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返還問題2017 [総論]

日本における返還問題のうち、先住民であるアイヌ民族への遺骨返還に至る最近の経緯がまとめられている(植木 哲也2017「補章 遺骨の返還を求めて」『新版 学問の暴力 -アイヌ墓地はなぜあばかれたか-』:271-316.)。

そこで問題となっているのが、象徴空間への集約をめぐって返還対象について持ち出された遺骨の個人が特定されたもので請求者が祭祀承継者であることを求める所有者側の「個人返還」と身元不明なものも含めて地域共同体であるコタンへの「地域返還」を求める請求者側との対立である。個人返還の立場を取れば、返還すべき遺骨は最小限に、「地域返還」の立場を取れば最大限になり、その格差は大きい。そして双方の思惑が複雑に絡み合っている。しかしこうした双方の意見を読みながら、何か根本的な原理原則が踏まえられていないような気がしている。

それは第1に「博物館が所蔵する先住民族由来の文化遺産の処遇を決定する権利は先住民族の側がもつこと」(吉田 憲司2011「史料・文化財はだれのものか -史料公開・文化財返還の問題-」『歴史を裁くことの意味』)である。こうした考え方が世界的な趨勢であることは、世界考古学会議での議論を始め多くの場で明らかである。
そして第2に「自分たち博物館は所有者ではなく、「管理者」であるということ」(同、吉田 憲司氏発言:113.)である。すなわち現在の所有者は本当の意味での所有権を有しているわけではなく、あくまでも借用しているのだという認識が欠かせないのである。現在の管理者である博物館・大学と返還を求めている先住民共同体は「返す・返さない」あるいは「どれだけどこまで返すのか」といった論点で対立するのではなく、平等な協力関係に基づいたガイドラインを構築すべきであり、その為には管理者側の従来の価値観に固執した硬直した認識を改めることが第一歩となる。

「この問題の他にも、検討が必要な問題は残されている。たとえば、政府の政策推進会議も学協会のラウンドテーブルも、副葬品の問題を放置している。
なるほど、遺骨とともに保管されている副葬品は「遺骨と帰趨を共にする」のがアイヌ政策推進会議の方針であり、ラウンドテーブル「中間まとめ」でも副葬品の研究は遺骨同様に倫理規定が適用されるとなっている。このことから、一見、副葬品の問題も解決に向けて歩みだしているかの印象が生じる。
しかし、そこで検討されているのは、遺骨とともに保管されていた副葬品にすぎない。問題は、墓から持ち出され、遺骨と引き離され、その後行方不明となった大量の副葬品である。本書第三章に記したように、北海道大学は一時期、墓から持ち出した大量の副葬品を「児玉コレクション」として陳列していた。しかし、これらの副葬品の行方について、児玉作左衛門の私物として説明を拒み続けている。返還されるべき副葬品には、当然これらも含まれるはずである。」(植木2017:305.)

児玉氏は現行墓地の盗掘容疑で取り調べを受けた時に担当の刑事から「人骨への尊敬を忘れてはいけない」と当然の事柄を諭されて「内心ムッと」したという(植木2008:194.)

「これは俺の最後の闘いだ。運命に従ってやっているんだ。競馬でいえば第三コーナーを廻ったところかな。今は緊張して居るんだ。楽しんでやっている。うまい食べ物よりもっと活力になるんだ。俺は、ひとりぼっちではない。城野口さんは「シャモはどうしてアイヌの骨を掘るなんてこんな悪いことをするんだ」と言うが、今はシサムと共同でやっている。シサムと歩調が合って進んでいるんだ。情報開示請求というものがなかったらここまでこれなかった。
今年の三月、北大が「アイヌ人骨収蔵に関する調査報告書」を発表した。そのなかで「アイヌ人骨の発掘で不当なことはなかった」なんて言っている。裁判が始まってからそんな資料を出してきた。俺はそのすぐあとで秋山審議官に、開示された北大関係の資料など手元にある人骨に関する資料の全部を、これ読んでくださいと送った。後から秋山氏から目をとおしたと言って送り返してきた。秋山審議官は政府の担当者だから遺骨の問題をはっきり知ってもらいたかった。その後だ、文部科学省が全国の大学だとか博物館にアンケートをとってアイヌ人骨の所蔵を調べた結果が出てきた。全国でアイヌの人骨が1635体も所蔵されていることが分かった。樺太や千島からのものもある。これはもう国際問題だと思う。」(小川 隆吉2015『おれのウチャシクマ(昔語り) -あるアイヌの戦後史-』:190.)

同書126ページには、壁に造り付けられた棚にズラリと並べられている頭蓋骨、机の上に置かれた土器や石器、そして机の前にこれ見よがしに並んだ腰刀(エムシ)が目をひく児玉氏の研究室風景の写真が掲載されている。
こうした膨大なコレクションの取り扱いについて、単に現在の管理者だけでなく、全ての「日本考古学者」が当事者と歩調を合わせて問題解決に取り組まなくてはならないだろう。


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