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五十嵐2022d「遺骨・副葬品の返還と考古学の責任 -脱植民地時代の返還運動-」 [拙文自評]

五十嵐2022d「遺骨・副葬品の返還と考古学の責任 -脱植民地時代の返還運動-」『7.31 北大文学部人骨事件27ヵ年糾弾の集い 報告集 -北大文学部を追及し、話し合い再開と遺骨返還実現を!-』「北方領土の日」反対! 「アイヌ新法」実現! 全国実行委員会(ピリカ全国実):8-20.

「今日は「遺骨・副葬品の返還と考古学の責任」について考えます。非常に大きなテーマで、多くのことを考えなければなりません。
18世紀後半から19世紀前半にかけて朝鮮半島や中国大陸でいったいどのようなことがなされたのかという私たちの「過去」について、こうした過去が引き起こした「現在」のあり方について、どのように対処しようとしているのかという「未来」に向けて踏まえるべき原則について考えます。」(8.)

2021年 7月31日に札幌で行われた研究集会での発表内容である。
昨年から今年にかけて行われた文化財返還に関わる研究集会原稿化3連発の第1弾である。

「なぜ「日本考古学」は、戦争責任あるいは植民地責任という意識が希薄なのでしょうか? そこには、どうやら折り重なった二重の正当化とも言える心理が潜んでいるようです。
まず「過去の正当化」として、自分たち「日本考古学」の過ち、すなわち植民地支配に便乗して隣国の文化財を我が物にしたという過去の不正な行為を認めようとしないことです。かつての侵略戦争を肯定した誤りを直視したくないのです。
ですから過去の過ちにもとづいて生じている現在の不正な状態を是正しようとはせずに不当に入手した考古資料を返還するという社会的な責任を先送りし、ひたすら現状を維持しようと努めているのです。「現在の正当化」とも言うべき状況です。」(13.)

発掘調査の責任者が出土資料はいつでも現地にお返ししますとマスメディアに公言しながら今に至っても返さなかったり(石厳里205号墳、黒板 勝美:8.)、会則に出土資料は出土国に置くと定めておきながら今に至っても返さなかったり(上京龍泉府、東亜考古学会:12.)、こうした状況を知悉しながら私は忠実に発掘資料を返還しましたと公然と開き直ったり(原田 淑人:22.)、収奪文化財の実態調査を求める会員の要望に対して国政レベルの問題だから学会がすべきことではないと門前払いにしたり(日本考古学協会:12.)、もう滅茶苦茶である。

「他人の土地である外国に入り込んだ侵略者たちが自分たちにとって都合の悪い<もの>を埋めて、素知らぬ顔をして立ち去ったのが「遺棄化学兵器」です。持ち帰るのが面倒だから、現地で適切に処理できないから、事柄が明らかになると自分たちにとって都合が悪いからという身勝手な行為によって現地の住民たちは現在も深刻な被害を受け続けています。
これとは逆に自分たちにとって都合の良い<もの>、欲しい<もの>を持ち去ったのが不当に搬出された文化財です。暴力的に奪う「略奪」だけでなく圧倒的な力の差を背景に有無を言わせずに自分の欲しい<もの>を持ち去ったのが「収奪文化財」です。
「遺棄化学兵器」と「不当搬出文化財」は、人間の身勝手さの合わせ鏡のような事象です。」(14.)

内閣大臣官房に「遺棄化学兵器処理担当室」が設置されているように、文部科学省に「アイヌ遺骨等地域返還連絡室」が設置されているように、「文化財等返還連絡室」が設置されなければならない。

「北海道大学医学部解剖学教室を映した写真があります(小川 隆吉2015『おれのウチャシクマ』126.)。壁面の陳列棚には(人の)頭蓋骨が、前面の机に沿って太刀(エムシ)がずらりと並べられています。(私は)こうした写真を「おぞましい」と思いますが、当時は(これが)当たり前の情景で多くの人は何の問題も感じていませんでした。この写真を形容するのに「これみよがし」という言葉しか思い浮かびません。自らのコレクションの素晴らしさをひたすら誇示しています。」(一部補訂:16.)

「会員消息 三宅宗悦君 奄美大島へ旅行中の同君から12月下旬下記の様な通信があつた。「去る12日當島着、手掌紋をとつて後、14日より21日まで、本島の最北端笠利村に頑張り、8月踊りを16ミリに撮つたり、古人骨を約70-80得て遂に清野蒐集人骨千突破の目的を得ました。」(東京人類學會1934「雑報」『人類學雑誌』第49巻 第1号:37.)

現在ではアイヌ民族の遺骨はもとより、「縄文人骨の展示」すら「許されるのか」という状況となっている(山田 康弘2019「死体を展示するということ -縄文人骨の展示における諸問題を考える-」『国立歴史民俗博物館研究報告』第214号:285-302.)

それにも関わらず。

「2021年2月20日にNHKのETV特集「帰郷の日は遠く」というテレビ番組で東京大学から地域に返還された際のシーンが放映されていました。驚いたのは、返還された遺骨に東京大学が保管時につけていた資料番号の札がそのまま括り付けられていたことでした。古河講堂で発見された遺骨に貼り付けられたラベルと同じような状態で返還されたことに衝撃を受けました。最も倫理感覚が求められている場面において、倫理感覚が欠如していることが示されていました。」(15.)

東京大学の研究倫理委員会は、何をしているのだろうか?

「あるべきでない<場>に置かれたままになっている<もの>たちの発する声なき声を聴き取る感性を養い、日本社会に脱植民地化(ポスト・コロナイゼーション)をもたらさなければなりません。これが私たち戦後世代の戦争責任だと思います。返すべき<もの>を返さないという過去に犯した不当な行為に対する反省をないがしろにするような社会や学問が現在に犯している不当な行為を放置すれば、未来に同じような過ちを繰り返すでしょう。
アイヌ遺骨も不当搬出文化財もともに包括するような「返還学」という知の構築が求められています。」(一部補訂:20.)

【追記】
本冊子購入希望者は、以下までご連絡ください。
003-0021 札幌市白石区栄通10丁目5-1 フォーレストヴィレッジ301号 ピリカモシリ社
011-375-9711 振替口座:02740-4-1679 ピリカモシリ社



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