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永沼2009「周知の埋蔵文化財包蔵地について」 [論文時評]

永沼 律朗 2009 「周知の埋蔵文化財包蔵地について」『埋蔵文化財行政研究会 10年の成果と今後の課題』:30-34.

「「周知の埋蔵文化財包蔵地」については、これまでもいろいろ議論されているので、なるべく視点を変えて見ておきたいと思う。そもそも「周知の埋蔵文化財包蔵地」の制度、考え方、取扱いは、社会的に認められ、国民の理解を得られる制度なのかといった視点から見てみたい。」(31.)
ということで、(1)なぜ「周知の埋蔵文化財包蔵地」が問題になるのか、(2)「周知の埋蔵文化財包蔵地」の問題点、ということで何点かにわたって述べられているのだが、どうもそれぞれの問題の本質がしっかりと認識されていないような気がしてならない。

例えば、「包蔵地」と「遺跡」の違いについて。

「埋蔵文化財を包蔵していることと「周知の埋蔵文化財包蔵地」とすべきかどうかは別問題である。埋蔵文化財は包蔵しているのだけれど「周知の埋蔵文化財包蔵地」とはしないということは十分にありえる。つまり、埋蔵文化財が存在することと埋蔵文化財の対象とするかどうか、そして「周知の埋蔵文化財包蔵地」とするかどうかはそれぞれ別の次元で存在する。」(伊藤敏行2005「周知の埋蔵文化財包蔵地の今日的課題」『周知の埋蔵文化財包蔵地の諸課題』平成17年度第1回埋蔵文化財行政研究会発表要旨:11.)

つまり「存在」と「認知」とは別物であるというのである。しかし「存在」とは、「認知」があってはじめて「存在」するのだから、全ては私たちの「認知」の在り方次第ということである。
そしてその「認知」の在り方が、どうも「県民・市民のコンセンサスが得られるかどうか」といったレベルではなく、「10年の成果と今後の課題」を述べるという専門家においてすら本質の把握がなされていないのではないかといった危惧を抱かざるを得ない。

このことは、さらに本来語り得ないものを易々と語ってしまうということに対する危惧、あるいは語り得ると考えているらしいことに対する恐れのようなものに連なっていく。

「遺跡の立地は、人々の諸活動の(ママ)支える基層のようなものといえるだろう。したがって、遺跡立地の評価から、過去人類の諸活動を照射することも無駄ではないと考える。」(山口2009「東京の遺跡立地動態の素描」:2.)

「私たちが現在<遺跡>として認識している概念は、二重の<遺跡>化作用によって構築されている。第1は従来「遺跡形成」(五十嵐1999)と呼ばれてきた事象であり、当事者による大地の痕跡化によって学問対象としての<遺跡>が生じる。第2に私たちの価値観に基づく大地の分節化という<遺跡>化作用によって、「包蔵地」という名の区切られた<遺跡>概念が充当されていく。本来のリゾーム的な<遺跡>が、どのようにして制度としての「包蔵地」に<遺跡>化されていくのかという過程をこそ明らかにしていかなければならない。」(五十嵐2007「<遺跡>問題」:251.)

「行政に携わる専門職員が「遺跡がある」といえば、それは教育委員会が「周知の埋蔵文化財包蔵地」を認めたことになるわけで、このように専門職員が決めることで遺跡の範囲が拡大してきたことに疑問を感じる。」(永沼2009:31.)

まずは「行政に携わる専門職員」が「遺跡とは何か」あるいは「遺跡と包蔵地の違い」ということに関して、しっかりと認識することが必要であろう。

一線をもって隣接している「包蔵地」とは何か。
接している「包蔵地」は、なぜ統合されないのか。
接することはあっても重複することはない「包蔵地」とは何か。
点として重複することはあっても、面として重複することがないのは何故か。
同一の<遺跡>は重複するのに(「複合遺跡」)、なぜ異なる<遺跡>は重複しないのか。
こうした認識の基盤となっている「円筒モデル」を、私たちはいつまで維持することができるのか。

こうした議論を経ることで、はじめて「区切れないものを区切る」意味を明らかにすることができ、そのことによって私たちは<遺跡>という神話的思考から解放されていく道筋を見通すこともできるだろう。

〔付記〕
「「包蔵地」という用語」【2009-05-28】と題した記事に関連して、関係者の文章を改めて読み直してみたのだが(伊藤敏行2004「周知の埋蔵文化財包蔵地」『周知の埋蔵文化財包蔵地の特定』埋蔵文化財行政研究会研究発表論集第7集:89-97. 宮崎 博2005「東京都の周知の埋蔵文化財包蔵地について」『周知の埋蔵文化財包蔵地の諸課題』平成17年度第1回埋蔵文化財行政研究会発表要旨:16-21.など)、東京都における1988年以降の「包蔵地」という用語の新たな用法について言及されている箇所は確認できなかった。
問題は、未だに伏在化しているということなのだろうか。それにしても・・・


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