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『アイヌ民族の遺骨は告発する』 [全方位書評]

遺骨をコタンに返せ!4大学合同全国集会実行委員会 2017 『アイヌ民族の遺骨は告発する -コタンの破壊と植民地支配-』ピリカモシリ社

「4大学」とは、「北大人骨問題の真相を究明する会」・「東大のアイヌ民族遺骨を返還させる会」・「京大・アイヌ民族遺骨問題の真相を究明し責任を追及する会」・「阪大・人骨問題の真相を究明する会」を指す。全国集会は、2017年7月に札幌市で開催された。

「1980年、海馬沢 博さんらアイヌ民族が遺骨・副葬品奪還の歴史的な闘いを開始して以来じつに40年近くをへて、その闘いはいま、あらたな局面にさしかかっています。
アイヌ民族の抗議と要求の高まりのなかで、この間、浦河町・杵臼の遺骨返還訴訟で「和解」が成立し、遺骨がコタン(郷里)に返還され、続いて紋別、浦幌でも返還されることになりました。旭川、平取、静内でもあらたな取組みが開始されています。その背景には、「先住民族の権利に関する国際連合宣言」(2007年)にもとづく、世界の先住諸民族の民族自決権、遺体・遺骨返還の権利を含む民族的諸権利獲得の闘いの前進があります。
日本政府、北海道大学など全国の大学は、徐々に追い詰められてきています。しかしこの40年近くの経過をみても、アイヌ民族の強い抗議にもかかわらず、ごく一部の遺骨が謝罪も賠償もなく欺瞞的に返還されただけです。日本政府、各大学は、ほとんどの遺骨を、2020年までに北海道白老町に開設する「慰霊・研究施設」に集約し、引き続き「研究材料」にしようとしています。遺骨・副葬品奪還の闘いは、アイヌ民族にとって、民族の主体を確立し民族的諸権利を奪い返すきわめて重要な闘いです。
墓地破壊、遺骨・副葬品略奪は、「明治」天皇制国家以来のアイヌモシリ併合、アイヌ民族同化・抹殺(絶滅)政策が必然的に引き起こした人権蹂躙の侵略行為です。とりわけ1930年代、天皇制ファシズムの時代に、アイヌ民族を「滅びゆく民族」とし、それを疑似科学的に「証明」するために、アイヌモシリ(北海道、サハリン、クリル諸島)から膨大な遺骨を略奪し、語ることさえはばかられる差別思想、差別研究を行ないました。北大など旧帝国大学は、優勝劣敗の社会進化論と優生思想にもとづくアイヌ民族「絶滅」論を流布し、アイヌ民族蔑視と差別を煽りました。しかもこのような「アイヌ研究」は、戦後も1970年代まで続けられました。
この「研究」は、日本民衆のなかにアイヌ民族蔑視と差別をいっそう深く浸透させ、天皇制国家の民衆管理に大きな役割を果たしました。アイヌモシリ侵略を当然視する日本政府、各大学は、墓地破壊、遺骨・副葬品略奪について何のとらえ返しも反省もありません。
日本労働者人民がアイヌ民族の遺骨返還の闘いに連帯することは、天皇制国家のアイヌモシリ侵略の歴史、したがって自らが侵略者、差別者に仕立て上げられた皇民化された歴史をとらえ返し労働者人民自身として自己を確立、解放する闘いです。」(「序にかえて」4.)

