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山田2021・2022「ウサギ・石器・イヌワシ?」 [論文時評]

山田 しょう 2021・2022「ウサギ・石器・イヌワシ? -青森県尻労安部洞窟の語るもの-」『旧石器考古学』(前編)第85号:65-84. (後編)第86号:21-36.

「本州北端の小さな洞窟の調査が持つ考古学・人類学上の意義を検討するのが本稿の目的である。(中略)
そもそもここにある動物遺体は人間による狩猟の結果なのだろうか。これについての調査者の説明は、懐疑的な研究者を納得させるに十分なものだろうか。
この資料の「乏しさ」は、動物遺体の由来の検討と、洞窟を利用した狩猟採集民の行動の復元に、決定的な制約を課しているように見える。しかし責任を全て遺跡に帰すことは公平ではない。この等閑視の状態は、出土資料がほとんど石器のみである日本の旧石器時代の遺跡への適応によって生じた、このような資料への私たちの適応力の乏しさをも映し出している。」(前編:65.)

2001年から2012年まで12年間なされてきた発掘調査の成果を報告した『尻労安部洞窟Ⅰ』(2015)に対して2年越しで成された考古誌批評である。
導かれて批評対象である考古誌を改めて読み返しながら、批評文を読み進める。
読者に対して批評対象まで遡って読ませるのが、力ある批評文である。

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加藤2022「杉並区向ノ原遺跡の近代遺構と遺物」 [論文時評]

加藤 秀之 2022「杉並区向ノ原遺跡の近代遺構と遺物 -久我山高射砲陣地と関連して-」『東京都埋蔵文化財センター 研究論集』第36号:31-46.

「久我山陣地は、戦争末期に高度1万m上空を飛行するB29を撃墜するために開発された「15糎高射砲」が唯一設置された高射砲陣地として、ミリタリー系雑誌などに取り上げられることも多いが、その構造は明らかにされていないのが現状である。
本稿では、向ノ原遺跡で検出された近代の遺構・遺物を再確認し、現状での久我山陣地の構造を把握することを目的とする。」(32.)

B-29による「帝都空襲」を防ぐために急遽開発された新型高射砲2基が唯一配備されたのが、久我山高射砲陣地であった。15糎高射砲とは、今でいうアメリカがウクライナに供与しているM777榴弾砲や防空ミサイル・スティンガーのようなものである。
言い伝えには聞いていたが子どものころ遊んでいた、そして小学校の運動会の会場にもなっていた馴染みの場所の地下に「こんなもの」が埋まっていたとは! 心底、驚いた。

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五十嵐2022c「収奪文化財は、瑕疵文化財である」 [拙文自評]

五十嵐 2022c「収奪文化財は、瑕疵文化財である」『韓国・朝鮮文化財返還問題連絡会議年報』第11号:2-3.

2022年4月20日に衆議院第1議員会館で「文化財返還運動から見通せること」と題して発表した概要である。

始めに誤字の訂正を。
2頁 左段 1行目:三. 傷の修復 → 1.傷の修復
初校・再校と何の問題もなかったのに、決定校でいきなり…
これだから、デジタル入稿は怖い。

「文化財返還とは、<もの>に生じた「傷」を修復することである。その「傷」は、表面的には目に見えない。しかし、その<もの>がその<場>にもたらされた経緯をしることによって明らかにされる。表面的に華やかで素晴らしい異国の文化財ほど、今ある<場>にもたらされた経緯に伴う深い「傷」がいくつも記されている。こうした目に見えない「傷」は、技術的な修復作業では、元の姿に戻すことができない。「傷」の唯一の修復方法は、本来の所有者である「あるべき<場>」に戻すことである。」(2.)

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五十嵐2022b「植民地・占領地から収奪した瑕疵文化財」 [拙文自評]

五十嵐 2022b「植民地・占領地から収奪した瑕疵文化財」『しんぶん 赤旗』第25623号(2022年5月27日)10面

「日中国交正常化50周年の今年、植民地・占領地から日本が収奪した文化財の返還に関心を寄せる人びとが「中国文化財返還運動を進める会」を結成し運動が始められている。」

4月20日開催の集会に参加された記者の方から依頼されて記した「文化の話題」と題された箇所に掲載された短文である。
返還対象となる主な事例から近年の国際的な動向までを1600字という制限の中で記してくださいという依頼である。
編集局が付けた見出しは「求められる説明と返還」である。

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