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『緑川東遺跡』 [考古誌批評]

株式会社ダイサン 2014 『緑川東遺跡 -第27地点-』介護老人保健施設国立あおやぎ苑増築工事に伴う埋蔵文化財発掘調査報告書

各方面から注目される遺構に関する多方面にわたる詳細な記載がなされた考古誌である。
本年3月に行われたシンポジウムに関する記事【2014-03-08】での問題提起、「巨大石棒の埋置は敷石遺構構築時であった可能性はないのか」という点にしぼって読解してみる。

「…発掘調査時には確認できなかったが、4本の石棒を並置するにあたり既存の敷石を除去して浅い掘り込みを設けた可能性を考慮する必要があるだろう。」(遠藤・渋江:18.)
「まず石棒の遺存範囲には敷石が認められなかった。ついで、4本の石棒の下面レベルは標高71.04~71.08mで、周囲の敷石上面レベルの標高71.14~71.18mよりも10cmほど低く、想定される床下にめり込む状態で遺存していた。さらに石棒発見時、大きめの土器片や割れた扁平礫が石棒上に無造作に投入された状況で出土(巻頭図版4)、土器の一部破片は石棒直下にも遺存していた(詳細は後述)。これらの状況証拠から、4本の石棒を並置するにあたり既存の敷石を除去して浅い掘り込みが設けられた可能性を示唆した。」(黒尾・渋江:87.)

報告者の前提的結論は、「既存の敷石を除去して」「4本の石棒を並置」したというものである。
「これらの状況証拠から」、どのようにして「既存の敷石を除去して浅い掘り込みが設けられた可能性」が導かれるのか、すなわち敷石遺構構築時に4本の石棒が並置された可能性はなぜ、どのようにして棄却されるのかについて述べられることはない。

「閃緑岩礫53の大破片」が石棒1に寄りかかり、「接合礫09の破片」が「もともと敷石の一つだった可能性」(同:117.)はいいのだが、それが何故「石棒並置にあたって床から剥がされ」(同)に結つくのかが理解できない。
しかし、再三再四繰り返し述べられている。

「石棒検出時、その出土範囲内に敷石は見られず、かつ石棒の下面側半分は埋まっていた。そこで石棒並置に際しては、敷石が除去され浅い掘り込みが設けられたと推測した。」(同:131.)
当然のことながら、敷石遺構構築時に石棒を並置しても「その出土範囲に敷石は見られず、かつ石棒の下面側半分は埋まっていた」ことだろう。

他方で「敷石除去に関しては遺物出土状況からは確証が得られない」(同)とも述べられる。
しかし導かれる結論は
「SV1廃絶~石棒の並置 4本の石棒が並置された。それが敷石遺構SV1廃絶時のことではないという確証はないが、覆土断面における三角堆土のあり方や壁寄りの礫出土状況などからは、廃絶後多少の時間を経たのちの行為であることが推測される。」(同:132.)
というものである。
これは、やや意味が取りづらい文章である。
見出しでは「廃絶後に並置」とされているのに、本文では「廃絶時のことではないという確証はない」すなわち「構築時のことであるという確証はない」すなわち「廃絶時のことであるというほうが確証が高い」というもって回った言い回しとなる。
あるいはここでいう「廃絶時のことではない」というのは「廃絶時直後のことではない」という意味で、結論は「廃絶後多少の時間を経た後」ということなのだろうか。
いずれにせよ「構築時」という可能性は一顧だにされない。

「既存の敷石を除去して石棒を並置した」という結論は、他の論者にも等しく共有されている。
「以上のことから確認される点は、4本の石棒は敷石遺構SV1構築時には存在せず、SV1の敷石を一部取り除き半身がめり込むように埋置されている。」(長田:159.)
「SV1埋土層の観察からは、SV1の廃絶とそれほど間をおかずに、4本の石棒が並置されたものと考えられる。SV1機能時に遺構内に石棒が立てられた可能性も考えられるが、それに見合うピットや石棒自体に樹立痕が不明瞭なことから、そうした想定は成り立ちがたい。」(同)

「樹立痕」が存在する石棒がどれほど存在するのかについては不問に付すとして、「SV1機能時に遺構内に石棒が並置された可能性」を考慮しない理由が想定できない。
決して言葉尻を捉えてどうこう言っているのではなく、これは本論考あるいは本考古誌全体に関わる問題だと考えているのだが。

最後に本考古誌の御恵与に感謝したい。お蔭さまでこのように拙い論評を加えることができた。それでも自らの読解不足および誤読を恐れるものだが、こうしたことを通じて本遺構を巡るより生産的な議論が少しでも喚起されることを期待したい。


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