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上原2014『石の虚塔』 [全方位書評]

上原 善広 2014 『石の虚塔 -発見と捏造、考古学に憑かれた男たち-』新潮社

「岩宿遺跡の発見」相澤 忠洋 「旧石器の神様」芹沢 長介
歴史を塗り替えた新発見から旧石器発掘捏造事件まで、石に魅せられた者たちの天国と地獄。
二人がもたらした、歴史を塗り変える「新発見」に巻き起こる学術論争、学閥抗争、誹謗中傷―。
そして彼らに続いた藤村新一の「神の手」は、学界を更なる迷宮に巻き込むことに。
知られざる考古学界の裏面史を壮大に描く!! (表紙帯の宣伝文より)

若干の新知見(藤村氏への突撃インタビューなど)あるいは真偽の確かめようのない伝聞情報などは散見するものの、多くは(中に居る人間にとっては)「知られざる裏面史」とは言い難い、よく知られた事柄をまとめたという印象が強い。
そして幾つかの引っ掛かる部分が、全体の信頼性を大きく損なっているという印象もまた強い。
早傘氏が気付いた「誤りないしは不適切な箇所」は140箇所を超えるとのこと!
287頁の本だから、全ての見開きにおいて不適切な記述が見いだされる割合という驚異的なレコードである。

「山内清男は「縄文の父」とまで呼ばれた考古学者で、後に東大名誉教授となったものの、その学究生活は、時には東京大学を飛び出して用紙屋を営みながら研究を行ったほどで、学閥の枠には決してはまらない激しいものだった。」(141-142.)

「山内の三階級特進説」である。
仮に提示されても断っただろうというのが、従来の山内イメージなのだが、それを根底から覆すものである。まさか「死後贈与」ではないだろう。

「杉原 ヨーロッパの文化をいうときには、やはりロアーを使ったほうがいいでしょう。ヨーロッパでいう、レイトと君のほうは合うのですか、また違うのでしょう。
芹沢 ヨーロッパのアーリーとミドルを一緒にすれば、こちらのアーリーになるわけです。
杉原 向こうのアーリー、ミドルというのは、だいたいロアーとミドルのことでしょう。
一見すると小難しい子供の言い合いのようだが、芹沢はここで「日本の旧石器は、ヨーロッパでいう早期と中期を合わせて前期旧石器であり、それ以後は全て後期旧石器とすべき」と言っているのだが、杉原は「いや、ヨーロッパの早期と中期は、日本では大体、後期旧石器に当たる」という趣旨のことを話している。
つまり杉原は、この横文字だらけの会話の中で、遠回しに「前期旧石器など日本にはない」と言いたいのだ。」(162.)

原本(『シンポジウム日本旧石器時代の考古学』学生社1977)の該当箇所(172.)の前後を改めて読み直してみても、杉原が「ヨーロッパの早期と中期は、日本の後期旧石器に当たる」と述べているようには、とうてい読み取れなかった。

「前期のものは、まだ出土例が少なかったこともあり、どうしても層位でしか判断できなかった。だけど石器か自然礫かくらいは、先生じゃなくても、ぼくだってわかりますよ。それだけの数を見てるし、選別してますからね。石器か自然礫かなんて、型式以前の問題だから」」(182-183.)

ここで問うべき問題は、石器か自然礫かの識別以後の、縄紋石器か前期旧石器かの識別なのだが。

「しかも藤村が発見した宮城県中峯Cの石器なんかバラス、つまり線路の敷石まで交じっていたというのに、研究者はそれも見抜けない。これではまるで、専門家が食用キノコと毒キノコの区別もつかないまま商売にしているのと同じこと。」(232.)

有名な「毒キノコ説」である。
ここでも問うべきは、「山形県埋蔵文化財センターの刊行物の年表からは、旧石器時代の遺跡として富山遺跡の名称が削除されていること」(小林2013)という「富山問題」であろう。


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