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富山遺跡(承前・年代測定) [捏造問題]

竹岡俊樹2014『考古学崩壊』の「批判の仕方 -富山遺跡について-」(224-233.)と題された箇所は、阿部祥人2004「富山遺跡の「前期旧石器時代」説をめぐって -竹岡俊樹氏の反論にこたえる-」と題する自らに向けて発せられたメッセージを読むことなく執筆されたことが、本人によって明らかにされた。その理由は、「阿部氏の批判などどうでもよかった」というものである。学問研究をなす者としての基本的な姿勢に問題を感じる。
また同書中の「阿部は実際の資料を見ていない」(竹岡2014:232.)という文章は、実は「石器を見る力のない者が実際に石器を見てもそれは見たことにはならない」ということを意味するらしい。あきれ果てた。これでは、氏を相手に「まっとうな議論や論争がなされたことがない」(232.)というのも頷ける。

第4章「捏造発覚後の研究者たちの意見」(121-123.)では、岡村道雄2001「日本列島の前期・中期旧石器研究の展望」『検証 日本の前期旧石器』春成秀爾編、学生社:45-62.がやや詳しく紹介されている。所謂「岡村8条件」である。なお竹岡2014:123.では、更に「砕片の出土」が加わり「9条件」となっている。

「岡村がシンポジウムでこの発表をした、2001年1月(本の出版は5月)当時では、岡村の反論は説得力を持ち、多くの研究者たちが納得した。しかし、結局、藤村が石器を埋めた円形の分布の範囲内だけからナウマン象などの動物由来の脂肪酸が検出され、その分布の中心に炉があったことになる。岡村が根拠としたこれらの「科学」とは何だったのだろうか。」(竹岡2014:123-124.)

こうした文章に引き続いて記されているのが、「使用痕」、「脂肪酸分析」、そして問題の「年代測定」についてである。

「(年代測定)
上高森遺跡の埋納遺構2から出土した部分的に焼けている石器から、電子スピン共鳴法によって、「52~77万年前」という測定結果が出たが、「試料としてスライスした石に、加熱処理を受けていない部分も入っていたため、実際より古い年代の出る可能性があることや、この石に加えられた熱が、十分に熱かったかどうかに疑問が残り、科学的検証に堪える年代というのは難しいだろう」、という意見がある(大岩ゆり2001「ニッポン原人は真暗闇の中に」『立花隆「旧石器発掘ねつ造」事件を追う』朝日新聞社:96.)。しかしどうして、石器の年代と地層の年代とが一致したのだろうか。
岡村が根拠とした「科学」は、信じるに足るものでは全くなかった。
(中略)
旧石器時代研究が科学的であるとは、自然科学によって「科学化」することではなく、まず、分析作業の基礎となる、石器を観察し記述するための標準的な目を形成することである。現在でも自然科学への無条件の依存は14Cによる年代測定を含めて危険である。」(竹岡2014:125-126.)

当然のことながら、読者は竹岡氏が使用痕跡分析、脂肪酸分析、電子スピン共鳴法あるいは14Cなどの年代測定法に対して批判的ないしは懐疑的であると思うだろう。
ところが…

「もう一つの問題である年代測定結果は次のように解釈した。藤村がどこかで拾った石器を寄せ集めて埋めたことは分かった。彼はどこかで本当に古い石器を採取した可能性がある。年代を測定した石器は他のヘラ形石器とは異なる形態を持つ両面加工石器で、石材は富山遺跡の石器と似ている。この資料から、発掘でとらえることを失敗した富山遺跡の年代を推定できるのではないか。」(竹岡2014:98.)

何と!使用痕跡分析、脂肪酸分析、14C年代測定法に対する「無条件の依存」は「危険である」が、電子スピン共鳴法に対する「無条件の依存」は問題なし、ということである。
なぜそのような使い分けが可能なのかという説明は、・・・ない。
こうした考えは、何も今に始まったことではない。

「山形県寒河江市富山遺跡
赤色土層中に包含されていた石器群で、現段階では年代は明らかではない。
(中略)
報告に際して30万年前ころと推定したのは、石器群の様相とともに、上高森遺跡「出土」の石材や風化程度、焼け色が近似した剥片素材の両面加工石器(ヘラ状石器と分類されている)の電子スピン共鳴法による年代測定結果を参考にしたものである。
この遺跡については、その発掘当初から縄文時代とする考えがあるが、攪乱土層中の1点の槍先形尖頭器や焼けた石器の年代測定値をもってその土層中から出土した石器までを縄文時代の所産とみなすことは少々無理があろう。」(竹岡俊樹2001「「前期旧石器」観察記」『SCIENCE of HUMANITY BENSEI』第34号:166.)

富山遺跡の年代を推定するにあたって、富山遺跡から出土した石器の年代測定値(古環境研究所1998「富山遺跡における熱ルミネッセンス年代測定」『富山遺跡発掘調査報告書』:27-28.)をもってすることは「少々無理」があるが、100km近くはなれた捏造遺跡「出土」の石器、出土という用語に括弧を付けなければならない「寄せ集めて埋めた」資料の年代測定値(谷 篤史ほか2002「ESR法による石器の被熱評価と年代測定」『上高森遺跡発掘調査報告書』:95-99.)を参考にすることは「無理」がない、とするのは「少々無理」がある、いやかなり「無理」があるのではないか。


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