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藤田1951「朝鮮古文化財の保存」 [論文時評]

藤田 亮策 1951 「朝鮮古文化財の保存」『朝鮮学報』第1号、朝鮮学会:245-262.

「今ここに半島に於ける過去の文化の研究と保存との実際を想ひ起し、困難のこの事業がいかにして行はれたを報告して置くのも、将来の為めに決して無駄ではあるまい。否、むしろ日本の半島統治の輝かしい記念碑として、広く識者を通じて世界の人々に理解せしめ、同時に半島の人々にこの点だけは永久に記憶することを願つて置きたい。」(246.)

筆者の願いとは別の意味で、「半島の人々にこの点だけは永久に記憶すること」は間違いないところである。

「朝鮮の古文化の研究は日本人によつて開拓せられ日本人の統治の下に完成されんとして居た。これが保存方針は寺内総督の「朝鮮のものは朝鮮に」の信條を墨守し、出来るだけ安全に昔のまゝに元の位置に保護することを根本策として来た。古蹟の修理も博物館の陳列も悉くこの方針に従つたのである。このことは朝鮮を植民地と考へない日本の統治策の根本義でもあつたのである。
今次の戦乱に慶州を除いて扶余・大邱・京城・開城は何れも大小の被害を蒙つて居る。博物館に集められた陳列品がどれだけ散逸したかは知る由もないが、全鮮に昔のまゝに保存されて来た遺跡が悉く失はれることはあり得ない。少くとも大小の報告書・図録・研究論文だけでも莫大の量に上つて居るし、日本の学者と朝鮮の学徒の頭に残つて居るものも貴重の資料である。これのみは日本人が朝鮮と朝鮮人との残した最良の贈物である。」(262.)

著者が「完成されんとして居た」と慨嘆する「朝鮮の古文化の研究」とは、果たして誰のためのどのような研究だったのだろうか。
今こそ「朝鮮のものは朝鮮に」という「根本策」あるいは「根本義」を「墨守」しなければならないのではないか。それが「朝鮮を植民地と考へない」人にとっても、そうではない人にとっても、その人の戦争責任を果すことになるはずである。
どれだけの貴重な朝鮮古文化財が散逸し日本に流出し、日本各地の考古学研究室・美術館・博物館に所蔵されているかについては「日本の学者と朝鮮の学徒の頭に残つて居る」し、それら返すべきものを返すというのが、「日本人が朝鮮と朝鮮人とに」すべき「贈物」などではなく、すべき「義務」なのだと思う。

「日本の周辺の資料が失われ、これを得る方法の見出せないことは、日本文化成立の研究に大きな支障を来すこととなる。とくに朝鮮、中国、台湾、樺太、千島等の調査の絶たれたことは、日本の学者に負わされた最大の損失といえる。朝鮮、満洲、蒙彊、樺太、台湾の考古学的または人類学、民族学的調査は、日本人によつて開拓されて立派な成果を挙げてきたものであつて、他の如何なる点に非難があびせられようとも、考古学的研究とその研究資料保存の業績だけは、永久に世界に誇り得るものと信ずるからである。」(藤田亮策1951「考古学一般」『日本考古学年報』第1号、日本考古学協会:4-5.)

同年にある学会の門出にあたって記された文章だが、全ては以下の一文に言い尽くされている。

「学問と現実の分離こそ、まさに主観的中立主義と史料操作の実証主義によって支えられた官学アカデミズムの歴史的性格であった。現実から離れ、思想を抜きにした資料操作のテクノロジーこそが考古学研究の本領と考え、そう信じたのであるから、当事者たちは反省するどころか逆に実績を誇りとし自負心をもつわけである。」(西川 宏1970「日本帝国主義下における朝鮮考古学の形成」『朝鮮史研究会論文集』第7号:114.)

「学問と現実」を分離して考える分離主義は、戦前の「日本考古学」や藤田1951に限って見られるのではなく、それから半世紀が経過した今も「過去の歴史的事実を研究すること」と文化財返還問題を巡る「様々な現代政治的問題」を区分する考え方(日本考古学協会「2010年6月理事会議事録」)に脈々と受け継がれていることを確認することができる。

「そのように「敗戦によって全く」「意識」を変えなかった「日本の考古学者」とは、まさに登呂遺跡の発掘調査を契機に設立された日本考古学協会設立メンバーのほとんどであったわけで、小稿で名前がでた、藤田・駒井・後藤はその中核にいた。戦後日本考古学の再生は、そのような戦前と何もかわらない歴史認識を保持した学者によって、強力に推進されたのである。」(黒尾 和久2007「日本考古学史研究の課題」『考古学という現代史』:86.)

藤田1951「朝鮮古文化財の保存」に関する読み方については、韓国・朝鮮文化財返還問題連絡会議の李 洋秀氏に多くを負っている。記して感謝したい。


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