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石原2012「日本の旧石器研究に未来はあるか」 [論文時評]

石原 秀晃 2012 「日本の旧石器研究に未来はあるか」『季刊 邪馬台国』第114号:20-32.

まもなく12回目の記念日がやってくる。西暦の下桁数字は、あれから何年経過したかを繰り返し私たちに告げ知らせる。

「- 捏造を二十数年間も見抜けなかったなんて、考古学では試料吟味がそんなにズサンなものなのかね。
 - 藤村って企業研究所でいえばたかが実験助手じゃないか。アシスタントに全責任を押しつけて研究員や所長が「私は知りませんでした」ですむ話しではないだろう。助手が騙した騙されたはチームの内部マネジメントの問題として内輪で気がすむまで討議すればよいこと。それを外部への言い訳につかうバカがどこにいる。
 - 見逃してきた学界の落ち度も大きい。もともと土地開発業界など特定業界の犠牲、ひいては国民負担の上に社会ニーズとは関係なく水ぶくれしてきたんだから、適正規模に見直すのにちょうどいい機会じゃないの。」(20-21.)

「考古学のこうじ」【2012-10-22】で、「至極真っ当な内容」と評された文章である。

「学界に検証能力がなかった -これが他に類例をみない特徴なのだ。 (中略)
もし日本の旧石器研究者に魂や志があるなら、これを屈辱としないわけがない。なぜ自分たちがこんなに無力だったのかを徹底検証し、原因をつきとめたうえで改めるべきは改めることで、再起を期しただろう。が、現実にとった行動はそうではなかった。」(22.)

求められるべきは、検証の検証である。
そして「職業倫理を置きざりにした<人の道>論」として、稲田孝司2002「考古学の基本と共同幻想」『考古学研究』48-4が採り上げられている。
「たとえば、どんな役所でもワイロをとる役人が稀には出るだろう。だからといって、その役所全体が腐敗していると非難するのは行き過ぎだ。だが、周囲の同僚がそれらしき気配を察しながら<確かな証拠もないのにうかつなことはいえない><人を疑うのは道に反する>と見て見ぬふりをしているなら、これはまぎれもなくモラル・ハザード集団だ。社会はそこから崩れていく。」(27-28.)

改めて稲田2002を読み返す。幾つかを引用してみよう。
「動かぬ証拠をつきつけられることなしに、藤村はねつ造を告白をしなかったはずだ。」[1.]
「ねつ造現場を押さえるか明白な証拠がないかぎり、本気でそれをいうことはできない。」[1.]
「夜の張り込みや盗撮まがいの方法ではなく、学問的にねつ造を暴露できたとしたなら、これほどの痛快事はあるまい。」[3.]
「ねつ造の確たる証拠ももたないのに他人の発掘を疑うようでは、研究者の良識にもとる。」[4.]

動かぬ証拠、明白な証拠がない限り、学問的にねつ造を暴露できないので、残念ながら「痛快事」はあり得ないことになる。褐鉄鉱の付着も、型式学的検討も、「確率統計学」[4.]も、動かぬ証拠、明白な証拠、確たる証拠にはなり得ないだろう。
そしてその結論が「本物の前期・中期旧石器時代遺跡を探索していくこと」[4.]ならば、内向きの論理、「ギルド内部の融和と癒し効果だけを念頭におき、社会へのメッセージを忘却している」(29.)と言われても仕方がないだろう。

では、どうしたらいいだろうか。
何度も繰り返すようだが、何よりも「岡村リスト」の検証作業が必要である(「朝日9/27(3)」【2005-10-1】、「回想(90年代後半・末葉)」【2005-11-05】、「酸素同位体ステージ3の考古学」【2007-10-15】、「最古の心性」【2009-11-5】)。
なぜなら、そこに含まれる「富山問題」は、稲田2002で「ねつ造発覚のあと、フランスに石器型式学の特効薬があるかのような記述を目にするが、ねつさましの薬をのんでからよく吟味した方が無難なようにも思われる」[4.]という文章とも関連し、さらには「私は、石器を観察し分析する力は世界の五指に入ると自負していましたから、これを基礎にすれば世界のどこに行ってもまず大丈夫です。責任を持ちます。」(竹岡俊樹2012「旧石器研究者を語る」『季刊 邪馬台国』第114号:19.)という「熱のさめていない」発言とも関わるからである。

「旧石器研究など不要不急事業の典型のようなもの。かりにフェード・アウトしたり、公費援助を30年くらい凍結して、民間の純粋な自主研究にゆだねたところで国民生活は痛くもかゆくもない。」(31.)という発言に、あるいは冒頭に紹介した一般市民たちの意見に、いったいどのような説得力ある反論をしていくのか。


タグ:捏造
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