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埋文委2009「近世城下町における埋蔵文化財の諸問題」 [論文時評]

日本考古学協会埋蔵文化財保護対策委員会2009「近世城下町における埋蔵文化財の諸問題」『日本考古学協会第75回総会 研究発表要旨』:186-7.

「文化庁「10年通知」は既知の「地域において必要なもの」以外の近世遺跡軽視の傾向に拍車をかけた。「10年通知」は、この基準について「適宜合理的に見直すことが必要」とするが、近世遺跡調査の排除を念頭に置いた基準は、調査不実施を主張する有効な楯として使われ、今日に至っている。しかし、近年の地域アイデンティティへの市民意識の高揚を背景に、近世遺跡さらには近・現代遺跡の調査とその成果への関心も強まっており、現場レヴェルでは「10年通知」の実効性は次第に失われてきているともいえる。」(186.)

一方で「有効な楯として使われ」ているものが、他方で「実効性は次第に失われてきている」と相反するものが並立しているのは、いかに?
果たして、「現場レヴェルでは「10年通知」」は、「有効な楯として使われ」ているのか、それとも「実効性は次第に失われてきている」のか、いったいどちらなのだろうか?
あるいはどちらかといったことではなく、ある場所(地域)では「有効な楯」として機能しているのだが、他の場所(地域)では「実効性は失われている」のか。
それとも行政職員(管理職)レベルでは「有効」だが、作業員や調査員レベルでは「実効性はない」のか。
それとも両者が入り乱れて、激しい攻防を演じているということなのか。

「埋蔵文化財調査の役割は、一義的に地域の歴史を明らかにしていくなかで、個々の地域の持つ歴史的・地域的特質および課題を明らかにし、それを踏まえた将来への展望を模索するための素材を提供することにある。従って、時代・場所を問わず、すべての遺跡が「地域において必要なもの」であることに多言は要しないであろう。そして、そうした問題意識に支えられた調査が実施されるなかで、遺跡そのものの持つ力が、国を初めとする行政機関の都合を後景に押しやることになろう。」(186.)

まことに尤もな言である。
しかし「遺跡そのものの持つ力」とは、どのようなものなのか。
そしてそこで言われている「遺跡」とは、どのような「遺跡」を想定しているのだろうか。
その点をはっきりとさせない限り、すなわち<遺跡>問題を明確に認識しない限り、「すべての遺跡が地域において必要なもの」と言われる「すべて」という形容詞がカバーする領域も明確にならないし、「多言は要しない」という断言も限定的なものとならざるを得ないのではないか。

「こうしてみると、近世城下町遺跡の保存問題は背後により大きな問題を抱えていることがわかる。すなわち、それは近世遺跡全体をどう扱うか、であり、つまりは文化庁の「10年通知」そのものを問い直す必要性に迫られているのである。」(187.)

背後にある「より大きな問題」は、「近世遺跡全体をどう扱うか」といったレベルに留まることは不可能であり、必然的に「近現代遺跡全体をどう扱うか」、さらには<遺跡>というものをどのように考えるのかに直結せざるを得ない。
なぜなら
「何より、地中の文化財に対し現代に生きる私たちが優劣をつける、そんなことが許されるのかどうか、あらたな議論が求められている」(187.)からである。
そしてそれは「近年の地域アイデンティティの市民意識の高揚を背景に」「近・現代遺跡の調査とその成果への関心」が強まっているからといったレベルではなく、考古学という学問の本性に起因するものだからである。

「先史中心主義は、また<考古イデオロギー>と言い換えることも可能である。先史社会を復元する特権性が考古学に付与されているという意識が<考古イデオロギー>であり、多くの研究者を呪縛している。特権が実は損失であると気付き、考古学的認識の枠組み(他者表象)を内側から脱中心化していく試み(内破)が要請されている。」(五十嵐2004b「近現代考古学認識論」:343.)

その際に問われるのは、どのような立場からどのようなものを見ているのか(視点・視角・視座)という、すなわちその人の歴史認識の在り様であり、他者をどのように描き出しているのかという自己の欲望の在り方である。

「それにつけても、近・現代の墓標といい、南島・台湾・中国というフィールドといい、旧日本植民地における日本文化受容の様相を解明しようとした意慾的な研究に注目したい(角南聡一郎2008『日系塔式墓標の展開と受容に関する物質文化史的研究』)。」(西谷 正2009「日本考古学研究の動向」『日本考古学年報』第60号:7.)

もし仮に2007年度における近現代考古学に関する「意慾的な研究」が、「旧日本植民地における日本文化受容の様相を解明しようとした」ものだけだとしたら、現在の東アジア近現代史研究からは決して「受容」されることはないだろう。


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