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長井編2019『ジョウモン・アート』 [全方位書評]

長井 謙治 編 2019 『ジョウモン・アート -芸術の力で縄文を伝える-』ジョウモン・アートプロジェクト実行委員会

「わが国では、これまで縄文の美を求める試みがあったが、組織的なものではなかった。ジョウモンなる響きにはなにか日本文化の源流を匂わすアイデンティティの源を感じるからだろうか。原宿で縄文祭り等、縄文・縄文…とこのフレーズには魅力を感じる日本人が多いようだ。この数年はブームをなしており、ファジーな縄文観が流布しているのも事実である。
ところがそうした高まりは、考古学研究の本流にはなく、今なお漂っている。その行く先は、きわめて茫漠としており、はっきりとしない。長く歴史学の補助分野とされた日本の考古学は、その間口をいったん広げ、開放すべきであろう。考古学の射程を考え直すチャンスが到来しているのである。」(長井:2.)

「縄文時代の遺跡・遺物が発するメッセージには無限の解釈としての可能性があり、あまねく現代の人々の心を揺さぶる力がある。それにもかかわらず、このリアルに対して偏見じみた色眼鏡で見つめ、心情的な縄文的イメージに合う部分だけを取り上げ、賛美する態度に私は恐れを抱くようになった。
私は、上記のごとく巷に溢れるファジーな”縄文観”をいったんぶち壊してみたいと思うようになった。ゆがんだ心象から生まれた”縄文”から自由になり、”縄文”を見つめ直したいと考えた。」(長井:9.)

大変に意欲的な「作品」である。
私などは、この一点で肯定的になってしまう。

第1章 ジョウモン・アートプロジェクトとは何か(長井 謙治:考古学)
第2章 ジョウモン・アート構想(長井)
第3章 ジョウモン・アートプロジェクト2017
 写生を通して縄文の息吹に触れる(金子 明樹:日本画)
 ジョウモンを展示する -学術的資料と美術作品のコンポジション-(アイハラ ケンジ:グラフィックデザイン)
第4章 考古学とアート 
 日向洞窟遺跡の発掘調査(2013~2018年度)(長井)
 ジョウモンの芸術脳 -洞窟壁画を探る-(末永 敏明:日本画)
 「漉層」を巡るふたつの場 -版と発掘-(中村 桂子:版画)
 タマフリ -日向洞窟-(辻 けい:テキスタイル・インスタレーション)
 工芸と縄文の手仕事 -装飾からみる工芸-(藤田 謙:彫金)
 アートと考古学の接点(深井 聡一郎:彫刻)
 縄文ブーム(長井)
 ランドスケープの視座 -縄文~現代-(渡部 桂:環境・ランドスケープデザイン)
 考古学的アプローチを利用した写真表現の考察(屋代 敏博:写真・映像デザイン)
 Jomon Regularの制作 -ビジュアルコミュニケーションの再構築-(赤沼 明男:グラフィックデザイン)
 火炎型土器エックス線透過撮影(米村 祥央:保存修復)
 編集と「縄文」(野上 勇人:編集・ブックデザイン)
 石器は芸術か?(長井・末永)
 地霊としての縄文 -テレビ制作者が見たジョウモン・アート-(天野 裕士:テレビ制作)
 飛ノ台と縄文アート(酒井 清一:現代美術)
 先史文化×考古学×現代アート(古谷 嘉章:文化人類学)
 考古学の立ち位置と感性 -美術との関係を想定して-(木立 雅朗:考古学)
 ジョウモン・アートプロジェクト(JAP) -西ヨーロッパの観点から-(ウルフ・ハイン:考古学)
 ジョウモン・アートプロジェクト(JAP)とパブリック・アーケオロジー(李 漢龍:考古学)
 パブリック・アーケオロジーとしてのジョウモン・アートプロジェクト(JAP)の可能性(裵 基同:考古学)
第5章 座談会
 アーティストから見た考古学(長井・末永・中村・辻・藤田・野上)
 「縄文コンテンポラリー展 in ふなばし」を考える(酒井・山本・長井)
第6章 総括
 アート考古学 -その新しい領野を拓く-(長井)

グラフィックデザインからテキスタイル、ブックデザイン、プロモーションビデオに至るまで教職員26名、学生90名以上、さらには海外からの寄稿者も巻き込んだ大変「おしゃれ」なプロジェクト成果刊行物である。
芸術工科系大学に所属する考古学者が、その「地の利」を活かしてまとめ上げた協同作業(コラボレーション)である。

「…グラフィックデザイン学科では2年のタイポグラフィーの演習で「文字さがし」や「文字づくり」を行っている。自然の中や人工物の中にアルファベットを探したり、様々な材料を用いアルファベットを作り、文字組を完成させるというものだ。
「縄文」の文様からアルファベットを紡ぎ出し、Open Type Fontとして構築しよう、という、いわば荒唐無稽とも思えるプロジェクトはスタートしたのである。」(赤沼:165-6.)

土器文様に音楽を読み取るのと同じような感覚である。
「Fontの制作にはGlyphs Miniを使用した。Glyphs Miniの仕様では、1つのグリフのemスクエアの高さ=1,000ユニット(UPM)となっているためIllustrator上で1000px × 1000pxのアートボードを作成し、パス化した文字を配置していく。特に天地1000pxの中に文字が収まっていることが重要だ。Illustratorでの作業が終わるといよいよFontの構築作業だ。」(赤沼:166.)

何だかよく分からないが、何だか楽しそうではないか!
今回は「Jomon Regular」という試作品だが、これから「Jomon Light」や「Jomon Bold」といった発展形、さらには「North Jomon」や「South Jomon」など地域色豊かなフォントも視野に入れているという。「North Jomon」で打ち出されたメッセージには北の大地の香りが、「South Jomon」には照葉樹林帯の雰囲気が漂いそうである。

「先史文化そして考古学と出会うことは、現代アートが現代という時代状況への引き籠りから解放される契機となりうる。現代アートとの出会いは、考古学を遺跡や遺物への視野狭窄から解放してくれる契機となりうる。」(古谷:216.)

「私の考える人間科学としての「考古学」は、学究として、学として、科学的であれ、人文学的であれ、あらゆる手段を講じてでも、まず初めに過去を知ることを出発点とする。ただ一方で、芸術家は考古学を媒介として、過去を感じたならば、ただちに未来を見つめている。すなわち、芸術家は、現在のみならず、未来に伝え・残し・表したいという思いがあるのである。過去を知ることが第一義ではない。考古学者と芸術家にはこうした決定的な違いがあると考えられる。」(長井:272.)

それぞれの立ち位置・姿勢の違いを踏まえた上で、双方が刺激し合いながら、新たな視点、新たな構想を創り出していく。
2016年のWAC-8 KYOTOでも「Art and Archaeology(アートと考古学)」が設定されて、9つのセッションで総計123本の発表がなされたように、今や世界考古学の主要な領域である。

こうした大きななプロジェクトは、プロジェクト自体が一つの「作品」とも言える。全体を統括するコーディネーターの力量が問われる所以である。何よりも大切なことは、参加したそれぞれのメンバーが楽しんでやっているかどうかである。
授業の単位として設定されているからとか同僚の教師から依頼を受けたので仕方なくというのではなく。
本プロジェクトはそうした点からも「成功」していることは、本書の最終ページ(277.)に掲載された1枚の写真が明白に物語っている。


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