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2013WAC-7(3):返還そして対馬仏像問題 [総論]

セッション2.1F:返還-さらに先へ
2013年1月15日(木)午前8時~10時30分
セッション議長:アンバー・K・アラヌイ(ニュージーランド・テ・パパ・トンガレワ博物館)

セッション要旨
返還問題は、先住民社会だけではなく、祖先の遺物および文化的に重要な品々を彼らの共同体に返還するように合意している国々や諸組織についても、ここ10年で驚くべき進展を見せている。こうした問題については今だに多くの議論が交わされているが、対話に着手して文化的障壁を克服して共同作業を行なうことが、今や現実のものとなりつつある。本セッションに参加した者たちは、こうした諸問題を身近に経験しており、先住民的な視点からだけではなく、返還を経験した様々な話題を提供する組織的な視点から語られる。

1.潮流の変わり目:ニュージーランド、アオテアロアにおける返還(アンバー・K・アラヌイ:ニュージーランド・テ・パパ・トンガレワ博物館)
本発表は、マオリの観点から返還について、特にニュージーランドのテ・パパ・トンガレワ博物館におけるカランガ・アオテアロア返還プログラムの創設以来なされてきた積極的な発展について論じる。それは祖先の遺物を後継コミュニティへ返すこと、ニュージーランドの政府組織との相互関係、国際的な組織および政府と相互関係を構築することなどが含まれる。本発表はニュージーランドの最も重要な考古遺跡の一つであるワイラウ・バーへの返還を通じてアオテアロア(白く長い雲のたなびく地という意味のニュージーランドを表すマオリ語)における考古学に返還がどのようなインパクトを与えるかについて考察する。

2.古代DNAと返還:ニュージーランドにおける事例研究(エリザベス・マティソースミス:ニュージーランド、オタゴ大学)
ワイラウ・バー遺跡はニュージーランドにおける最古の墓地遺跡である。遺跡から復元されたコイウィ・タンガタ(遺体)は2009年までカンタベリー博物館で保管され、テ・ルナンガ・ランギタネ・ワイラウに返還された。こうした返還に伴う諸議論の間、ランギタネは再埋葬プロジェクトに関連してなしうる調査をオタゴ大学と連絡をとりつつ、彼らの先祖に関する情報として利用可能なDNAといった生物学的サンプルおよび他の分析を要請した。本発表はこうしたプロセス、返還プロジェクトのためのDNA調査の結果と可能性を述べる。

3.考古学における指標としての返還(ドロシー・T・リパート:アメリカ、スミソニアン自然博物館)
アメリカにおける返還法(NAGPRA)が成立して以来20年有余の間、考古学は学問としてより統合的なものへと成長してきた。本発表は返還が考古学理論に及ぼした影響の様相を考える。加えて伝統的なケア、記録資料の交換、参照のためのウェブ・サイトの発展が部族集団との相互関係を形成する結果をもたらした。こうした実践的試みの幾つかは法的に要請されたものではなく、法の下における返還であるかないかという区別が重要となる。

4.先住アメリカ人墓地保護・返還法(NAGPRA)のコンテクストにおける実践調査例(ダーレン・モゼルフスキー:アメリカ、カリフォルニア大学バークレー校)
NAGPRAにおける顕著な現代法カテゴリーとしての文化的帰属問題は、先住アメリカ人アイデンティティを構成する法律と考古学の役割および考古学的景観における知識の生産、管理、普及について重要な問題を提起している。本発表は文化的帰属の輪郭と結果という観点による初期の試みである。こうした過程で生み出され発揮される権力的な言説は、ネイティブな文化遺産とそのアイデンティティを巡る物質的で知的なコントロールを競い合う異なった要因として維持されている。

5.アタカメニアン・ミイラ返還の民族誌、儀礼、重要性、2007年チウチウ、アタカマ砂漠(ラウル・J・モリナ:チリ、科学技術研究国家委員会博士研究員)
私たちはミイラ化した遺体の返還に際して、博物館、考古学者、行政機関、先住民コミュニティとして多くの意義と読解を経験した。アタカメニアン・コミュニティが彼らの土地にミイラ化した遺体を再埋葬するようにその返還をアメリカ・インディアン国立博物館と交渉した2007年の事例を分析した。チリ北部、アタカマ砂漠のロア川近く、今は考古遺跡となっているチウチウという町の祖先の墓地から20世紀の初頭に盗まれたミイラ化した遺体返還の最初の事例である。

6.対話を超えて:遺体返還の新たなアプローチ(マルガレット・クレッグ、ノーマン・マクリード:イギリス、ロンドン自然史博物館)
自然史博物館は祖先の遺体の重要性について科学的な議論を行ないつつ、コミュニティの要望と信仰をも尊重する新たなアプローチを追及している。近年の(オーストラリア)トーレス海峡への返還はこうしたアプローチの結果である。2年余りの間、トーレス海峡島民と自然史博物館で訪問と議論が交わされ、遺体の返還と信頼の構築がなされた。こうした信頼構築は実際の返還と双方の理解に大きな役割を果たした。

