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【緊急】 日考協問題 [雑]

先週の木曜日(5月16日)、日本考古学協会の担当役員の方から、4月2日付けで提出された総会審議事項(【2013-04-10】参照)は、残念ながら総会で取り上げることができそうにありません、との連絡、今にして思えば「事前通知」があった。
本件については、前述の拙ブログで公開しており、既に私一個人の手を離れており、そうした方々に対して何の説明もなしに取り扱わないというのは、大方の理解を得られないのではないかとお答えした。なにぶん突然の電話での遣り取りであったために十分な応答もできなかったのだが、概ねの論点は以下の通りである。

「1」として提案した戦時期に収奪された文化財に関する取扱いについては、「継続審議とさせていただきたい。」 理由は、「国政レベルでの事案であること。」
この場合の「国政レベル」という言葉がどのようなことを意味しているのか定かではないが、単純には「国の政治」というぐらいの意味であろう。
果たしてどのような事案が「国政レベル」に該当し、どのような事案ならば該当しないのか、単に却下するための口実でないことを示すためにも相応のガイドラインが提示されて然るべきである。

「文化財の略奪…に関与してはならない」というもっともらしい「日本考古学協会倫理綱領」も、「国政レベル」という例外規定を設けることで、空文となる。これは、自らの足元を掘りくずすことになりはしないか?

一般社団法人日本考古学協会は、今後「国政レベル」に関わる案件については「継続審議とする」、すなわち積極的には関与しないとの意思を表明するには、相応の覚悟が必要であろうし、総会における会員の同意もまた求められるであろう。もし日本考古学協会が、今後、国の政治に関わる事案については積極的に関与しないという方針を打ち出したならば、国際交流委員会の「任」とはいったいどのような事柄になるのか、さっぱり解らない。
「広島県の鞆港埋め立て・架橋計画撤回を歓迎する声明」(『会報』177号)も、「埋蔵文化財の発掘調査にかかわる資格制度」(『会報』165号)も、「人文・社会科学系学術推進のための財政的支援をもとめる」(『会報』169号)も、「国の政治」に関わることではないのか?

さらに重要なのは、今回の提案事由には戦時期における大陸や半島などからの収奪文化財だけではなく、当然のことながら国内における他民族、すなわちアイヌの人々への文化財返還をも含意されている。日本考古学協会は、こうした事柄についても「国政レベル」を理由に拒み続けるのだろうか? これは「先住民考古学」(例えば【2012-12-05】を参照)という領域の否認であり、ある意味で世界考古学への大胆な挑戦とも言えよう。

「2」として要望した各委員会の構成員の開示については、「活動に支障が生じるため困難です」とのこと。「どのような支障なのですか?」という問いに対しては、「例えば、新入会員の審査とか…」。
新入会員審査委員会と埋蔵文化財保護対策委員会、協会図書に係る特別委員会についてはまがりなりにも公開されているので問題としていない。求めているのは、公開されていない他の委員会、すなわち機関誌編集委員会、国際交流委員会、研究環境検討委員会、規則等検討小委員会、広報委員会、協会将来構想検討小委員会などのメンバー構成である。
こうした委員名を明らかにするのに、いったいどのような「支障」があるのだろうか? もちろん協会からそれなりの経費も支出されているだろう。誰がどのような委員を委嘱されて、どのような活動をしているのかを知るのは、会員としての権利ではないのか? それともそんなことすら明らかにすることができない「危険」な活動なのだろうか?
考えようによっては、確かに「危険」なような気がしてきた。秘密主義は、こうした不必要な邪推すら招き寄せる。

「自主・民主・平等・互恵・公開」というのが、日本考古学協会が40年前に痛みをもって得た基本原則ではなかったのか?

建前と本音が一致しているのが、本物の学問である。本音を覆い隠して、建前を言うのは、似非学問である。当人もストレスがたまるし、何かとつらいことだろう。この場合の建前とは、世界で流通しうるスタンダードという意である。
学問の世界では(あるいは政治の世界も)あくまでも建前を押し通すというのが最低限の要件である。たとえ本音がどうであろうと、それができなくなったら、その時点で学問の看板を降ろさなくてはならないし、もし降ろしていないとしても、それはもはや学問とは言えない。

本件は、そうした問題である。


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伊皿木蟻化(五十嵐彰)

2013年4月27日開催の理事会議事録が公開された。
以下にコピペする。

議案第143号 第79回総会における審議事項について
大竹理事から、東京都の五十嵐彰会員から第79回総会における審議事項として、①第77回総会時に、倫理綱領に基づき、戦時期に収集された大陸の考古資料について調査を行うよう求めた要望について、2010年の第1回国際交流委員会で検討されたが、再度、見解の説明を希望すること。②当協会に設置されている各委員会の構成メンバーを、日本考古学協会公式サイト及び『会報』紙上において開示を求めることの2点が提出されたとの説明があった。①について審議の結果、倫理綱領は協会員個人の自覚を求めているものであること、国際交流委員会報告(2010年9月理事会・報告第67号)にもあるように「国政レベルでの事案である」ことから、総会の審議事項には取り上げないこととなった。②については、公式サイトでの会員以外の開示には、委員会の性格上、慎重を期す委員会もあるため総務会において整理・検討を行った上で、7月理事会に提案する予定で進めることになり、総会の審議事項とはしないことで、承認した。

「倫理綱領は個人の自覚を求めている」だけで、組織の自覚は求めていない???
「慎重を期す委員会もある」???
今まで「整理・検討を行った」ことがなかった???

by 伊皿木蟻化(五十嵐彰) (2013-05-20 20:36) 

カラス天狗

ご無沙汰しています。
心痛が伝わるコメントでした。
自民の憲法改悪案をめぐる論点として、憲法は国民を縛るものではなく、権力を行使する者を縛るものであることが原則。その原則を、「公」の論理で踏みにじる改悪案には反対という、至極もっともな意見がありますね。倫理綱領は会員個人を縛るが、組織は縛らん・・という話を協会運営を託された理事(あるいは理事会)がもっともらしくいう。なんか自民よりも「改悪」(右傾化)が進んでいるような気がしますね。「民主・公開・自由」のかけ声が空々しく聞こえます。学会は、倫理綱領にうたわれたことを自覚した個人が集まって組織をつくっているのではないのでしょうか。それにしても、戦時期の半島・大陸の収集資料を調査することが、「国政レベルでの事案」になるからできませんという回答はあまりにお粗末です。そもそも学会の国際交流は「民間レベル」での交流でしょう? 「国政」なんか持ち出すのがお門違いのような気がします。ようするにやる気がないのでしょう。だから真剣な訴えに「共感」ができないのかもしれません。あるいは、倫理観や行動規範が根本的に異なると考えるべきなのかもしれません。「民主・公開・自由」そして「倫理」のメッキを一皮剥いだ地金を意識しなければならないのかもしれません。
②については、会員以外に構成者を知られると、まずい委員会があるということでしょうか。その委員会、どんな秘密工作をしているのでしょう。それはそれで興味深い(笑)。こうなったら、まずは、「性格上、慎重を期す委員会」と理事に自覚されている委員会名を知りたいですねえ。いはやはなんともです。
by カラス天狗 (2013-05-21 00:39) 

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