北大のアイヌ民族蔑視と欺瞞を弾劾する -『医学部調査報告書』(2013年3月)批判- (三木 ひかる):5-60.
 はじめにー謝罪なき自己正当化
 1 遺骨のずさんな管理、放置
  (1) 「所在不明」の野帳(フィールド・ノート)と発掘人骨台帳原本
  (2) 「アイヌ民族人体骨発掘台帳」(ニセ台帳)(1980~1983年頃作成)
  (3) 偽造された「アイヌ人骨台帳」(2008年作成)
  (4) 「第1解剖移管」(2008年作成)の真相究明を
  (5) 改ざんを重ねた「発掘人骨台帳(抜粋)」(2003~2008年作成)
  (6) 「個人所蔵資料」を公表せよ
 2 優生思想にもとづくアイヌ民族抹殺政策ー「アイヌの医学的民族生物学的調査研究」
  (1) 天皇制軍国主義ファシズムと大学、学問の奉仕
  (2) 日本学術振興会「第8小委員会」の設置
 3 山崎春雄ら解剖学第1講座発掘の「ペンリウクの遺骨」について
  (1) ペンリウク遺骨の特定
  (2) 北大・医学部の偏狭と蔑視
  (3) 遺族・土橋芳美さんの講義と北大の回答
  (4) 『医学部調査報告書』のデタラメ露呈
 4 容貌などの民族差別の組織化
  (1) 生物学主義的民族論の鼓吹
  (2) 岡田正夫ら山崎春雄門下の「アイヌ研究」
 5 児玉作左衛門らの大規模、組織的な墓地破壊
  (1) 八雲ユーラップの発掘
  (2) アイヌ民族の抗議
  (3) 「慰霊碑」建立のウソ
  (4) 抗議を押し切って発掘
  (5) 警察の「事情聴取」と「人骨発掘発見に関する規定」(1934年)
  (6) 「土人」供養ー部落の遺骨・石碑略奪
  (7) シュムシュ島墓地の遺骨返還要求
 6 差別とデッチあげの人類学研究
  (1) 児玉作左衛門の「研究成果の概括」と北大医学部の評価
  (2) 研究室の壁を埋めつくす遺骨
  (3) アイヌの「体質」、「人種的」研究への関心
  (4) アイヌ民族差別と「障害者」差別の複合
  (5) 「人為的」損傷説のねつ造
 7 天皇と「第8小委員会」および北大・児玉作左衛門
  (1) ヒロヒトの北海道帝国大学視察(1936年)
  (2) 戦後象徴天皇の北大訪問
 8 戦後もつづく侵略的略奪
  (1) 静内駅前共同墓地破壊・人骨略奪
  (2) 「静内発掘No1~No166整理リスト」を開示せよ
  (3) 生物学主義的差別思想の流布ー「血液調査」「混血調査」
  (4) 「四肢骨箱」の徹底究明を
  (5) 江別市対雁共同墓地の破壊(1965年)
 9 海馬沢 博さんらアイヌ民族遺骨奪還の歴史的闘い
  (1) 海馬沢 博さんの北大学長への抗議と要求
  (2) 北大の蔑視的対応
  (3) 北大・医学部の官僚的対応
  (4) 海馬沢さんの追及
  (5) 医学部長・三浦裕晶の面談拒否
  (6) 海馬沢さんの北大訪問
  (7) 北海道ウタリ協会の申し入れ
  (8) 遺骨放置の惨状
  (9) アイヌ納骨堂の建立
  (10) 納骨堂建立後も散在する遺骨
 10 遺骨をコタンに返還せよ
  (1) 北大・医学部の基本的立場
  (2) 「古人骨」の究明を
  (3) ペテン的返還
  (4) 旭川支部への返還の実態
東大によるアイヌ民族遺骨・副葬品略奪と差別研究を糾弾する(東大のアイヌ民族遺骨を返還させる会):61-83.
1 帝国主義学問を領導してきた東大
2 坪井正五郎と人類学
3 小金井良精による人骨略奪
4 植民地支配と人類学
 (1) 人類学者の外国調査
 (2) 鳥居の「人種学」、「固有日本人」説の差別思想
 (3) 長谷部言人の「日本人純血論」
5 金田一京助の「アイヌ研究」について
6 日本学術振興会・第八小委員会と日本民族衛生学会による「『アイヌ』の医学的民族生物学的調査研究」と永井潜
7 永井潜と優生思想
8 「731部隊」と東京帝国大学医学部・伝染病研究所
9 生物学主義との対決を
京大はアイヌ民族の遺骨・副葬品を郷土(コタン)に返せ(京大・アイヌ民族遺骨問題の真相を究明し責任を追及する会):84-105.
1 京大・「調査ワーキング」の欺瞞
2 清野謙次の遺骨・副葬品略奪
3 日本のサハリン併合支配とアイヌ民族
 (1) 民族絶滅策としての強制移住、「土人部落」への囲い込み
 (2) シベリア出兵、サハリン北部占領と先住諸民族
4 生物学主義と差別的人種論
 (1) 容貌による人種差別
 (2) 虚構の「日本原人」論
5 帝国大学と人類学者らの戦争犯罪
6 もうひとつの戦争犯罪ー731部隊
阪大によるアイヌ民族人骨の略奪を追及する(阪大・人骨問題の真相を究明する会):106-122.
1 大串菊太郎と形質人類学
2 小浜基次の朝鮮、東南アジア諸国調査(戦前)
3 朝鮮民族の人骨収集と「生体計測」
4 人文・社会・自然科学一体の対馬共同調査研究
5 日本民族学協会の「アイヌ民族総合調査研究」
6 「純粋アイヌ」という架空
7 アイヌモシリ(北海道)全域の「生体計測」
8 1950年代後半~60年代の墓地発掘
9 医学部第2解剖学教室・小浜基次らの人骨略奪
10 「小浜原資料」をひきつぐ阪大「アイヌ研究」
植民地朝鮮における「久保事件」と朝鮮人学生たちのたたかい -阪大人骨事件の底流にあるもの- (石川 浩士):123-138.
はじめに -なぜ「久保事件」を取り上げるか
久保武による民族差別的「研究」・人骨略奪の展開 -「大韓医院」(朝鮮)、「南満医学堂」(旧「満洲」)、そして「京城医専」(朝鮮)
民族独立運動のなかの学生運動 -差別的教育制度に抗して
「久保事件」 -形質人類学を弾劾する学生たちのたたかい
書評 後藤竜二『白赤だすき小〇の旗風』
篠田謙一『日本人になった先祖たち』の自滅(海原 剛):139-153.
「分子人類学」とは
馬場悠男(日本人類学会元会長)の「ヒトの攻撃性と食人」論
個性的差異をつくる遺伝子の総体

「ある国の政治が良いか悪いかの一つの指標は、少数民族がまともに扱われているかどうかである。日本の近代化は「アイヌ的存在」の無視と犠牲の上に成立した。これが崩壊するのも、「アイヌ的存在」の無視と犠牲に由来することになろう。」(本多 勝一1983「アイヌと「アイヌ的存在」」『潮』、1984『殺す側の論理』:92.所収、朝日新聞社)

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