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森田1972「三宅米吉論」 [学史]

森田 俊男 1972「三宅米吉論」『教育学研究』第39巻 第1号:1-11.

「…三宅が、『記』『紀』の神話、つまり「開闢のことは通常歴史から遂いだすべし」といい、時の文部官僚伊沢修二を名ざしで批判し、国家が、民間の教科書を排除して、一定の教科書を選定・作成することをやめさせようとした、そうした意味での「在野性」からみれば、後期においては、あきらかに天皇制の教学体制への妥協といわざるをえない「転化」があると思はれる。」(2.)

ここには従来の考古学サイドから見た「三宅米吉論」(例えば木代 修一1974「学史上における三宅米吉の業績」『三宅米吉集』日本考古学選集1:1-13.)とは異なる視角から異なる事柄が述べられている。

そもそもなぜ「三宅米吉論」が『教育学研究』という雑誌に掲載されているのかという点からして、考古学界の住人たちはすぐさま理解できないだろう。

新潟英語学校、千葉師範学校、東京師範学校などの教師として、英語・歴史・国語・生物などを教え、教育学術雑誌の編集長をし、考古学に留まらず歴史学・教育史学・国語学・かな文字運動などまさに多彩な活動がなされていた。

「第一に、小学校歴史科からの神話・「開闢」のことの追放にみられる教育と学問との結合の観点、第二の、教育内容の国家統制(検定と採択)への抵抗をふまえての国家からの自由の認識、第三に、日本の民族形成、国民形成(とその歴史)を、世界史のなかでとらえていく、という方法論の歴史学および教育学での追求(日本の独立と「手技」の教育という認識を支えた日本美術史研究)などのもつ可能性である。
それらは、きわめて先駆的であった。まさに、客観的には教育勅語教学体制というもので萌芽的段階で圧殺されてしまう。しかし、日本人民の、とくに小ブルジョア知識人の先進的な部分と、形成されつつある都市プロレタリアートの、自由と平等、民主主義と真の独立(不平等条約の改正)をめざす統一のたたかい、運動に依拠しえたとき -残念ながらそれは、そのときついに形成されなかったのだが- それはどんなに大きな学問的成果をうみだしたことか。」(2.)

彼の「開闢ノコトハ通常歴史カラオイダスベシ」という先駆的な認識(1883「小学校歴史科に関する一考察」『茗渓会雑誌』第11号)は、どのようにして生まれたのか。
一つはスイスの教育者ヨハン・ハインリヒ・ペスタロッチ(1746-1827)の影響である。

「三宅は、「一考察」で、まず第一に科学的な「知識」があたえられねばならない、と主張した。「神代の事」にみられる「開闢の事」、つまりいわゆる神代史を「通常歴史」あら「おいだすべき」であるという主張である。もちろん、たんに反動化へのいかりでそう主張するのではない。歴史学者としては、考古学・人種学・人類学などの「諸学」、「地質天文」などの研究をふまえて、「古伝」による非科学的な考えを克服しなければならないのだ。逆に、その自覚があればこそ自信をもつて、「通常歴史」、つまり小学校の日本史教育から神話を「遂い出」すべきであるとしたのである。」(9.)

こうした真っ当な考え方は、1889年の大日本帝国憲法公布、1890年の教育勅語によって封印され、三宅自身も東京高等師範学校校長、文理科大学学長、帝国博物館総長、帝国学士院会員などの要職を歴任することで以後表明することはなかった。
まさに「先駆性と限界の問題」(1.)である。

「そのころ、公私を問わず先生と談合せねばならぬことが多くなったが、お互に忙しいので、訪問は夜が多かった。先生の小石川原町のお邸付近は、暗い上に大きな犬がいつも吠えるので気味わるかった。今もその声が耳底に残っている。」(石田 茂作1974「三宅米吉先生と私」『三宅米吉集 日本考古学選集1 集報10』:3.)

現在調査中の「原町西<遺跡>」から至近距離に、かつての「三宅邸」があることが分かった。

「1872(明治5)年、13才のとき、在京の父のもとにでた。父は宮内大監であった。そして、慶応義塾に入学した。当時、福澤諭吉は、『学問のすすめ』の続編、『文明論之概略』を執筆しており、塾は、啓蒙活動のもっとも高揚する時であった。
彼は、そこで19歳の高嶺秀夫らに英学を学び、3年にして、たちまち上級に進んだ。しかし、1875年、当時の慶応義塾の政治的雰囲気と政治学に若年の三宅はなじめず退学した(別に尾崎行雄もその時退学している。尾崎とは終生親交している)。」(2-3.)

卒業という「民考三田会」会員資格の要件を満たしていないが、やはり「鼻祖」として位置付けるべきではないか。



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