SSブログ

時津2007「考古学における嘘」 [捏造問題]

時津 裕子 2007「考古学における嘘」『現代のエスプリ』第481号:128-140.

「この事件(旧石器捏造事件:引用者)のなにが世間を驚かせたかといえば、ポイントは次の二点に集約されると思われる。
① 考古学(学問)に携わる者が世間を欺く嘘をついたこと
② その嘘を考古学者たちが見過ごしたこと、あるいは彼らがまんまと騙されたこと」(128.)

「嘘の臨床、嘘の現場」と題する特集号における「捏造と研究の倫理」という項目に収められた論考である。
①は言わば嘘をついた当事者、②はその嘘を見抜くことができず見過ごした多数者に関わることである。
第2考古学としては、当然のことながら後者の傍観者責任を問うこととなる。

「…出土遺物が持つ情報を正確に読み取り解釈することが考古学者の仕事であるとすれば、「間違うこと」は考古学者がモノによって騙されたとみることもできるであろう。さらに厳しい見方をするなら、事実を確認すること、あるいは仲間の犯した誤謬を黙認することで誤りを広め、間接的に「嘘」に荷担しているといえなくもない。悪気はなくとも、見誤り騙されることで、意図せざる嘘をついてしまうことになる。」(131.)

こうした文章を読むと、以下の文章が思い起こされる。

「だまされたということは、不正者による被害を意味するが、しかしだまされたものは正しいとは、古来いかなる辞書にも決して書いてはないのである。だまされたとさえいえば、一切の責任から解放され、無条件で正義派になれるように勘違いしている人は、もう一度よく顔を洗い直さなければならぬ。
しかも、だまされたものは必ずしも正しくないことを指摘するだけにとどまらず、私はさらに進んで、「だまされるということ自体がすでに一つの悪である」ことを主張したいのである。
だまされるということはもちろん知識の不足からもくるが、半分は信念すなわち意志の薄弱からくるのである。我々は昔から「不明を謝す」という一つの表現を持っている。これは明らかに知能の不足を罪と認める思想にほかならぬ。つまり、だまされるということもまた一つの罪であり、昔から決していばっていいこととは、されていないのである。」(伊丹 万作1946「戦争責任者の問題」『映画春秋』第1号)

すなわち、無関心あるいは意志の薄弱によって誤謬を黙認することは一つの悪であり罪なのだ。

「…無関心よりさらに深刻な問題が潜んでいた可能性もある。それは学界の体質として、自由な批判を封じる構造があったかもしれないということである。学界の権威が示す見解やすでに定説化している事柄に異を唱えることは勇気のいることである。しかし科学である以上それをためらってはならないし、押しとどめようとする外的圧力が働くなどはもってのほかである。だが現実には「言えないこと」、「言うべきではないこと」があるという声を聞く。おそらく軋轢を避けようとしてのことであると思われるが、学界内に「分を超えた」発言は慎むべきとする暗黙の了解がある。それを破る者は叱責されたり、発言そのものが黙殺されたりすることになる。」(138.)

「学界の権威が示す見解やすでに定説化している事柄に異を唱える」
例えば、砂川仮説の基礎である母岩識別や三類型区分について問題を提起しているにも関わらず、一向にそうした事柄を中心とした討論の場が設定される気配がない。

最近も、ある人に<遺跡>問題、特に江戸<遺跡>における区分問題や名称問題について討論の場の設定を提案したのだが、「落としどころが見いだせない」といった訳の分かったような分からないような理由であっさりと退けられてしまった。
「落としどころが見いだせている」すなわち既に答えの出ている予定調和的なシンポジウムばっかりやってどうするのだろう?
「落としどころが見いだせない」ような深刻な問題だからこそ、叡智を集めて公の場で意見を交わすことに意味があるのではないのか!

何か研究集会のようなイベントを開催したら一定の結論ないし成果のようなものを示さなければならない、主催者にはそうした責任があるとでも思っているのだろうか。
むしろ明らかな問題を放置していることのほうが、無責任だと思うのだが。

国際的組織のトップが公の会議の場で「女性は話しが長い」といった明白な女性差別発言をした時にも、その場に居合わせた関係者たちは「分を超えた発言は慎むべきとする暗黙の了解」に基づいて「ん?」と思ったが発言の機会を逸してしまったのと同じである。

睨まれたり、恫喝されたり、無視されても、構わず手を挙げ続けること。
慎まないこと。
わきまえないこと。
言うべきことは言うこと。

侵略戦争の責任者問題、前期旧石器捏造事件、東京オリンピック組織委員会会長発言から得た教訓である。


nice!(2)  コメント(0) 
共通テーマ:学問

nice! 2

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。