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ジャパネスクから共同態へ [セミナー]

多くのことが話し合われた。

ある場所はたまたま「特に重要である」ということで調査され現在整理作業が行なわれているのだが、その隣の部屋では同じようなものが「重要でない」として報告対象にはならないということについて。
ある場所は古代の<遺跡>として調査されたのだが、実際は古代の<遺跡>ではなく近現代の<遺跡>が調査・報告され、後に「特に重要ではない」として保管されていた資料が廃棄対象になったということについて。
近年その廃棄資料が、ある展示において「重要な」資料として取り上げられたということについて。
ある場所の近世から近現代に至る居住遺構について、近世の出土資料は報告対象となったが、近現代資料は報告から除外するようにという強い指導があったということについて。
ある特定の目的をもった所謂「学術調査」において、特定の時代の包含層に限られた期間内に到達するために、上層に存在したより新しい時代の包含層が「飛ばされた」ということについて。
逆に、ある特定の目的をもった「学術調査」において、上層に存在したより新しい時代の包含層を「きちんと」調査したために、特定の時代の包含層に到達できずに担当者が「飛ばされた」ということについて。

「考古学の構造的特質とは、①:時代を限定しないあらゆる物質資料を対象とするという学的理念にも関わらず、②:先史・原史・古代を学的出発点とするという歴史的経緯があり、③:特に先史については特権的地位に位置しており、④:それにも関わらず発掘という行為は常に上層(新しい堆積物)から開始しなければならない、という幾重にも捩れた矛盾に満ちたものである。」(五十嵐2004b「近現代考古学認識論」:344.)

なぜ、こうした<遺跡>問題が多くの人に受け入れられ、共通認識となり、さらに広がりをもって問題を深めていくことができないのだろうか。それには、きっと私などが思いも至らない深い理由があるに違いない。
例えば・・・

「この問題を過度に詰めない、議論しない、想像しない、はやくわすれる、ことあげしないほうが、おのれの内面にも世間にも波風たてずにすむことを、じつはこの国のみんなが暗黙のうちに弁別している。そういったある種ジャパネスクなたちいふるまいこそ、私たちの日常に滑らかな諧謔と無意識のすさみをもたらしているのではないだろうか。」(辺見 庸2009「犬と日常と絞首刑」『朝日新聞』6月17日:15.)

ある作家がいみじくも喝破したように、「日本考古学」における<遺跡>問題は、死刑制度そして天皇制とも通底する「ある種ジャパネスクなたちいふるまい」と直結しており、そのことが「日本考古学」にある種の「無意識のすさみ」をもたらしているのではないか。

では、どうしたらいいのだろうか。

「運動としての、流動としての共同態は、「信仰なき、掟なき、王なき共同態」である。それは、所有なき、特性なき人間、排除される人間が、抵抗と闘争のなかで、必要に応じて形成する共同態である。このとき、共同態の成員の独自な性格が注目される。所有も特性もない人間の存在は、境界線上にある存在、つまり両義的存在である。それはシステムの内部にありながら、同時に外部へと向かう精神の構えかたをもつ。
こうした存在の仕方からして、自己の同一性を破り、自己を取り巻くシステムの同一化の作用を免れる人間たちのみが、新たな共同態「について語る」ことができる。システム内の「異質の他者」である宿命にある人間たちは、もはや他者を排除することはできないで、到来する他人を、その「同一性」や「身分」証明を要求することなしに、同朋として受容する精神的体制にある。
あるいは反対に、おのれが排除される位置にあることに目覚めた人間たちだけが、排除なき共同態を構成する資格をもつのであり、自己の精神を受容的理性に転換させることができる。そのときにはじめて、敵は友に変換される見込みがある。それは、自生的に異者になっている人間群を、自覚的に異者共同態に組み替える運動でもある。
それは、巨大なシステムに比べてあまりにも小さい運動であるが、しかし決して無ではない。この消極的共同態への動きがこの地球上に実在する可能性がないとすれば、そのときこそ世界を変える希望は完全に消滅するだろうし、人類は永遠に神話的宗教的幻想のなかにまどろむことであろう。」(今村 仁司2003「マルクス -神話的幻想を超えて-」『現代思想の源流』:85-86.)

<遺跡>神話という幻想から目覚めた「あまりにも小さい運動」。しかし「決して無ではない。」
そのことを唯一の希望として、第2考古学という名前の「新しい共同態の形成」を目指して歩いていくことになる。


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