7、科学とポスト・ソビエト主義が衝突する時:アルタイ山脈における文化的に偏向した脈絡での共同管理(ゲルシアン・プレッツ:ベルギー、ゲント大学、キール・リーブス、ジャン・ブルジョワ:オーストラリア、モナシュ大学)
1993年にロシアの考古学チームがアルタイ山脈のウコク平原で貴重なミイラを発掘した。最初の発見直後から、「ナショナルな文化再興」運動の高揚に呼応した先住アルタイの人々は驚嘆と不快の念を表明し、返還を要求した。このことは最終的に考古学者との軋轢を生み、行政発掘(CRM)を損なうこととなった。民族性、遺産および科学の立場をコンテクスト化し評価するという目的において、私たちはこうした軋轢を克服し、込み入ったソビエト後の文化バイアスに取り組み、ソビエト後の民族ナショナリズム的な現実において科学としての考古学の立場性を追求したい。

これらの諸発表は、私たちの現在と無関係ではない。むしろ密接な関係を有している。なぜなら私たち一人一人が「当事者」であるからだ。
「様々な現代政治的問題が絡むこと」を理由に棚上げすることはできないし、「国政レベルの事案」として頬かむりをすることもできない。
最近、「対馬の仏像盗難問題」について見解が示されたので、参考までに引用する。

対馬の仏像盗難問題に関する私たちの見解
昨年の2012年10月に対馬の海神神社にあった「銅造如来立像」と観音寺の「観世音菩薩坐像」が盗まれ、日本から韓国へと持ち出された。その後、今年1月に韓国で犯人らが検挙され、仏像は警察に押収された。ところが「観世音菩薩坐像」については、14世紀に韓国の寺院で製作され、倭寇によって韓国から略奪されたのだから、日本へ返却しなくてもよいという主張が登場し、忠清南道(チュンチョンナムド)瑞山市(ソサンシ)浮石寺(プソクサ)から仏像の移転禁止仮処分申請が出された。2月25日に大田(テジョン)地方裁判所がこれを認め、仏像は現在、国立文化財研究所に保管されたままである。今後、民事訴訟で争われると、日本の観音寺側が取得証明を求められ、対馬への返還にさらに時間がかかることも予想される。そうした経過が、日韓のメディアで感情的に紹介され、両国間の葛藤を過剰に広げている現状を憂慮する。一連の動きと事件報道が、日本国内の「嫌韓」感情を一層広げている事態に懸念を表明する。

 対馬の仏像は、闇市場での売却を目的に、鍵のかかった寺院から持ち出された盗難品である。窃盗は犯罪であり、たとえどのような動機であろうとも法的かつ道義的に許されない。「略奪」に対して「窃盗」でもって応報するという論理は、到底通用しない。もしも今回、仏像が日本に返却されなければ、違法な文化財窃盗を正当化することになり、新たに盗難の増加を促すことになりかねない。

 「観世音菩薩坐像」が倭寇によって略奪されたという根拠および言説は、現在までのところ、日本側を十分に納得させるものではない。この仏像を「浮石寺に納めた」という記事があるが、対馬の観音寺に関連した言及はない。合法的に日本に渡った記録がないから「倭寇に略奪された」という言説には、論理の飛躍がみられる。いつ頃から対馬に仏像があったのか不明であるし、譲渡を記した古文書が必ず存在するはずと見なすのは困難だからである。

 日本列島と朝鮮半島は一衣帯水の関係にあり、また日本、朝鮮、中国は漢字・仏教文化圏を東アジアで形成し、古来文化交流は頻繁であった。倭寇、豊臣秀吉の朝鮮侵略、韓国併合などの不幸な時期に、日本人が人や物を強奪したという歴史的事実を、日本側は素直に認めなければならない。けれども、人と物の往来が、つねに略奪と被略奪の関係だったとは考えられず、譲渡や売買による取得があったことが認められる場合もある。

 日韓交流の長い歴史のなかで、入手経路の判然としない文化財は、今回の仏像以外にも多数存在し、今後も類似した事件の起きる可能性がある。そこで、取得経路の明白でない文化財が盗難され国外に移転された場合の対処方法を、日韓両国の間で協議する必要性がある。あるいは日韓両国で合意に達しない場合、ユネスコの文化財返還に関する政府間委員会で討議するのも、話し合いで解決する一つの方法である。双方の政府、とくに韓国・文化財庁と日本・文化庁が紛争の解決と予防に向けて、積極的に関与すべきである。関係者やメディアにも、冷静かつ賢明に対処・報道するよう要望する。

 文化財返還問題は、相互理解と文化交流によって解決すべきであり、一方的な解釈や我欲でもって進めると、かえって事態を悪化させてしまうだろう。昨今、日韓関係は領土問題などでぎくしゃくして、ともすると感情的になりがちである。しかし文化財に関しては、互いに尊重しあって人類共有の遺産を後世に伝えるべきであり、ユネスコ憲章にあるとおり、「心の中に平和のとりでを築」くのが基本であると考える。

2013年4月25日
韓国・朝鮮文化財返還問題連絡会議(代表 荒井信一)


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