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田中2019『「共生」を求めて』 [全方位書評]

田中 宏(中村 一成 編)2019『「共生」を求めて -在日とともに歩んだ半世紀-』解放出版社

闘い続けてきた人へのインタビュー記事を一書にまとめたものである。こうした「闘い続けてきた人」に接すると、ただただ畏敬の念に打たれる。ポイントは、何に対して「闘い続けてきた」のかという点である。

著者の「闘い続ける」原点は、1960年代のアジア人留学生との出会いである。

「夏休みで私も帰省する。声掛けたら彼も来るって言うから、岡山の田舎に連れてって。田舎の村にインド人が来ることはない。同級生は結構いるし、ものは試しと思って、公民館で七、八人集まって雑談する場を設けたんです。それで懇談になって若い村の人が、「日本に来て一番驚いたことは?」と聞いたんです。そしたら彼は「天皇が健在で、首都東京の真ん中にあんな大きい居を構えていることです。私は、天皇はすでに退位しているか、どこかの離れ小島に隠居していると思ってました」って答えた。「だってあの戦争は多くのアジアの人びとが犠牲になったし、あなたたちも天皇の戦争でいろいろとひどい目に遭ったでしょ。皆さんの家族にも戦死した人がいるのでは? その責任を天皇が取らないのは理解できない。そうじゃないですか?」って。」(11-12.)

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メルケル(三島訳)2020「アウシュヴィッツ=ビルケナウ財団10周年記念式典にあたって」 [雑]

アンゲラ・メルケル(三島 憲一訳)2020「アウシュヴィッツ=ビルケナウ財団10周年記念式典にあたって」『世界』第931号:143-151.

2019年12月6日、ポーランド国立オシフィエンチム博物館にて犠牲者の生前の肖像写真群を背景に、生還者および犠牲者の縁故者を前にしてなされた、およそ15分間のスピーチ
「下手人たちをはっきり名指すことが重要なのです。私たちドイツ人は犠牲者に対して、そして私たち自身に対して、そうする責任があるのです。犯罪を記憶し、下手人たちをはっきり名指し、犠牲者たちの尊厳にふさわしい哀悼の心を保つこと、この責任に終わりはありません。この責任にはいかなる変更の余地もありません。この責任は、私たちの国と不可分に結びついています。この責任の自覚は、私たちのナショナル・アイデンティティの確固たる構成要素なのです。啓蒙された自由な社会、民主主義と法治国家という自己理解の確固たる一部なのです。」(144.)

元のドイツ語が何であるか確認できないが、「下手人」という日本語は語感がキツイが(動画の日本語字幕では「犯罪者」)、国家の責任者が自国の犯した過去の犯罪行為に対して、加害者の責任および後継者である自らの責任について明言し、かつそのことが現在の国家において「確固たる構成要素」であるとする明確な意思表示が、世界の共通理解(グローバル・スタンダード)である。

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