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中尾2020「日本考古学の理論的・哲学的基礎」 [論文時評]

中尾 央 2020「日本考古学の理論的・哲学的基礎 -発掘報告書と型式(学)を中心に-」『旧石器研究』第16号:1-9.

「…其処彼処で、発掘報告書ベースの研究は価値がない、と断ずる評価を耳・目にする機会があった。」(2.)
「…発掘報告書の価値を批判するのはまだしも、そう簡単に断罪するだけで良いのか、という点である。」(同)
「…自らが作成した情報は信頼できないものである、などと開き直るだけでは、自らの首を自らで締めることにもつながりかねない」(同)
「…発掘報告書というのは研究の基礎にできないほどあやふやで、価値がないものなのだろうか?」(同)

こうした言葉が、繰り返されている。しかし、こうした記述の元になった発言や論文が、具体的に明示されることはない。伝聞や噂レベルならともかく、明確な文献・典拠が示せない相手を対立項目の一方に仕立てて、如何なものかと問われても、「内部の人間」としては困惑するしかない。

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安藤2020「近現代考古学の可能性」 [論文時評]

安藤 広道 2020「近現代考古学の可能性 -社会に開かれた歴史を目指して-」『経済史研究』第23号:33-56.

2018年7月21日に大阪経済大学日本経済史研究所が主催した黒正塾 第20回寺小屋「考古学への招待」でなされた講演記録である。

「どんな話しをするのかというと、歴史は、私のような研究を仕事にしている人間が、一方的に皆さんに伝えるものではないのじゃないかということ、そして歴史を語る主体は皆さん一人ひとりであって、歴史の世界全体を皆さんの対話のネットワークとして捉え直していくべきではないかということです。」(33.)

「我々の研究室には近現代の考古学を専門とする教員はいませんでした。でも見つかってしまったもの(キャンパス内の旧帝国海軍の地下壕の出入口:引用者挿入)を放っておくわけにはいかないので、私がその調査を担当することになったのです。つまり、私は近現代の歴史に必ずしも望んで入ったわけではありませんでした。しかし、いざ飛び込んでみると、そこがこれまで私がいた世界とは大きく違っていることに驚き、そこに大きな可能性を感じて近現代史に深く関わっていくことになったわけです。」(34.)

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五十嵐2020b「文化財返還を拒むものは、何か?」 [拙文自評]

五十嵐 2020b「文化財返還を拒むものは、何か?」『韓国・朝鮮文化財返還問題連絡会議年報』第9号:9-11.

1.   勅令第263号の意味
2.   文化財返還の前提的認識
3. 「日本考古学」の最前線
4. 「日本考古学」の刻印

自らの関心ある領域あるいは専門とする主題が、ナイフ形石器であろうと連弧文土器であろうと黒曜石原産地であろうと動物考古学であろうと、なされているのが日本社会である限り、それは「日本考古学」の一部であり、「日本考古学」の成立過程には、必然的に「植民地考古学」が関わっており、日本社会で考古学という学問に関わる人は誰もが必然的に「文化財返還問題」に関わらざるを得ない。
自分は無縁であると断言できる人は、一人もいない。
たとえ本人がそうではないと思っていたとしても。

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「旧石器研究の理論と方法論の新展開」:討論の記録 [石器研究]

日本旧石器学会 第17回シンポジウム「旧石器研究の理論と方法論の新展開」:討論の記録 『旧石器研究』第16号:125-142.

昨年6月に行われた砂川問題(西部戦線)の討論(闘争)記録である。砂川闘争は、個別発表の後にもなされており、今回活字化された部分は、実際になされたやり取りのおよそ半分ぐらいである。

「そもそもこのシンポジウムにおいて、接合の方法論的な意義を語る私の発表はあるのに、なぜ母岩識別法を語る発表は設定されてないのか。母岩識別論者には本日提出した私の7つの疑問に答えていただきたいと切に望むのですが、個人的には砂川モデルを主題としたシンポジウムないし公開討論会のようなものが設定されてしかるべきだと思います。」(139.)

果たして日本旧石器学会主催シンポジウム「砂川モデルを問う」という「新展開」は見られるだろうか?

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