SSブログ

「国宝」という問題 [総論]

文化財保護法 第二十七条 文部科学大臣は、有形文化財のうち重要なものを重要文化財に指定することができる。
2 文部科学大臣は、重要文化財のうち世界文化の見地から価値の高いもので、たぐいない国民の宝たるものを国宝に指定することができる。

「国宝 1.国家の宝、くにのたから。 2.重要文化財のうち、特に学術的価値が高いもの、美術的に優秀なもの、文化史的意義の深いものとして、文部大臣が指定した建造物・彫刻・工芸品・古文書など。」『広辞苑』

2010年度分を含めて現時点での総数1082件、今回問題とするのは、ここから建造物(216件)を除いた、美術工芸品(866件)についてである。その内訳は、絵画(158件)、彫刻(126件)、工芸品(252件)、書跡・典籍(223件)、古文書(60件)、考古資料(44件)、歴史資料(3件)である。

「日本の国宝」とは、何となく「たぐいない国民の宝」すなわち「日本を代表する優品」ぐらいに考えていたのだが、どうやら思い違いをしていたようだ。

例えば「絹本著色桃鳩図」(指定番号00006、国:中国、時代:北宋、作者:徽宗)。
例えば「紙本墨画禅機図断簡(寒山拾得図)」(指定番号00088、国:中国、時代:元、作者:因陀羅)。
明確に、中国で中国人によって製作された作品である。
福井県敦賀市所在の「朝鮮鐘」をはじめ、こうした「日本の国宝」は数多い。
すなわち「日本の国宝」とは、「日本で日本人によって製作された文化財」ではなく、単に「日本が持っている宝物」なのである。

「神品」と呼ばれて、今話題の「清明上河図」(中国国家一級文物、国:中国、時代:北宋、作者:張 拓瑞)。
あるいはフェルメールの「真珠の耳飾りの少女」などは、どこに所蔵されていても、オランダという国の宝だと思うのだが。
日本の古美術品の海外流出を防止するための「重要美術品」制定の契機となった「吉備大臣入唐絵巻」(平安時代・12C)は、現在の所蔵者がボストン美術館であろうと、やはり「日本の宝」なのではないか。

だから「絹本著色鳩桃図」は「日本に存在している中国の宝」であろうし、「朝鮮鐘」は「日本に存在している韓国・朝鮮の宝」だと思う。
仮に雪舟の作品が中国で発見されたとして、それはやはり中国の宝(国家一級文物)にはならないのではないか。

こうした「国宝」という問題を扱う際には、以下の2つの点に留意する必要がある。
1.「国宝」というカテゴリー自体が、ある種の「権威付け」に他ならないということ。
2.その権威付けの目的が、他ならぬ「ナショナル・アイデンティティ」であるということ。

その存在自体が問題であることを踏まえた上で、当面はその存在の在り方を問題としていかなければならない。


タグ:国宝
nice!(3)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:学問

nice! 3

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0