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阿部2014「先住民族としてのアイヌ」 [論文時評]

阿部ユポ(一司)2014「先住民族としてのアイヌ -北海道アイヌ協会の活動と国内外の動向-」『日本考古学協会2014年度大会 研究発表要旨』:9-13.

2014年10月11日(土)に北海道伊達市で開催された日本考古学協会大会における公開講演会の発表要旨である。残念なことに発表を聞くことが叶わなかったので、活字からのみの時評である。
以下、見出し項目。

「北海道アイヌ協会の主張と願い -活動を通して-
1.「アイヌ民族が日本の先住民族」との認識は
2.「アイヌ民族」が先住民族と認められ/認められなかった理由
3.日本考古学協会・日本人類学会の社会的役割 *先住民族の視座から
4.「民族共生の象徴となる空間(閣議決定)」の整備
〇アイヌ人骨の返還・集約等について(公益社団法人北海道アイヌ協会)
〇「先住民族の権利に関する国際連合宣言」の主な関係条文
〇研究者側の研究倫理の重要性:世界考古学会議(WAC)における取り組み

以下、若干の文章を紹介。
「アイヌ人骨等の収集・保管並びに研究の経緯や実態については、当該研究者や各大学の責任等に留まらず、これまでの先住民政策や学術研究のあり方などに由来する負の遺産(現在の研究倫理とも大きく乖離した、一方的かつ乱暴な人骨収集、情報開示や説明責任の欠落などの社会的責任や倫理観の欠如が見られ、人種的・民族的偏見を助長・誘因させる価値基準の流布等の行われた)の影響や不信感が残っており、今後の先住民族政策の根幹に関わる解決すべき大きな問題を孕んでいると認識している。」(10.)

北海道大学による報告書が公開されている(「北海道大学医学部アイヌ人骨収蔵経緯に関する調査報告書」(国立大学法人 北海道大学))。同様の資料を収蔵している他大学およびアイヌ関連の考古資料(副葬品)を収蔵している各大学・研究機関も、「情報開示や説明責任」が求められている。

「世界考古学会議では、このように倫理綱領において先住民族との関係、先住民族の文化遺産の帰属、研究者と先住民族との公平なパートナーシップに言及している。その背景には、世界各地の世界文化遺産を含めて多くの歴史文化遺産、考古遺産が先住民族の祖先集団により残されたという事実や、現在においてもそれらの文化遺産が先住民像の伝統的な領域内に所在し、その観光を含めた活用や保存のための取り組みにおいて先住民族の意向や参画が不可欠であるという認識が大きく作用している。
この視点は、過去の研究に大きく影響をおよぼした植民地主義的な影響、人種主義や社会進化論(社会ダーウィニズム)の影響を深く反省し、脱植民地主義的な立場からの研究を目指そうとする姿勢と深く関係している。」(13.)

「世界考古学会議第一倫理綱領」(1990年第2回全体会議制定)が紹介されている。
「脱植民地主義的な立場からの研究を目指そうとする姿勢」を組織としてどのように具体的に表明するのか、あるいは不作為の行為として暗黙裡に表明するのか、世界考古学会議の日本開催を2年後に控えて、日本考古学協会としての見識が世界的に注視されている。

「この報告に対して、東京都の五十嵐彰会員から、理事会で総会の審議事項として取上げないとした理由が国政レベルの事案であるとの記載があるが、国政レベルの事案とは何かとの説明が求められた。
これに対して、田中理事が、国政レベルというより、厳密にいうと、国家間のレベルの問題であり、ユネスコの「文化財の不法な輸入、輸出及び所有権移転を禁止し及び防止する手段に関する条約」に則って、外交によって問題を解決する重要性を説明した。五十嵐会員からは、文化財返還問題は外交及び国際的な問題だけではなく、国内問題で、アイヌ民族の人たちに対する返還問題でもあると考えているとの反論があった。田中理事からは、この要望は理事会で決定したものではなく検討事項になっていると説明し、その点を含めて時間をかける必要があると説明した。」(「日本考古学協会第79回(2013年度)総会次第」『日本考古学協会会報』第179号:6.)

それから1年という「時間をかけ」た結果が、以下の記事である。
「次に田中理事から、昨年度の五十嵐彰会員からの要望について経過報告があった。理事会としては、同会員との面談内容を検討し、情報収集を含めた勉強会を2014年度に発足して対応するとの報告があった。」(「日本考古学協会第80回(2014年度)総会次第」『日本考古学協会会報』第182号:7.)

2014年度も既に過半が経過してしまったが、果たして「勉強会」なるものは「発足」したのだろうか?
もし既に発足しているのなら、2014年度の大会で講演をされた阿部ユポ氏は、その「勉強会」に参加されたのだろうか?

実際に阿部氏の講演を聞かれた方がおられたら、当日の会場の様子などコメント頂ければ幸甚です。


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