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太田2023「「王様」だって、自国の過去の歴史を謝罪する?」 [論文時評]

太田 昌国 2023「「王様」だって、自国の過去の歴史を謝罪する?」ウェブ・マガジン『反天ジャーナル -天皇制を知る・考える-』2023年9月号

かねてより刮目する表現者の最新作である。

「…2020年10月、オランダの人権活動家や博物館の専門家から成る委員会は、旧植民地の住民の同意のない文化財の持ち去りは「歴史的不正義」であり、原産国に無条件で返還すべきだとする勧告書を発表した。
同国の国立世界文化圏博物館所蔵品43万6000点のうち、ほぼ半数が旧植民地由来のものであり、インドネシア関連の所蔵品は17万4000点に上ることも明らかになった。勧告書を出した委員会の議長は、南米スリナム(オランダからの独立は1975年)出身の人権活動家、リリアン・ゴンサルベス=ホ・カン・ユーといい、中国系の末裔の女性だと知れる。委員の多くが旧植民地にルーツを持つオランダ人だった。旧植民地出身者が、過去の歴史を精査する委員会の要職に就けること自体が、日本の現実と比べた場合に、オランダ社会の成熟度を示している。」

「日本の現実」例えば内閣官房アイヌ総合政策室が設置する「アイヌ政策推進会議」の構成メンバーにアイヌ民族の方はどれほどおられるのだろうか。

「委員会には、もちろん白人の博物館学芸員や大学の研究者も参加している。そのうちのひとり、アムステルダム自由大学研究員、ヨス・ファンビュールデンは、過去の植民地支配という悪行を認めることは重要としつつも「罪の意識を持つ必要はない。責任を果たすことが必要なのだ」、「責任とは、すべての関係者に働きかけ、文化財返還に関する議論が発展すること」、「過去と向き合い、歴史的に気まずい関係にある国の関係者と対話する勇気を持つこと」と語る。この問題をめぐる議論が、どんな水準で行われていたかを物語る言葉である。」

「責任を果たすこと」すなわち「文化財返還に関する議論が発展すること」。
日本では「文化財返還に関する議論」が殆ど発展していないので、「責任」もまた殆ど果たされていない。
「歴史的に気まずい関係にある国の関係者と対話する勇気」についても、文化財に言及したピョンヤン宣言以降、殆ど目立った発展が認められないことからも「勇気」が欠けていると考えざるを得ない。

「加害側がこの問題を<倫理的に>考えることが必要不可欠であることは言うを俟たない。同時に、被害側が<倫理的な>付きつけをもって議論を進めようとしても、それは往々にして不毛に終わるという意味で。
この研究員は、次のような言葉も語っていることを記憶しておきたい。
「自国の暗い歴史を認めることは、現在の私たちの重要な責任です。たとえどんなに不快な出来事であっても、です。例えば、日本軍はアジアを侵略し、残虐な行為をしました。おそらく多くの日本人が思っているよりも、海外の人たちはこの事実をよく知っています。過ちを認めることは、道徳的な力の表れです。二度と繰り返さないように注意を払えば、国際的な信用も高まります。逆に歴史を否定すれば、国際的な信用を著しく傷つけます。隠すことは「弱さ」であり、意味のない重荷を背負ってしまいます。」

日本社会一般に流通している「強さ」や「弱さ」の捉え方と決定的に異なる考えが述べられている。
都合の悪いことは徹底的に隠し通す。そのことが国益に適い、ひいては自らの「強さ」を維持することに繋がると信じる考え方に対して、自らにとって都合の悪いことについても目をそむけることなく直視し、かつて自らの国が犯した不正義を正そうとすることが、最終的なそして本質的な「強さ」であると信じる考え方である。

「アムステルダム市内に残る「奴隷制の遺産」をめぐる「ブラック・ヘリテッジ・ツアー」が行われたという。カリブ海のオランダ自治領キュラソー島出身の案内人、アシャキ・レイトゥは、市中心部の広場に立つ壮麗な王宮、オランダの「黄金時代」を象徴する豪華な装飾と彫刻や絵画で飾り付けられた17世紀建設の市庁舎、奴隷所有者や大規模農園の投資家が住んでいた運河沿いの通りなどを案内しながら、「私たちのルーツを目にするたびに、心が波立つ」と語ったという。だが、展示会を通して、この隠されてきた史実が社会全体に可視化されたのだ。」

私は、夢想する。
いつの日か、IT技術にたけた若者たちの力を借りながら、東博(トーハク)・東京大学・靖国神社・皇居・大倉集古館・根津美術館・佐野美術館・京都大学などバーチャル空間で日本の瑕疵文化財所在地を巡る「瑕疵文化財ツアー」が実現することを。

収奪文化財(瑕疵文化財)は、ある種の銅像などと共に、本来は目にすることができない「植民地主義」を可視化する。
目に見えない事柄を目に見えるようにする<もの>が、目に見えない「傷」であるという二重の屈折が織り込まれている。


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