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五十嵐2022b「植民地・占領地から収奪した瑕疵文化財」 [拙文自評]

五十嵐 2022b「植民地・占領地から収奪した瑕疵文化財」『しんぶん 赤旗』第25623号(2022年5月27日)10面

「日中国交正常化50周年の今年、植民地・占領地から日本が収奪した文化財の返還に関心を寄せる人びとが「中国文化財返還運動を進める会」を結成し運動が始められている。」

4月20日開催の集会に参加された記者の方から依頼されて記した「文化の話題」と題された箇所に掲載された短文である。
返還対象となる主な事例から近年の国際的な動向までを1600字という制限の中で記してくださいという依頼である。
編集局が付けた見出しは「求められる説明と返還」である。

「不当な手段で持ち出された文化財は、入手の過程に問題がある「瑕疵文化財」である。告知義務のある瑕疵物件と同様に、その所有組織は自らが所有する瑕疵文化財が抱える問題を観覧者に示す義務がある。そのことを通じて、返すべき<もの>と返さなくていい<もの>が明らかになっていく。」

最近、主張している「瑕疵文化財」について。
瑕疵物件とは不動産業界における用語で、英語で言えば Stigmatized Property(問題ある不動産)である。だから瑕疵文化財は Stigmatized Cultural Property(問題ある文化財)である。
瑕疵物件については、主に心理的瑕疵(自殺・他殺・事故死など人の死が発生した場合)、物理的瑕疵(雨漏り・漏水など見えない欠陥)、環境的瑕疵(火葬場や墓地など嫌悪施設の存在)、法律的瑕疵(違法建築や耐震設計偽装など)に区分されるが、議論は心理的瑕疵が主となる。

2021年10月に国土交通省 不動産・建設経済局 不動産業課が「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」を設定した。
どの程度の心理的瑕疵を不動産取引において許容するかという点について明文をもって合意することは難しいが、適切な告知が必要であり、故意に告知しなかった場合には民事上の責任を問われる可能性があるために役所として大まかなガイドラインを設定した訳である。

問題ある文化財すなわち瑕疵文化財についても、同様に「告知事項あり」との記載が必要である。
すなわち「小倉コレクション保存会寄贈」では「告知事項」として不十分であり、観覧する人すべてが理解できるように、例えば「植民地期に不当に収集された収奪文化財」と記す必要があるだろう。
こうした事柄に対処するためにも、文科省がガイドラインを示す必要があるのではないか。

もちろん瑕疵物件と瑕疵文化財では、違いもある。
例えば瑕疵物件は売り手と買い手といった売買契約すなわち所有権の移転に伴う場面が想定されている。
それに対して瑕疵文化財は博物館施設や一般購買者が骨董業者など文化財資料を買い入れる場面はともかく、その最終的な形態すなわち博物館施設が公開展示する際に一般社会に広く示す場合が問題となる。
この場合は一対一の個別取引ではなく、所蔵組織と観覧者に代表される一般社会という展示の場面におけるあり方が想定されることになる。

また瑕疵物件はたとえ何百万円という費用をかけてフルリノベーションを施してもその「瑕疵」をクリアすることはできないのに対して、瑕疵文化財はあるべき元の場所に戻すことによってその「瑕疵」をクリアすることができる。
目には見えない傷(瑕疵)を修復することによって、むしろかつての奪った側と奪われた側が新たな関係性を構築することが可能となる。

「いま、武力で自らの欲するものを奪い取ろうとする蛮行が日々報じられている。誰の目にも明らかなのは、力による不正・不当な行為がまかり通り、そのことで形成された現状が追認・黙認されてはいけないということである。」

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