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「遺跡・遺構の中の遺物」2 [研究集会]

遺跡・遺構の中の遺物
日時:2013年9月7日(土) 10時~17時
場所:中央大学 多摩キャンパス3号館 3101教室
共催:中央大学考古学研究室・Archaeo-GIS Workshop・立体考古研究会準備会

「日本先史遺跡研究におけるミクロ・セツルメンツ・アプローチに向けて」(小林謙一)
「遺物分布はどのように記録され、理解されてきたのか」(野口 淳)
「考古学における三次元情報」(横山 真・千葉 史)
「発掘調査における写真計測を使用した記録方法と実用例について」(三井 猛)
「Arc-GISによる遺跡内微地形・層位と遺物分布の解析」(市川雅洋・野口 淳)
「縄紋時代竪穴住居出土資料ドット記録の活用に向けて」(黒尾和久・小林謙一)
「神奈川県相模原市大日野原遺跡発掘調査の概要」(小澤政彦・小林謙一)
「竪穴住居跡を伴わない縄文時代遺跡における遺物分布とその解析」(倉澤麻由子・市川雅洋・野口 淳)
「沖積地における遺物分布」(村本周三)
「茨城県石岡市瓦塚窯跡遺跡における事前調査について」(小杉山大輔・三井 猛)
討論

フェイスブック、ユーストリームなど様々なツールを用いて情報が発信されている。

問題意識を持った様々な研究者・調査者たちが、現在の発掘調査のあり方、特に計測・記録・作図・解析・解釈といった場面における問題を語り合う。

「何よりも要請されるのは、技術や手法ではなく受け手側の認識の転換である。」(野口「遺物分布はどのように記録され、理解されてきたのか」)

発表を聞きながら、あるいは配布された最新機器のカタログを見ながら、私たち(特に私)の認識が近年のテクノロジーの進展に全く追いついていないことを痛感する。
そして一方では汚染水漏れを防ぐのに、古新聞を詰めたり、土嚢を積んだりといったことが、考古学における様々な場面でも行なわれているような気がする。

「考古資料の記録化は、主要な情報入手手段である発掘調査という行為を通じて、3次元空間に存在するものを2次元平面に変換する過程といえる。まず遺跡とされた空間に存在する3次元情報を2次元情報へ変換する過程<変換1>であり、発掘調査にはじまり室内整理を経て考古誌の作成をもってひとまず終了する。こうした作業はすべて次の変換過程、すなわち考古誌を読む者が考古誌上に記録された2次元情報から本来存在したであろう3次元情報へ変換する過程<変換2>を前提としている。言い換えれば、<変換1>は文化記述の書き方にかかわる問題、<変換2>は文化記述の読み方にかかわる問題である。」(五十嵐2004「考古記録」『現代考古学事典』同成社)

本研究集会は、まさに<変換1>を主題とするものである。
そして<変換1>を議論する時には、常に<変換2>を意識することで、自分たちが向き合っている相手が<変換1>であることを意識することが肝要である。
<変換2>とは、言い換えれば、「遺跡資料リポジトリ」に代表される事々である(【2009-12-10】、【2011-12-01】、五十嵐2012「考古学における情報公開そして普及」『日本考古学協会第78回総会研究発表要旨』等参照)。
<変換1>のユーザーは、それぞれの調査者である。しかし<変換2>のユーザーは、発表でも触れられていたが、世界中に存在する、そして有効期限のない、無数の人々である。

「何のために発掘しているのか?」
繰返し問い続けなければならない問いである。

「それそれの変換過程において必然的に情報の欠落・歪曲が生じるエントロピー的な不可逆的変化が生じざるを得ない。変換過程のスタート時(本来遺跡地に存在していた状態)とゴール時(読者が考古誌に記載された情報を基に再構成した状態)の落差が、少なければ少ないほど理想的な記録化といえよう。こうした考古記録の変換過程に関する議論が、報告書を「読み解く」作業(史料批判)である。<変換1>の結果であり、<変換2>の基点でもある考古誌は、文字通り考古学という学問営為の結節点である。」(五十嵐2004「考古記録」)

今後の課題として、「考古誌批評」という営為を指摘しておく。

『野川流域の旧石器時代』(明治大学校地内遺跡調査団編2007、六一書房・考古学リーダー11)あるいは『縄文研究の新地平(続々)』(小林謙一・黒尾和久・セツルメント研究会編2012、六一書房・考古学リーダー21)といった特定の時代、地域、考古資料を対象・主題とした研究、すなわち第1考古学から、第2考古学的な主題を対象とした研究へと大きくシフトしていく予兆を感じた。

「現在の日本考古学社会で生産されている論文あるいはシンポジウムにおける発表題目において、空間と時間を限定した主題(たとえば「〇〇地域における〇〇時代の〇〇について」)が圧倒的多数を占めている。対象とする考古資料を時空間軸上に位置づけるこうした諸研究を<第1考古学>としよう。一方で、主題が時空間に限定されることなく、<第1考古学>で用いられている方法・記録化の変換過程を問う諸研究は、従来「考古資料論」と称されてきたが、ここではこうした考古記録の変換過程に関連する諸研究を<第2考古学>としよう。現在の日本考古学において<第2考古学>に注がれる労力は、<第1考古学>に比して圧倒的少数であることが了解される。どちらが優先されるべきという問題ではなく、<第2考古学>の支えなしには、<第1考古学>は存立しえない、という認識が重要である。」(五十嵐2004「考古記録」)

10年ほど前に記した文章である。


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