SSブログ

『世界史のなかの文化財返還』 [全方位書評]

森本 和男・纐纈 厚・五十嵐 彰 2023『世界史のなかの文化財返還 -未決の植民地主義を超えるために-』中国文化財返還運動を進める会 ブックレット【2】(2023年11月11日 発行 500円)

1 文化財返還の世界の現状(森本 和男:2-35.)
2 帝国日本の生成過程と文化財収奪(纐纈 厚:36-45.)
3 「戦利品」という考え方(五十嵐 彰:46-49.)

「2023年4月22日「中国文化財返還運動を進める会」は、東京都内で「中国からの略奪文化財返還を求める!4・22大集会」を開催しました。このたび、当日の集会内容を元にして、ブックレットとして刊行しました。
当日の集会は、「韓国・朝鮮文化財返還問題連絡会議」世話人の森本和男さんと、本会共同代表の纐纈厚の講演、このお二人に本会共同代表の五十嵐 彰を交えたシンポジウムというプログラムで進められました。今回ブックレットにまとめるにあたり、森本さんには講演を元に時間の制約で充分展開できなかった点も含めて、全面的に改稿した文章をお願いしました。また、シンポジウムでの五十嵐コメントについては、同趣旨の既発表の文章を収録しました(原載・『思想運動』第1067号・2021年8月1日)。」(1.)

ブックレットの入手を希望される方は、以下までご連絡ください。
info@ichinoselaw.com あるいは https://cbunkazaihenkan.com/ の申し込みフォーム。
郵便振替:00120-7-636180(口座名 中国文化財返還運動を進める会)

「ここ数年、欧米では植民地から取得した文化財を返還する動きが活発となっている。かつて植民地を支配した帝国主義の間で、暴力的支配や虐殺を認め謝罪する脱植民地化が進行している。現代社会を不安定にさせている差別や人権侵害が植民地支配や奴隷制に起因し、多様性(ダイバーシティ)や包括性(インクルーシブ)の社会を目指すには、脱植民地化が喫緊の課題と認識されているからである。そして脱植民地化の一環として、植民地から文化財を持ち去ったのは不当であり、歴史的不正義を是正するという倫理が形成され、旧宗主国の政府あるいは社会で、文化財返還が進められているのである。」(森本:2.)

そしてフランス(2-4.)、ドイツ(5-7.)、オランダ(7-10.)、ベルギー(10-12.)、イギリス(12-13.)、アメリカ(14-15.)と欧米各国における文化財返還の状況が述べられている。

「21世紀になって持続可能な開発や気候危機に対処するため、人権や自然を大切にする社会が求められるようになった。人類の経済活動が地球を破壊するとして「人新世」という概念が提唱され、資本主義の際限ない拡大を阻止する脱成長の動きも生じてきた。同時に人種主義や経済格差の是正を求める社会運動が世界中に広まった。
ブラック・ライブズ・マターの抗議運動で、旧来の植民地主義を象徴するモニュメントが撤去された。資本主義社会で大きな転換が進むなか、かつて植民地から持ち出された文化財についても、ヨーロッパから原産国へ返して、旧植民地の権利や文化を回復させ、新しい国際関係を再構築することが提案されているのである。」(16.)

そして中国文物の返還(20-32.)である。

「ヨーロッパ旧宗主国は植民地支配や虐殺の悲惨な歴史的事実を認識して、和解や対話をへて謝罪や賠償を進めている。この脱植民地化の一環として文化財返還も実行されているのである。ところが日本ではこのような脱植民地化の動きは希薄で、戦争や植民地で奪ってきた文化財についてもほとんど議論されていない。
日本では、東アジアの被侵略国や旧植民地で起きた暴力的支配の歴史的事実を認め謝罪と賠償を行なうことを自虐史観と批判して、過去から目をそむけ、さらに歴史的事実すら否定する保守勢力、歴史修正主義が横行している。それゆえ脱植民地化の動きも鈍いのだろう。中国や韓国とともに、侵略や植民地支配について理解を深める和解や対話を保守勢力にうかがうことはできない。むしろ中国人や韓国人を旧来のまま蔑視し差別する傾向にある。自虐史観批判の東アジア軽視の高圧的姿勢は、卑屈ともいえるほどの対米従属の外交路線とおそらく表裏一体の関係なのだろう。」(34.)

戦時期に植民地や占領地であった朝鮮や中国から不当に持ち出された文化財を元にあった場所に返還することに対して、「反日的である」とする認識が一部にある。しかし述べられているように収奪された文化財を返還することは世界の脱植民地化の動きの一環である。文化財返還に反対するということは、脱植民地化の動きに反対するということである。すなわち継続する植民地支配を維持したい、あるいはかつてのような植民地支配を復活させたいという意思表明である。これは、世界の動向に対して真逆な動きである。こうした世界認識は、脱植民地化を求める世界にあって、日本の国益を損なっている。すなわち文化財返還を「反日」とする認識こそが「反日」なのである。

「今日のテーマのひとつは、文化=文化財を通じた植民地支配です。それらはむしろ、より肯定感をもって捉えられてきたのではないか、今でもそうです。(中略)
近代化には暴力が持ち込まれ、はじめて近代化がなし遂げられる。その暴力性という負の政治は、植民地化の中にねじ込まれている。そこで、文化抹殺と文化略奪が繰り返される。
脱植民地化は現在も進められていない。その目標となるのは、今日のテーマでいえば、脱植民地化を進める、奪ったものをもとの場所に返す、関係性を修復・再構築していく契機、ツールとして文化財の返還をめざし、歴史を検証していくことです。植民地主義を克服するには、文化財返還が必要です。平和が求められていく契機として、文化財の返還が求められていると感じています。」(纐纈:45.)

「戦時期に武力や政治力を背景に占領地や植民地からもたらされた数多くの不当な文化財を、本来の所有者である元の場所に暮らす人びとに戻すという文化財返還は、植民地経営を経験した帝国国家の後裔国が、自らのたどってきた近代という時代を反省的に振り返り、「戦利品」のような私たちに抜き難く残り続ける植民地主義的な考え方を捉え直す、痛みをもったしかし希望に満ちた世界的な運動(ポストコロニアル・ムーブメント)である。」(五十嵐:49.)

文化財返還に反対する人たちの主張に「希望」というものを感じることができないのは、なぜだろうか?
それは、その主張が自分さえ良ければそれでいい、自分たちの今の生活、自国の安全が守られればいい、そのためには強くならなければならないという自己中心的で力を信奉する考えに基づいているからではないだろうか。

【集会予告】
中国文化財返還運動を進める会 11.11集会
日時:2023年11月11日(土)13:30開場 14:00~17:00
場所:日比谷図書文化館 4階 スタジオプラス(小ホール)
講演:「知られざる皇居の慰霊施設『御府』」(井上 亮)
報告:「訪中報告 文化財略奪の現場をたずねて」(東海林 次男・新 孝一)

nice!(2)  コメント(0) 
共通テーマ:学問

nice! 2

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。