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新たなプラグマティズム(1) [論文時評]

「新たなプラグマティズム」 ロバート・プルーセル&ステファン・ムロゾフスキー 2010
『現代考古学の理論 -新たなプラグマティズム-(第2版)』ウィリー・ブラックウェル
:3-49.

【2011-1-6】で紹介した読本(リーダー)の編者による巻頭総括論文、本文は34頁、そして14頁にわたる文献リスト、堂々たるレビューである。これぐらいの論文が書けないと、こうした論集の編者は務まらないということか。

言わば、アメリカにおける第2考古学に関する現時点における総括的な文章であり、世界における第2的潮流を伺うのに欠かせない。

「新たなプラグマティズム」とは、何か?
それは、現代社会が要請している社会的な文脈と考古学を明確に統合することをいう。
the more explicit integration of archaeology and its social context in ways that serve contemporary needs

考古学は、常に社会的なコンテキストに置かれ、考古学とその社会性は必然的に絡み合っている。archaeology and the social are inextricably intertwined
考古学は、人類が直面している社会的な挑戦に対して広範な対話をなしていくことができるだろうか。
How can archaeology better contribute to broader dialogues concerning the myriad social challenges humanity faces at this point in its history?
社会理論の発展に対して、考古学という学問が果たす役割とは何だろうか。
What is archaeology's role in the development of social theory?

ここで述べられていることは、考古学という学問が必然的に社会的な文脈の中に位置づけられることであり、政治・経済・文化など様々な現代世界において生起している諸側面と密接に関連するという、言わば当たり前の事柄が表明されているに過ぎない。
しかしこのことをひるがえって、「日本考古学」の状況と照らし合わせて見た場合、その格差に愕然とせざるを得ないのもまた事実である。

文化財返還に関する問題提起に対して、「様々な現代政治的問題が絡むこと」が継続審議の筆頭理由としてあげられ、継続審議を却下する理由として「一学会が扱うべき事案ではなく」とする姿勢と、ここでプルーセル&ムロゾフスキーが提起している方向性とは、全く相容れない(真逆である)ことも明らかであろう。

こうした学問と社会との関係性をポジティブに捉える視点・姿勢、すなわち「新たなプラグマティズム」は、一朝一夕に形成されたわけではないことも、以下の「学問的な不安」Disciplinary Anxieties(4-11.)と題された章で明らかになる。

60年代から70年代にかけて当時主流を占めていた文化史考古学(culture-historical archaeology)に異を唱えた新しい考古学(new archaeology)の登場、70年代から80年代にかけての科学的説明(scientific explanation)に関する議論、遺跡形成論(site formation processes)の衝撃、アナロジー(analogy)に関する論争、考古学の社会的コンテキスト(social context)との関連性などが概観される。

80年代以降は、こうした新しい考古学に対して、ポストプロセス(postprocessualism)が主張され、そこからマルクス主義的アプローチ(Marxist approaches)、ジェンダー考古学(archaeology of gender)、90年代以降は認知プロセス考古学(cognitive processual archaeology)、ジェンダー研究(gender studies)、進化的アプローチ(evolutionary approaches)、ポスト植民地諸考古学(postcolonial archaeologies)、先住民考古学(indigeneous archaeology)といった様々な研究の動向と現状が的確に述べられている。

さらにボアズ以来のアメリカ考古学特有の枠組みである「4分野アプローチ」(four-field approach)に対する近年の批判的な問題提起が、「聖なる包みを剥ぐ」(Unwrapping the Sacred Bundle)という論文集を題材に述べられる。

そして歴史考古学こそが現代の考古学にとって健全なモデルを構成し提示しているとされる。
historical archaeology presents a healthy model for contemporary archaeology

ビンフォード、シファー、ホダー、レンフルー、ティリーといった馴染みの面々のほかに、バトラー、ファノン、サイード、スピヴァック、バーバといった現代思想や文化研究に関する基礎的な素養が欠かせないことも示される。

「日本考古学」も、土器や石器、古墳だけを見つめるのではなく、より広い世界認識が求められている。


タグ:世界考古学
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