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五十嵐2023e「収奪文化財のあるべき場所」 [拙文自評]

五十嵐2023e 「収奪文化財のあるべき場所 -「国際主義」vs.「現地主義」という虚構を超えて-」『イミダス』オピニオン 2023年 8月 9日公開
https://imidas.jp/jijikaitai/l-40-303-23-08-g931
集英社クリエイティブ・イミダス編集部

「いわゆる「文化財返還」については以前から様々なレベルで問題解決が模索されてきたのですが、大学の入学試験で出題されたという点で大きな意味を持つ出来事でした。なぜならこのことによって「文化財返還」という世界的な問題が、単なる社会問題にとどまらず、日本の学校教育というレベルでも若い世代において最低限の知識が求められるようになったことを意味するからです。」

2022年の九州大学共創学部入試問題をきっかけに、そこで参考資料として提示された「普遍的博物館の重要性と価値に関する宣言」(DIVUM)について以前より述べておかなければならないと考えていたことを、機会を与えられて、思いを果たすことができた。
初めてのオンライン(電子媒体)のみの原稿である。

「本稿では文化財返還をめぐる「議論の論点、対立点、問題点を整理」し、返還を推進する立場を表明していきます。」

(1)入手方法の妥当性
「…返還を求められている博物館側は、現地からの持ち出し方について「もともと存在していた時空間(コンテクスト)から離れてしまった」と、まるで自然に物体が移動したかのような曖昧な表現をしています。また過去の入手方法については、「その時代を反映した異なる感性や価値観」によって評価することを求めています。一方で博物館の使命として所蔵品に対して「継続的な再解釈」、すなわち現在の感性と価値観による解釈を求めています。自らにとって都合の悪い事柄(入手方法)については現在の価値判断を拒み、都合のいい事柄(コレクションの評価)については現在の価値判断を求めているのです。こうした自分勝手なご都合主義が通用するでしょうか。」

DIVUMに対する批判は、ほぼこの引用文に尽きている。
なぜこんなあからさまな欺瞞的な論法が、よりにもよって世界でも有数な博物館組織から提出されたのだろうか?
そしてこんなあからさまな欺瞞的な論法を、なぜ誰も正面から批判しないのだろうか?
そしてなぜこんなあからさまな欺瞞的な論法を含む文章が、大学入試の参考資料として採用されたのだろうか?

(2)普遍的(ユニバーサル)の意味
「…「普遍的」だと自負する博物館ならば、そうした高度な技術や環境の提供だけでなく、それに相応しい倫理観が求められているのではないでしょうか。現在の社会的な役割が重要だからといって、過去における不当な手続きが容認されるわけではありません。社会的な役割が重要であればあるほど、その重要性に応じた倫理観が求められるのです。」

人間として当たり前の倫理観が求められているのは、イケメン俳優を擁する芸能プロダクションや急成長した中古車販売会社や国際的なスポーツイベントを仕切ってきた広告代理店だけではないはずである。

「…返還を求められている側の言い分はことごとく破綻しています。それにもかかわらず相変わらず奪った側と奪われた側が「国際主義 vs 現地主義」として位置づけられて、あたかも両者の理念が拮抗しているかのような構図が語られています。なぜでしょうか? それは、こうした構図を描くことによって、返還を求められている側が現状を維持できるように延命を図っているからではないでしょうか。しかし実際は、人間としてなすべき当然の事柄を求めている側と、それを頑なに拒んでいる側の対立に過ぎないのです。」

DIVUMが発表されたのは、2002年である。今から20年以上も前に作成された文章が未だに返還を拒む側の根拠として用いられて、その後は補強する文章が一向に発表されていないということ自体に、返還を拒む側の論拠の貧困さと立場の脆弱性が示されている。

「あくまで返還を拒み、これからもひたすら従来の立場を固守して内側に閉じこもるのか。それとも自らの過去の不正義を認めて、現状を良い方向に変えていこうとするのか。文化財を収蔵する博物館は、<もの>と<ひと>との関係を再構築するような新たな展望を示すべきです。「普遍主義」を標榜するならば、所蔵する<もの>だけに身勝手な価値を付与するのではなく、また手放すことで国益や館益が損なわれるといった短絡的な損得勘定にとらわれるのでもなく、人類の普遍的な価値観に則った規範を示すことで、ポスト・コロニアルな時代にふさわしい「普遍的」な価値観を世界の人たちと共有すべきです。」

述べているのは私にとって「当たり前」のことばかりなのだが、物事を動かすにはこうした「当たり前」のことを繰り返し述べていかなければならない、ということなのだろう。


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