SSブログ

五十嵐2023d「「文化ジェノサイド」 前田氏の講演と『日本経済新聞』連載記事」

五十嵐 2023d「「文化ジェノサイド」前田氏の講演と『日本経済新聞』連載記事」『中国文化財返還運動を進める会ニュース』第5号:3-4.

運動体の機関紙に、2023年6月18日に行われた「文化ジェノサイドと文化財」と題する講演会とその後の6月26日から30日にかけてに連載された『日本経済新聞』の「略奪文化財のいま」と題する記事を紹介した。

「単に特定の文化財について「返すー返さない」といった個別の問題ではなく、日本の朝鮮植民地支配の必然的結果としての文化財収奪であり、それは現在の朝鮮学校の無償化除外政策にまで至る日本特有の構造的問題として捉える必要性が良く理解できる。」(3.)

国家主義の大きな特徴は、常に敵対する国(敵国)を設定して、その脅威を煽ることによって愛国心を高めることにある。国家主義者は、自らの国を愛することと隣国の人たちと友好関係を築くことが両立するということが理解できない。隣国と親しくすれば、すなわち「反国家的」で「国益」を損なうということになってしまう。
何と単純なのだろう。

そしてその思考の枠組みは常に「国民国家」が単位となっている。そうした「国単位」の思考を強化するのに最も手っ取り早いイベントが「国際運動会」(オリンピック)であり、種目別の「世界大会」(ワールドカップ)である。多くの人は、それらが商業主義に毒されている胡散臭さに気づき始めている。

文化財返還運動も現状の国単位での様々な制約を踏まえて国単位の発想を相対化しつつ、その地で暮らす人々との結びつきを基盤においてなされるだろう。

「前田講演の「100年の空白をどう受け止めるのか」という呼びかけがまだ耳朶に残っている最中の6月26日(月)から30日(金)まで『日本経済新聞』文化欄において「略奪文化財のいま」と題する連載記事が掲載された。ナチスによる略奪美術品を巡る問題から欧米における返還運動の現状、アイヌや琉球の人たちの遺骨返還など幅広く行き届いた取材がなされた記事であった。そしてその最終回は東京国立博物館が所蔵する小倉コレクションの話題であったが、衝撃的なのはそのことに対する東京国立博物館を運営する国立文化財機構のコメントである。「収蔵時点で不法、不正な点がないことを確認しています。したがって(そのような)文化財は存在しないものと認識しています。」(『日本経済新聞』2023年6月30日:38.)」(4.)

1981年に東京国立博物館が「小倉コレクション」の一括寄贈を受け入れた際に、その全点についてコレクターであった小倉氏の入手方法に「不法、不正な点がないことを確認」したのだという。
いったいどうやって、確認したのだろうか?
そしてそうした認識はそれから42年が経過した2023年の時点においても、何ら変更する必要がないと言うのである。
驚くべきことである。
不正と認識していないから、不正な文化財は存在しない?
こんな詭弁は、世界では通用しない。
ICOM(国際博物館会議)が勧告する「正当な注意義務」を明らかに逸脱するこのコメントは、いったい誰の責任のもとで発せられたのだろうか?
国会での質疑に相当する問題発言である。
なお文化財返還に関する世界の潮流については、以下のレポートを参照のこと(韓国・朝鮮文化財返還問題連絡会議ウェブ>資料タブ>論考>森本和男「ドイツがベニン青銅器を返還」:2023年7月)

「国立美術館の所蔵品が意図せざるにもかかわらず略奪品だったとわかったら、世界に恥をさらすことになる。」(2023年6月26日付の第1回の記事中での欧州略奪美術品委員会のアン・ウェバー共同会長の言葉)

東京国立博物館はすでにさらしている恥に、今回の発言によってさらに上塗りをしている。

「「植民点支配という負の歴史」に向き合うのが、ポスト・コロニアルという時代の要請である。東京国立博物館が、東京大学が、京都大学が、そして日本国政府が植民地主義から解放されるのは、いつなのだろうか。

世界には、未来に向けての希望が感じられる。
日本には、未来に向けての希望が感じられない。
日本にも、未来に向けての希望が感じられるようにしたい。」(4.)

nice!(2)  コメント(0) 
共通テーマ:学問

nice! 2

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。