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新たなプラグマティズム(2) [論文時評]

歴史考古学の理論 Historical Archaeology in Theory:11-13.

歴史考古学が現代考古学にとって「健全なモデル」healthy model for contemporary archaeologyを提示するとは、どういう意味なのか?
編者の一人であるムロゾフスキーは、歴史考古学が専門であり、思いが込められているセクションである。

アメリカにおける歴史考古学も1970年代前半までは、物質文化を同定する技術的な議論や文献と物質証拠とを対応させる作業が主体を占めていたという。
much of the work in the field revolved around technical discussions of identifying material culture and the issue of reconciling text and material evidence.

現代考古学における歴史考古学が果たした理論的な役割について、幾つかの観点からまとめられている。

まず第1に、スタンレー・サウス1977『歴史考古学の方法と理論』に見られるプロセス的論点と、ジェームス・ディーツ1977『忘れられた小さなモノに』での構造主義的アプローチという理論的違いを巡る論点である。

ディーツは、民俗学者で建築史学者のヘンリー・グラッシーから構造主義に関する影響を受けていた。またディーツが与えた影響も大きく、ピーター・シュミット1978『歴史考古学:アフリカ文化の構造的アプローチ』やメリック・ポナンスキー1966「王位、考古学、歴史的神話」、ルランド・ファーガソン1977『歴史考古学と物質的モノの重要性』など多岐に及ぶ。
歴史考古学を通じて、構造主義とポストプロセス主義とが結びついた点が現代考古学として大きな意味を持つ。

そして第2には、チャールズ・フェアバンクス1958「人類学と差別問題」に端を発するアフリカ系アメリカ人を巡る市民権運動とも直接にリンクする諸研究である。そうした成果の一端が、ランドール・マクガイア&ロバート・ペインター編1991『不平等の考古学』であろう。カリブ海地域を研究対象としたキャスリーン・ディーガンは、クレオール文化が形成される過程において、植民地主義と奴隷制がいかに関係しているかという重要な理論的貢献をなしている。

最後に第3として、歴史考古学は資本主義の進展、および植民地主義、グローバリゼーション、近代性といった現代的な諸概念の相互関係について重要な研究がなされた。
特にマーク・レオン1982「心の復元に関するある意見」は、ディーツとグラッシーが示した方向性をさらに推し進め、歴史考古学を通じて資本主義とその思想的な構造を巡る議論を展開した。
またロバート・ペインター1988「平等と不平等の考古学」は、考古記録をもとに資本主義的生産の連続性を明らかにし、生産と不平等の社会的関係を論じた。
そのほか、エリック・ウルフ1982『歴史を持たないヨーロッパと人々』、フェルナンド・ブローデル1981『15-18世紀の文明と資本主義』、イマニュエル・ウォーラーステイン1974『現代世界システム』などの業績から、マーク・レオン1984『歴史考古学のイデオロギーを解釈する』、ランドール・マクガイア1988「死者との対話:イデオロギーと墓地」、チャールズ・オーサー1988「歴史考古学の権力理論に向けて:入植地と空間」、ステファン・ムロゾフスキー1991「不平等の景観」などなど多産な成果が陸続と生み出されている。

マーク・レオンは、批判理論を導入することで、資本主義考古学へ大きな貢献をなしている(マーク・レオン、パーカー・ポッター、ポール・シャケル1987「批判考古学に向けて」)。彼は、クリストファー・ティリー1981「社会的文化変化の説明のための概念枠」、デヴィッド・メルツァー1981「イデオロギーと物質文化」などから多くの影響を受け、ランドール・マクガイアはさらにより人間的な世界を構築するために資本主義を批判的にとらえていく(1992『マルクス主義考古学』、2006「歴史考古学におけるマルクス主義と資本主義」)。

このように資本主義に焦点を当てることで歴史考古学は、新たな植民地主義、帝国といった現代の諸国家と関連するより広い議論に踏み込んでいくことができる。
historical archaeology can contribute to larger debates concerning neo-colonialism, empire, and their connections to modern nations.

しかし日本において『歴史考古学』という文字を冠した書籍群を通覧しても、こうした問題意識を感じ取ることは殆どできない。
中世や近世を研究対象とした様々なシンポジウム(研究集会)の内容も、「技術的な議論や文献と物質証拠とを対応させる作業が主体を占めて」おり、現代考古学に「健全なモデル」を提示しようとする研究は顕在化していない。


タグ:歴史考古学
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