜ3番目のもの(浅いもの)に強調符がないのか、よく判らない。とにかく、包んでいるものの空間的位置によって、包まれているもの(「包含されているもの」)の時間的新旧(秩序)を述べている。しかし、続いて「もっとも」という接続詞と共に展開される節においては、「本来の意味」すなわち地質学的な意味において、包んでいる層の上下関係から導き出されるのは、包んでいる層の時間的前後関係のみである、という正しい認識が述べられている。ところが、さらに続く文章では、「こうして」という論理的帰結を導く接続詞と共に、その正しい認識がいとも簡単に覆って、「包含されるもの」の空間的位置関係が、すなわち「包含されるもの」の時間的前後関係を示すとして、結論づけられている。
これでは、「鈴木・林テーゼ」から何を得て、何を得ていないのか、見当がつかない。というより、読者は混乱するだけである。

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考古時間論(12) [痕跡研究]

そして「鈴木・林テーゼ」以後である大井1979である。
「元来、地質学から移入された方法で、単純には「地層累重の法則」、つまりより新しい地層は古い地層の上に重なるという原則、の上に立っているといってもよいが、実際には、それが考古学研究に取り入れられ、その方法として消化されていく過程で、独自な、いわば考古学的な層位学ともいうべきものに発展してきている。」(大井晴男1979「層位論的方法」『世界考古学事典』:630)

どのように独自な層位学なのか。

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考古時間論(11) [痕跡研究]

「包む-包まれる関係」という「鈴木・林テーゼ」(鈴木1969、林1973)を挟んで、興味深い文章が発表されている。
大井1966および1979である。

「考古学において、遺物・遺構および遺跡の時期を決定するための、もっとも基本的な、かつもっとも決定的な方法は、層位学的方法である。層位学的方法は、同一地点において、遺物・遺構および遺跡の垂直的な位置関係 -層位的関係- は、それらがその地点に残された時点以後に動かされていないかぎり、時間的な前後関係におきかえられるという原理にもとづいている。」(大井晴男1966「年代の決定 -層位学的方法-」『野外考古学』:19)

ちょっと引っかかる部分もあるが(例えば、同一地点における遺跡の垂直的な位置関係?)、当たり障りのない文章である。

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考古時間論(10) [痕跡研究]

角田1968に引き続いて、冒頭に「層位は型式に優先する」という小見出しをつけた文章(芹沢1968:193-208)が掲載されている。
「層序は、地質学上の根本法則のひとつである「累重の法則」によって生じた地層の重なりである。ながい旅行に出て、しばらくぶりで家にかえってみると、玄関には山のように郵便物や新聞紙がつみ重なっていることがある。下のものほど日付が古く、上のものほど日付が新しい。このような堆積の原理を応用して、層序をつきとめ、その層位によって土器や石器の新古をさだめれば、考古学上の相対編年を確立することができる。」(芹沢長介1968「層序と編年」『新版 考古学講座 第1巻 通論<上>』雄山閣:193-4)

非常に判りやすい、ある意味で誰もが納得してしまう巧みな、そして印象的な喩えである。しかし、よく考えてみれば、というのは「鈴木・林テーゼ」を応用してみればということであるが、なかなかそうもいかないということも容易に理解できる。

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考古時間論(9) [痕跡研究]

1968年には、「年代研究」とは別に、「層序研究」という項目を立てた講座本が世に現れた。
「考古学が特定地域または特定文化を歴史的に究明しようとするときは、層序による時期、時代、年代の前後関係を確立することが根本となる。それはあたかも地質学・地史学が累積する地層の順序にしたがって、地質年代を体系化する方法に似ている。というよりは、むしろ地質学によって考古学の層序研究の途が開かれたとみてよいのである。」(八幡一郎1968「序説」『新版 考古学講座 第1巻 通論<上>』雄山閣:171)

シュリーマンのトロヤ発掘を述べた後に「わが国における竪穴住居址の新古や、墓壙の年代決定は、これと共通した処理方法を必要とするのである」(172)とするが、具体的にどのような「処理方法」なのかについては、述べられていない。

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考古時間論(8) [痕跡研究]

1960年前後には、考古時間論としても重要な研究が胎動しつつあった。

「従来、日本の先史考古学がその編年学的研究を体系化するために、最も重要視してきたのは、層位的方法による遺物の観察であった。この方法は将来もまた必要な方法として重視されるべきであろう。
しかし浅い表土の下に埋もれる竪穴住居阯の中では、その方法は十分に適用できない。とくに竪穴の周辺から次第に中心部に向かって埋めていく、われわれのいう直角三角形の堆土では、上部に古い土器が多く、床面に近いいわば下層に、より新しい土器が包含されていたなどという例もあった。

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考古時間論(7) [痕跡研究]

考古時間論を考える上で、鈴木1969と林1973で示された考え方(型式と層位とは二つの異なる時間認識であり、包含される遺物(型式)と包含する層(層位)の時間認識について識別せよ!)が大きなメルクマールになると思われる。
こうした視点でもって、層位あるいは地層累重に関して述べられた考え方について、「鈴木・林テーゼ」すなわち「包む-包まれる関係」を基点に、1969-73以前と以後に分けて、考古学研究者の考古学的時間に関する諸見解について考えてみよう。その際、右手に「累重法則」、左手に「切り合い法則」を携えることが肝要である。
まずは、「鈴木・林テーゼ」以前である。

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