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2000「興奮対談 秩父原人に出遭った日」 [捏造問題]

栗島 義明・藤村 新一2000「興奮対談 秩父原人に出遭った日」『正論』第333号:250-260.

【リード文】
埼玉県秩父市郊外の尾田蒔丘陵の小鹿坂遺跡から石器三十点とともに見つかった生活遺構は、約五十万年前(前期旧石器時代)の原人の住居跡の可能性が高い。そうだとすれば、有名な北京原人よりさらに年代をさかのぼる世界最古の、しかも原人は洞窟で生活していたという定説を覆す人類学史上の大発見だ。遺構を発掘した名コンビがその興奮を語る。

「  やりましたね。秩父で発掘調査を行うきっかけはどんなことから…
藤村 栗島さんは十年ぐらい前から秩父で調査を続けているのですが、以前、東北の遺跡の見学に来たとき、「手伝ってくれないか」と頼まれたんです。秩父には古くていい土があるという話でした。昨年五月、埼玉県埋蔵文化財調査事業団で東北の旧石器について話をする機会があり、「秩父に行こう」と誘われまして「まあいいかな」と思って、秩父に行ったんです。」(250.)

すべては「まあいいかな」という軽いノリから始まった、と言う。

「秩父の駅前から丘陵の方を見たら、上には火山灰が堆積しているというので、その時は全部で三ヵ所まわりました。標高もそれほど高くなく、地形もはっきりしていて、一番掘りやすそうな場所が、今は遺跡になっている「長尾根」(昨年六月発表の、このコンビが発見した約三十五万年前の前期旧石器時代の遺跡)だったんです。長尾根は三方向から深い沢が入っていた。栗島さんに「東北ではこういう地形の所に遺跡がある」と説明しながら、移植ゴテで地面を掘っていると、「カチン」ときたんです。すぐ「きたな」とわかりました。
  え? カチンって?
藤村 石器に当ったんですよ。カチン。栗島さんに「今の音、聞いたか。石器の音だよ」といったら、「マジですか」と。それで掘ったらやはり石器が出てきて「エーッ」とね。「ちょっとやってみるかい」と言って、栗島さんが同じようにやるとまた、カチンときたんです。それが五月二十二日の午前中。私が帰ってから、栗島さんはもう一点石器を見つけたんです。結局三点見つかって、遺跡になったんですね。ラッキーですよね。」(250-251.)

まるで岩宿発掘時のエピソードを彷彿とさせる話しであるが、こうしたことを平然と話すことができるということ自体が、もう普通でないように思われる。

「栗島 今まで、旧石器時代の住居跡を見つけることは、旧石器の関係者に限らず考古学関係者の悲願でした。旧石器時代の住居跡とみられる遺構は全国で二十例ぐらいはすでの報告されているのですが、いろいろ検討してみると疑問な点がある。
例えば私や藤村さんが柱穴を認めて住居跡と言っても、第三者が同じ評価を下さなければ「住居跡」とは認められないんです。皆が認めなければ住居跡と認定されない。そういう客観的な判断がなされたという意味での住居跡は、後期旧石器時代についても今までほとんどなかったのです。それが、今回一挙に五十万年前ですからね。
これからもあれが住居跡かどうかいろいろ議論はあると思います。反論めいたことが。ただ、現場をやっていて、土の色の違いとか、柱穴の規則性・規格性とか、遺物の分布との関係、さらに何といっても一番大きいのは、あの場所が人工的に盛土されたということが非常にはっきりしてる点ですよね。」(253-254.)

「長尾根遺跡、小鹿坂遺跡での藤村氏に拠る捏造行為が明らかとなった現在、各種の遺構群は明らかに自然現象として理解されるものであろう。ピット、埋納遺構、土壙、マウンド等の遺構と称した各々は、木の根や断層、地震による地割れ、クラック、インボリューション等を平面的に削ってゆく段階で誤認してしまった可能性がたかい。また、詳しい要因は不明であるが、黄色や褐色のロームが確実に一定のプランを形成していた事例も確かに存在した。
問題とすべきはそのような土色の違いが自然現象でも形成されるという課題が、遺構内から石器が検出された時点で十分に検討されることなく、遺構と誤認してしまったことにあろう。この点は強く反省すると共に、今回の事件から学ぶべき点であるとも言えよう。」(栗島 義明2002「捏造事件に係わる検証と反省点 -埼玉県秩父地域発見の前期旧石器時代遺跡をめぐって-」『日本考古学協会 前・中期旧石器問題調査研究特別委員会報告(Ⅱ)2001年度前・中期旧石器問題調査研究特別委員会活動報告(予稿集)』:196.

「事故」は複数のマイナス・ファクターがタイミングよく(悪く?)重なった時に生じると言われるが、そうしたことなども想起される。
述べられた「客観的」とか「人工的」という言葉の意味を改めて考えざるを得ない。
つくづく発掘という行為の恐ろしさを思う。

「学ぶべき点」は、対談なるものは「興奮」してするものではないということだろうか。

タグ:発掘 捏造
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