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五十嵐2022c「収奪文化財は、瑕疵文化財である」 [拙文自評]

五十嵐 2022c「収奪文化財は、瑕疵文化財である」『韓国・朝鮮文化財返還問題連絡会議年報』第11号:2-3.

2022年4月20日に衆議院第1議員会館で「文化財返還運動から見通せること」と題して発表した概要である。

始めに誤字の訂正を。
2頁 左段 1行目:三. 傷の修復 → 1.傷の修復
初校・再校と何の問題もなかったのに、決定校でいきなり…
これだから、デジタル入稿は怖い。

「文化財返還とは、<もの>に生じた「傷」を修復することである。その「傷」は、表面的には目に見えない。しかし、その<もの>がその<場>にもたらされた経緯をしることによって明らかにされる。表面的に華やかで素晴らしい異国の文化財ほど、今ある<場>にもたらされた経緯に伴う深い「傷」がいくつも記されている。こうした目に見えない「傷」は、技術的な修復作業では、元の姿に戻すことができない。「傷」の唯一の修復方法は、本来の所有者である「あるべき<場>」に戻すことである。」(2.)

東京・上野にある独立行政法人 国立文化財機構 東京文化財研究所に保存科学研究センター 修復技術研究室があるが、ここでも「目に見える傷」しか修復できない。
こうしたところで働く人は一般的に「文化財修復技術者」あるいは「文化財修復士」と呼ばれているが、文化財返還運動を推進する人たちも「目に見えない傷」を修復する「文化財修復士」である。

「元の<場>である占領地や植民地から植民地宗主国・帝国本国に運ばれた収奪文化財は、元の<場>に戻されない限り、その瑕疵である傷が消失することはない。元の<場>に戻されることによって、初めて傷が癒されて、<もの>本来の価値が取り戻される。
しかし、元の<場>に戻されるにあたって、その<もの>がもたらされた時と同様に、暴力的あるいは不法・不当に戻されるのならば、それは決してその<もの>本来の価値が取り戻されることにはならない。むしろ収奪されることによって瑕疵文化財となった<もの>が、再び収奪されることによって二重の瑕疵が上書きされてしまう、言わば「重瑕疵文化財」となる。これが、対馬仏像問題の本質である。」(3.)

瑕疵文化財という概念を経由することによって、対馬仏像問題について「重瑕疵文化財」という位置づけが可能となる。
どんな手段であろうと結果が大切と考える「結果主義」に対する、結果を生み出す手段を重視する「手段主義」の対置である。

「最近、「ルッキズム」ということが言われるようになった(例えば『現代思想』第49巻 第13号「ルッキズムを考える」2021年11月1日発行)。<ひと>を評価する際に、その人の外見・容姿や身なりといった「見た目」で評価することの是非である。
同じように文化財と呼ばれている<もの>についても、価値が高いとかたぐいない宝といった<もの>自体の評価に加えて、<もの>がたどってきた「ある者の手から他の者の手へとそれが渡ってきた伝承の過程もまた、野蛮から自由ではない」(ベンヤミン1940『歴史哲学テーゼⅦ』)という<もの>にまつわる経緯を加味した深みのある総合的な<もの>評価システムが確立されなければならない。」(3. 一部加筆)

現行の国宝選定基準に代表される私たちの文化財観に対するエシカルな時代の文化財ルッキズム批判である。

「獲った人・収奪した人は、獲られた人・収奪した人の気持ちを理解することが難しい。そうした関係を「ロゼッタ・ストーン・ヘンジ」という言葉で表現したい。「ロゼッタ・ストーン」は、ロンドンにあるよりもエジプトにあるほうがふさわしいし、「ストーン・ヘンジ」もまたカイロ郊外の砂漠にあるよりもソールズベリー平原にあるほうがふさわしいからである。」(3.)

獲った人たちは、獲られた人たちの気持ちを理解することが困難である。
ところが獲られた人たちですら、獲られた人たちの気持ちを理解することが困難なのである。
そのことを示したのが、対馬仏像問題である。

「かつて植民地を支配し、そのことによってもたらされた特権を享受している日本に暮らす一人として、私たちを取り巻く瑕疵文化財の傷を修復して、私たちの社会が負っている目に見えない傷を修復することに力を合わせたい。」(3.)

【お知らせ】
2022年 6月 12日(日)19:30~21:00
『「瑕疵文化財」に関するリモート意見交換会』
韓国・朝鮮文化財返還問題連絡会議の2022年度総会(19:00~19:30)に引き続き、上記の公開勉強会を開催します。
ご関心のある方は、誰でも参加できます。

・Zoomアドレス:https://us02web.zoom.us/i/5982358528(ミーティングID:598 235 8528)

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