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李2013「東京国立博物館所蔵の朝鮮半島由来の文化財」 [論文時評]

李 素玲 2013 「東京国立博物館所蔵の朝鮮半島由来の文化財 -小倉コレクション-」『韓国・朝鮮文化財返還問題連絡会議年報2013』:4-12.

Ⅰ はじめに
Ⅱ 日韓会談における文化財論議
 1) 小倉武之助所蔵品から小倉コレクションへ
 2) 個人所有文化財の処遇
Ⅲ 「小倉コレクション目録」の作成
 1) 3種の小倉目録
 2) 植民地期の朝鮮考古学調査
Ⅳ 東京国立博物館東洋館朝鮮室
Ⅴ むすび

「本稿では、小倉武之助所蔵品から「東博」の寄贈小倉コレクションの転化の過程への考察と目録作成の問題を検証する。」(5.)

「小倉武之助所蔵品」は、第4次日韓会談(1958-60)の文化財委員会において、具体的な返還対象として挙げられていた。しかし当時は個人の所有であることを理由に検討はされたものの実際に返還はなされず、最終的な合意議事録(1965)では私有文化財の自発的な寄贈を日本政府が「勧奨」することが記されるにとどまった。
1981年に「小倉武之助所蔵品」は管理団体である財団法人の解散に伴ない東京国立博物館に寄贈されて国有の「小倉コレクション」となった。
この時点で、1965年における「私有財産は返還対象としない」という両国合意の前提が消失したのである。
しかし日本政府は「返還」どころか「勧奨」すら行なうことなく、現在に至っている。

「小倉コレクション」については、3種類の目録の存在が明らかにされた。
1.1954年作成 『小倉家 家蔵美術工芸 考古目録』
2.1958年作成 『小倉保存会 小倉コレクション目録』
3.1982年作成 『東京国立博物館 寄贈小倉コレクション目録』

こうした目録の作成は、榧本杜人氏や有光教一氏が深く関わっていた。
その他、梅原末治氏、藤田亮策氏など朝鮮総督府に関わった植民地考古学人脈が、戦後の様々な場面で効果的に活用されていたことなども明らかにされつつある。

今年1月にリニューアル・オープンした東京国立博物館東洋館5階10室には「映像トランク」と名付けられたスライドショーを上映する装置が設置されている。
その冒頭の文章。
「ここでは、この展示室にある作品が、もともとはどのような場所で生まれた作品なのか、あるいはどのように制作されたのか、などの背景の情報をまとめたスライドショーをみることができます。」

「これだけのコレクションの経緯、コレクターの執念、動機、思想にふれていないのは、なぜか。
リニューアル・オープン以後、朝鮮室の展示内容は小倉コレクションを中心とした観がみられる。小倉コレクションの真髄をなす重要文化財8点がすでに一堂に展示紹介されている。国外への持出が禁止されている金冠塚の遺物も展示された。重要美術品も半分以上を展示しており、徐々に全31点が展示されることであろう。小倉コレクションの重要な遺物である、梁山夫婦塚、昌寧出土の重文の全部、金冠塚といった遺物を眺めながら、はじめて目の当りにするこれらに、感動とともに、複雑な違和感を覚える。「なぜ、ここにある?」」(11-12.)

「映像トランク」が解説しているように、「どのような場所で生まれたのか」とか「どのように制作されたのか」という情報も大切であろう。
しかし特にこの部屋で問われているのは、これらが「どのようにして、ここにもたらされたのか」、「なぜ、ここにあるのか」という情報である。
東洋館5階10室にある素晴らしい考古資料が、例えば2階3室にある楔形文字粘土板のように「イラク考古総局寄贈」とかあるいはミイラのように「エジプト考古庁寄贈」のように記されていたならば、どれだけ心置きなく鑑賞できるだろうか。


タグ:文化財返還
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伊皿木蟻化(五十嵐彰)

「なかでも1953年に朝鮮での経験にもとづき、小倉コレクション(朝鮮関係)を綜合的に調査したのは楽しいことであったらしい。」(町田章1980「編集を終えて」『朝鮮の考古学』榧本杜人、同朋舎出版:442.)
by 伊皿木蟻化(五十嵐彰) (2013-07-12 22:17) 

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